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黒ギャルと委員長。水禍村はスイカ禁止です!
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ここは“水禍村”です。
人里離れた山の中にある小さな村ですが、車で一時間も走れば町があります。
不自由はそんなにありません。
電車は一時間に一本しか来ないですが……十分なんです。利用する人がいませんからね。
学校ももちろんあります。小中高一貫です。
一クラス二十人ほどです。少ないですか?
多いとは言えませんが、少なくもないですよね?
申し遅れました。わたくしは如月紅葉と申します。
高校二年生で学級委員長をしています――クラスのみんなには「委員長」って呼ばれてます。
眼鏡……掛けてそうですか?
はい、掛けています……目が悪いので……。
最近、転校生がやって来たんです。
明るい方です。星野さんって言うんですけど、星みたいに明るいです。
それに比べるとわたくしは月ですね……名前にも月って入ってますしね。
脱線しました。
星野さんは都会の方だし……最近の言葉でいうと“黒ギャル”というんですかね?
自由奔放っていうか……クラスの風紀が乱れて困っています。
***
「ひぃ~~! 何を食べているんですかぁ!?」
叫び声とともに、教室の空気が一瞬で張りつめた。
机の上には、大きなタッパーがドンと置かれている。
その中には、赤くみずみずしいスイカがずらりと並び、きらきらと滴をこぼしていた。
夏の太陽、焼けたトースト――それらを思わせる褐色の肌。
口いっぱいに頬張り、膨らむ頬はリスを想像させる。
咀嚼のたびに「シャクシャク」と音がなり、明るい金髪が揺れていた。
「ん~? あっ! さいあくーみつかったー!」
突如、水禍村に転校して来た黒船……ならぬ黒ギャルは言った。
三白眼気味の目を細め、バツの悪そうな表情を浮かべている。
ただし、その言葉に反省の色はなかった。
「この村では夏にスイカを食べちゃいけないんですっ!」
水禍村には“夏にスイカを食べてはならぬ”という“掟”がある。
委員長は細かい理由を知らないが……ただ、そう“決められて”いる。
「はぁ~? スイカって夏にしか食わんくねぇ? てか、うち。夏はスイカしか食わないんよねぇ!」
「さきほど菓子パン……食べていましたよね?」
黒ギャルは平気で嘘を言う。
いや、本人的には嘘のつもりがないのかもしれない、ちょっと話を盛っているだけ。
「え~? みてたん? いいんちょースケベじゃねぇ?」
「何でですか! いや、そうじゃなくてスイカ食べちゃダメです!」
「なんでー? スイカ食うっしょ? ギャルはスイカ食う」
ギャルだけじゃなく、老若男女……イケメンもオタクもスイカは食べる。
「わたくしだって食べます。でも“夏”はダメなんです。これは村の決まり……“掟”なんです!」
「はぁ~? なんで夏にスイカ食べちゃダメなん? 意味わかんなくねー?」
「そもそも、今は授業の合間の休み時間ですからね! 昼休みは終わってるんです! スイカに限らず、何も食べちゃダメなんです!」
「わーかった、わーかった。そんなおこんなし~いいんちょー?」
黒ギャルはそう言いながら、机の横に引っかけていたバッグをガサゴソと漁り始めた。
ピンクのもふもふが付いたポーチ、香水の小瓶、デコられ過ぎたミラーケース……謎のキーホルダー。
彼女の辞書に整理整頓という言葉は存在しないのか――委員長はそんなことを考える。
黒ギャルがあれでもない、これでもないと、鞄をまさぐり続けた後、水筒がひとつ顔を出す。
「……? それは?」
「水筒だけど? 田舎にはないの? 水筒?」
黒ギャルは、水筒をひょいと顔の横に持ち上げる。
首をかしげてきょとんとした表情を魅せる――化粧っ気は強いが、顔立ちは整っている。
ギラついたネイル、ラメ入りのボトル、軽く揺れたストラップがじゃらっと音を立てる。
そのすべてが喧しく、教室の中でひときわ目立っていた。
委員長は思わずこめかみに手をやる。
服装、言葉遣い、校則違反の数々……注意しないといけないことは山ほどある。
だが、今はひとまず水筒だ。
「水筒あります! 田舎にも水筒ありますよ! 何をする気かって聞いたんです!」
「水分補給じゃね? 田舎だと、ワンチャン使い方違う……? 筆箱?」
「一緒ですよ! 田舎でも水筒には飲み物を入れます!」
田舎と言われる度にバカにされてる気がして、委員長は声を荒らげた。
「……麦茶?」
「ダケじゃないですよ! 色々入れますよ!」
「へーそうなん? あっ、とりま水分補給は問題ないよね?」
「はい……水分は補給してください。熱中症になってしまうので――」
委員長の言葉を待たずに、黒ギャルは「ごくごく」と喉を鳴らす。
椅子に座ったままだが、風呂上がりの牛乳を一気飲みするかのように、片手を腰に当てて水筒を掲げていた。
「かぁー! うめー!」
黒ギャルはご満悦の表情。水筒をドンと机に置く。
「あの……ちなみに何を飲んでいるんです? 学校に持ってきて良い飲み物は……お茶かお水……この時期ならスポーツ飲料でも」
委員長がおそるおそる尋ねる。
「スイカ汁」
「スイカ汁っ!?」
黒ギャルはさらりと答え。委員長の声は裏返る。
人気の少ない教室に、一瞬だけ微かなざわめきが走った。
「早起きして絞った」
黒ギャルのドヤ顔。
「手絞りなんですか!? ジュースだしスイカだし、校則としても掟としてもアウトですよ!」
委員長はつい机をバンと叩いた。自覚はない。
「んぐんぐっ」
「ダメって言ってるのに! 堂々と飲まないでっ! 転校生さん!」
「いいんちょー? うちには“翠花”っていう立派な名前あんのねー? ちゃんと名前で呼んでくんねー?」
黒ギャル――“星野翠花"はニヤニヤと笑い、飲み干した水筒をフリフリと振った。
「知ってます! でも、この村は掟でスイカ禁止なんですっ……だから……呼びづらくて……」
「なんでなん? てか翠花って名前が呼びにくいなら星野って苗字で呼べば? てかさぁ――」
翠花は机に肩肘をつき、のんびりと話し続ける。
「名前と食べ物は別っしょ? 犬って名前なら犬食うん?」
「食べませんっ! というか犬なんて名前つけませんっ!」
委員長は思わず張り上げた自身の声に、ハッとする。
急に我に返った。自分でも変なことを言ってしまったと気づき、赤面する。
「その例えは変ですけど、言いたいことは何となくわかります……今のはわたくしがおかしかったです。名前は関係ないですよね……すみません」
しゅんとし、肩を落とす委員長。
「頭がたかいぞー」
椅子の背もたれにふんぞり返り、グイッと胸を張る。
翠花の着崩した制服、ゆるく開いた胸元から、はりのある谷間がちらりと覗いた。
「両親のどちらかがこの村の出なら、その名前、避けたらよかったのに!」
“黒ギャル”……と言うには主語が大きすぎるかもしれない。
だが、少なくとも翠花を相手にするなら、引いてはいけない。
委員長は、そう自覚していた。
「とにかく……スイカは村の掟で禁止なんです……スイカもスイカ汁もやめてください……」
「たくもー、なんなーん? 田舎って謎くねー?」
翠花は腕を組み、ため息をついた。
「掟なんです」
「郷に入れば郷に従えってことー?」
「そうです! 翠花さん、難しい言葉知ってるんですね!」
「さいあくー! ギャルはみんなバカだと思ってるんでしょー?」
口をとがらせて、ちょっと睨むような目つきで言う。
桃色のリップが光を受けて艶めいている。
「うっ……そんなこと……」
「みんなビッチで非行に走ってるとか思ってるんでしょー?」
「思ってません! でも翠花さんは、さっきからずっとスイカ食べてますけどね!!」
ビッチだとは思っていないが、非行には走っている。
委員長はそう感じた。
「とにかくです……もうスイカ持ち込んでませんよね?」
「ないよー」
「スイカチップスとか持ち込んでないですよね?」
「んー? もってきてないよー!」
「白いワタの部分とか、皮ならセーフとか思ってませんか?」
「流石にソレは食わねーし! もうないってば! いいんちょー!」
「そうですか……とにかく“掟”なんです。わたくしだってこんな口煩く言いたくはないんです……でも、“掟”は守らないと翠花さんにスイカの“祟り”が……」
「はー? 祟りって何ー? 腹でも壊すんかぁ!? 田舎まじヤベーんだけどぉ? 教室にクーラーすらないのも考えられん」
胸元をパタパタと仰ぎながら、翠花は不満そうにつぶやいた。
ブラの隙間からチラリとのぞく素肌さえ焼けている。こんがりと一分のムラもない。
汗の滲む褐色の肌は、同性である委員長から見ても、どこか生々しく映った。
匂いは感じない。いや、強めの香水がすべてを上書きしていた。
委員長は、例えようのないむず痒さを覚えながら、「どうやって肌を焼いているんだろう?」そんなどうでもいい疑問で、思考をそっと塗りつぶした。
だが、気づいてしまった。
「何ですかコレは!?」
委員長はずいっと黒ギャルに迫り、たわわに実った房を持ち上げた。
「ん? おっぱい?」
「そうですけど違います! 下着のことです!」
「あー! これ可愛くねぇ? スイカ柄になってるんよぉー!」
翠花は自らの手で、制服のボタンをプチプチと外した。
そして、ためらいもなく胸元をグイッと広げる。
今回は、さすがに教室内がハッキリとざわついた。
だが、そのざわめきはすべて女子の声だった。
男子たちは、一様に何も見えていないかのような顔をしている。
見えていない――そんなことはあるはずがないのに。
「ちょっと! そんな破廉恥な行為やめてくださいっ! 恥ずかしくないんですか!?」
慌てて黒ギャルの胸元を隠そうとする委員長。
刹那――別の考えが脳裏に走った。
「あっ! もしかしてっ!」
椅子に座ったままの黒ギャルに向け、膝を折る委員長。
校則などお構いなしと言わんばかりに、短く履かれたスカートをヒラリとめくる。
「やっぱり下の方もスイカ柄になってる! ダメですよ! こんなの!」
程よく引き締まった健康的な両脚。
その奥にのぞくのは、一見ヒョウ柄にも見えるスイカ柄の下着だった。
およそ女子高生が学校に履いてくるには際どすぎる、最小限の布面積。
だが、ムダ毛のはみ出しなど一切なく、きっちりと手入れが行き届いている。
……いや、もしかすると、その白い……ならぬ、褐色の恥丘には、不毛の大地が広がっているのかもしれない。
「そりゃそーでしょ? うちギャルだよ? トータルコーディネイトは基本じゃね!」
笑って返すその顔に、なぜか薄く朱が差していた。
「てか、委員長……流石にスカートの中に顔ツッコまれるとハズカシ……」
気づけばスカートの中に顔を突っ込んでいる。
黒ギャルはもじもじと内股になり、それ以上の侵入を拒もうとする。
委員長は汗ばむ肌が吸い付く感触、こもった湿り気、香水ではない匂いを感じていた。
「はっ! すみませんっ!」
ハッと、我に返った彼女は、弾かれるように立ち上がった。
「と、とにかく……翠花さん。“校則”も“村の掟”もちゃんと守ってくださいね?」
「えぇ~」
「えぇ~じゃなくて。わたくしは委員長として校内の風紀を守る義務があるんです!」
「そりゃわかるけどぉ? でもさぁいいんちょー?」
翠花はずっと気になっていたことがある。
だが、そのことに触れることはしなかった。
なぜならギャルは気遣いができるからだ、本人が気にしていそうなことをズケズケと指摘したりはしない。
だがもう、踏み込むしかなかった。
「えっ……ちょ、翠花さん!?」
翠花は委員長の背後に周り込むと、バカげた大きさ――まさにスイカのような両胸を持ち上げた。
肩にズッシリとした重さを感じる。
「この胸さぁ大きすぎん? スイカじゃんこんなの! こんなバカみたいな胸こさえて“風紀”とか“掟”とかヤバくねぇ!?」
「ちょちょちょ! やめてください!(//」
少年達を惑わし、すべてを捻じ曲げる重力。
成長を続ければ、いずれその質量はブラックホールと化し、あらゆる理を呑み込むだろう。
すべての視線を引き寄せ、飲み込む教室の特異点。
村一番の“掟破り”は、初めから“教室”に在った。
「これがホントの“淫習村”つってね!」
「揉まないでください~!(////」
ギャルはオチもサービスも抜かりない。
夏にスイカを食べてはいけない――”水禍村”に伝わるこの決まり。
もともとは「食べすぎてお腹を壊さないように」という、ただそれだけの話だった。
だが、いつしか“教え”は“祟り”へと姿を変え、気づけば因習として定着していた。
そうして残るものが“掟”だとしたら――因習村とは、えてしてそうやってできあがるのかもしれない。
人里離れた山の中にある小さな村ですが、車で一時間も走れば町があります。
不自由はそんなにありません。
電車は一時間に一本しか来ないですが……十分なんです。利用する人がいませんからね。
学校ももちろんあります。小中高一貫です。
一クラス二十人ほどです。少ないですか?
多いとは言えませんが、少なくもないですよね?
申し遅れました。わたくしは如月紅葉と申します。
高校二年生で学級委員長をしています――クラスのみんなには「委員長」って呼ばれてます。
眼鏡……掛けてそうですか?
はい、掛けています……目が悪いので……。
最近、転校生がやって来たんです。
明るい方です。星野さんって言うんですけど、星みたいに明るいです。
それに比べるとわたくしは月ですね……名前にも月って入ってますしね。
脱線しました。
星野さんは都会の方だし……最近の言葉でいうと“黒ギャル”というんですかね?
自由奔放っていうか……クラスの風紀が乱れて困っています。
***
「ひぃ~~! 何を食べているんですかぁ!?」
叫び声とともに、教室の空気が一瞬で張りつめた。
机の上には、大きなタッパーがドンと置かれている。
その中には、赤くみずみずしいスイカがずらりと並び、きらきらと滴をこぼしていた。
夏の太陽、焼けたトースト――それらを思わせる褐色の肌。
口いっぱいに頬張り、膨らむ頬はリスを想像させる。
咀嚼のたびに「シャクシャク」と音がなり、明るい金髪が揺れていた。
「ん~? あっ! さいあくーみつかったー!」
突如、水禍村に転校して来た黒船……ならぬ黒ギャルは言った。
三白眼気味の目を細め、バツの悪そうな表情を浮かべている。
ただし、その言葉に反省の色はなかった。
「この村では夏にスイカを食べちゃいけないんですっ!」
水禍村には“夏にスイカを食べてはならぬ”という“掟”がある。
委員長は細かい理由を知らないが……ただ、そう“決められて”いる。
「はぁ~? スイカって夏にしか食わんくねぇ? てか、うち。夏はスイカしか食わないんよねぇ!」
「さきほど菓子パン……食べていましたよね?」
黒ギャルは平気で嘘を言う。
いや、本人的には嘘のつもりがないのかもしれない、ちょっと話を盛っているだけ。
「え~? みてたん? いいんちょースケベじゃねぇ?」
「何でですか! いや、そうじゃなくてスイカ食べちゃダメです!」
「なんでー? スイカ食うっしょ? ギャルはスイカ食う」
ギャルだけじゃなく、老若男女……イケメンもオタクもスイカは食べる。
「わたくしだって食べます。でも“夏”はダメなんです。これは村の決まり……“掟”なんです!」
「はぁ~? なんで夏にスイカ食べちゃダメなん? 意味わかんなくねー?」
「そもそも、今は授業の合間の休み時間ですからね! 昼休みは終わってるんです! スイカに限らず、何も食べちゃダメなんです!」
「わーかった、わーかった。そんなおこんなし~いいんちょー?」
黒ギャルはそう言いながら、机の横に引っかけていたバッグをガサゴソと漁り始めた。
ピンクのもふもふが付いたポーチ、香水の小瓶、デコられ過ぎたミラーケース……謎のキーホルダー。
彼女の辞書に整理整頓という言葉は存在しないのか――委員長はそんなことを考える。
黒ギャルがあれでもない、これでもないと、鞄をまさぐり続けた後、水筒がひとつ顔を出す。
「……? それは?」
「水筒だけど? 田舎にはないの? 水筒?」
黒ギャルは、水筒をひょいと顔の横に持ち上げる。
首をかしげてきょとんとした表情を魅せる――化粧っ気は強いが、顔立ちは整っている。
ギラついたネイル、ラメ入りのボトル、軽く揺れたストラップがじゃらっと音を立てる。
そのすべてが喧しく、教室の中でひときわ目立っていた。
委員長は思わずこめかみに手をやる。
服装、言葉遣い、校則違反の数々……注意しないといけないことは山ほどある。
だが、今はひとまず水筒だ。
「水筒あります! 田舎にも水筒ありますよ! 何をする気かって聞いたんです!」
「水分補給じゃね? 田舎だと、ワンチャン使い方違う……? 筆箱?」
「一緒ですよ! 田舎でも水筒には飲み物を入れます!」
田舎と言われる度にバカにされてる気がして、委員長は声を荒らげた。
「……麦茶?」
「ダケじゃないですよ! 色々入れますよ!」
「へーそうなん? あっ、とりま水分補給は問題ないよね?」
「はい……水分は補給してください。熱中症になってしまうので――」
委員長の言葉を待たずに、黒ギャルは「ごくごく」と喉を鳴らす。
椅子に座ったままだが、風呂上がりの牛乳を一気飲みするかのように、片手を腰に当てて水筒を掲げていた。
「かぁー! うめー!」
黒ギャルはご満悦の表情。水筒をドンと机に置く。
「あの……ちなみに何を飲んでいるんです? 学校に持ってきて良い飲み物は……お茶かお水……この時期ならスポーツ飲料でも」
委員長がおそるおそる尋ねる。
「スイカ汁」
「スイカ汁っ!?」
黒ギャルはさらりと答え。委員長の声は裏返る。
人気の少ない教室に、一瞬だけ微かなざわめきが走った。
「早起きして絞った」
黒ギャルのドヤ顔。
「手絞りなんですか!? ジュースだしスイカだし、校則としても掟としてもアウトですよ!」
委員長はつい机をバンと叩いた。自覚はない。
「んぐんぐっ」
「ダメって言ってるのに! 堂々と飲まないでっ! 転校生さん!」
「いいんちょー? うちには“翠花”っていう立派な名前あんのねー? ちゃんと名前で呼んでくんねー?」
黒ギャル――“星野翠花"はニヤニヤと笑い、飲み干した水筒をフリフリと振った。
「知ってます! でも、この村は掟でスイカ禁止なんですっ……だから……呼びづらくて……」
「なんでなん? てか翠花って名前が呼びにくいなら星野って苗字で呼べば? てかさぁ――」
翠花は机に肩肘をつき、のんびりと話し続ける。
「名前と食べ物は別っしょ? 犬って名前なら犬食うん?」
「食べませんっ! というか犬なんて名前つけませんっ!」
委員長は思わず張り上げた自身の声に、ハッとする。
急に我に返った。自分でも変なことを言ってしまったと気づき、赤面する。
「その例えは変ですけど、言いたいことは何となくわかります……今のはわたくしがおかしかったです。名前は関係ないですよね……すみません」
しゅんとし、肩を落とす委員長。
「頭がたかいぞー」
椅子の背もたれにふんぞり返り、グイッと胸を張る。
翠花の着崩した制服、ゆるく開いた胸元から、はりのある谷間がちらりと覗いた。
「両親のどちらかがこの村の出なら、その名前、避けたらよかったのに!」
“黒ギャル”……と言うには主語が大きすぎるかもしれない。
だが、少なくとも翠花を相手にするなら、引いてはいけない。
委員長は、そう自覚していた。
「とにかく……スイカは村の掟で禁止なんです……スイカもスイカ汁もやめてください……」
「たくもー、なんなーん? 田舎って謎くねー?」
翠花は腕を組み、ため息をついた。
「掟なんです」
「郷に入れば郷に従えってことー?」
「そうです! 翠花さん、難しい言葉知ってるんですね!」
「さいあくー! ギャルはみんなバカだと思ってるんでしょー?」
口をとがらせて、ちょっと睨むような目つきで言う。
桃色のリップが光を受けて艶めいている。
「うっ……そんなこと……」
「みんなビッチで非行に走ってるとか思ってるんでしょー?」
「思ってません! でも翠花さんは、さっきからずっとスイカ食べてますけどね!!」
ビッチだとは思っていないが、非行には走っている。
委員長はそう感じた。
「とにかくです……もうスイカ持ち込んでませんよね?」
「ないよー」
「スイカチップスとか持ち込んでないですよね?」
「んー? もってきてないよー!」
「白いワタの部分とか、皮ならセーフとか思ってませんか?」
「流石にソレは食わねーし! もうないってば! いいんちょー!」
「そうですか……とにかく“掟”なんです。わたくしだってこんな口煩く言いたくはないんです……でも、“掟”は守らないと翠花さんにスイカの“祟り”が……」
「はー? 祟りって何ー? 腹でも壊すんかぁ!? 田舎まじヤベーんだけどぉ? 教室にクーラーすらないのも考えられん」
胸元をパタパタと仰ぎながら、翠花は不満そうにつぶやいた。
ブラの隙間からチラリとのぞく素肌さえ焼けている。こんがりと一分のムラもない。
汗の滲む褐色の肌は、同性である委員長から見ても、どこか生々しく映った。
匂いは感じない。いや、強めの香水がすべてを上書きしていた。
委員長は、例えようのないむず痒さを覚えながら、「どうやって肌を焼いているんだろう?」そんなどうでもいい疑問で、思考をそっと塗りつぶした。
だが、気づいてしまった。
「何ですかコレは!?」
委員長はずいっと黒ギャルに迫り、たわわに実った房を持ち上げた。
「ん? おっぱい?」
「そうですけど違います! 下着のことです!」
「あー! これ可愛くねぇ? スイカ柄になってるんよぉー!」
翠花は自らの手で、制服のボタンをプチプチと外した。
そして、ためらいもなく胸元をグイッと広げる。
今回は、さすがに教室内がハッキリとざわついた。
だが、そのざわめきはすべて女子の声だった。
男子たちは、一様に何も見えていないかのような顔をしている。
見えていない――そんなことはあるはずがないのに。
「ちょっと! そんな破廉恥な行為やめてくださいっ! 恥ずかしくないんですか!?」
慌てて黒ギャルの胸元を隠そうとする委員長。
刹那――別の考えが脳裏に走った。
「あっ! もしかしてっ!」
椅子に座ったままの黒ギャルに向け、膝を折る委員長。
校則などお構いなしと言わんばかりに、短く履かれたスカートをヒラリとめくる。
「やっぱり下の方もスイカ柄になってる! ダメですよ! こんなの!」
程よく引き締まった健康的な両脚。
その奥にのぞくのは、一見ヒョウ柄にも見えるスイカ柄の下着だった。
およそ女子高生が学校に履いてくるには際どすぎる、最小限の布面積。
だが、ムダ毛のはみ出しなど一切なく、きっちりと手入れが行き届いている。
……いや、もしかすると、その白い……ならぬ、褐色の恥丘には、不毛の大地が広がっているのかもしれない。
「そりゃそーでしょ? うちギャルだよ? トータルコーディネイトは基本じゃね!」
笑って返すその顔に、なぜか薄く朱が差していた。
「てか、委員長……流石にスカートの中に顔ツッコまれるとハズカシ……」
気づけばスカートの中に顔を突っ込んでいる。
黒ギャルはもじもじと内股になり、それ以上の侵入を拒もうとする。
委員長は汗ばむ肌が吸い付く感触、こもった湿り気、香水ではない匂いを感じていた。
「はっ! すみませんっ!」
ハッと、我に返った彼女は、弾かれるように立ち上がった。
「と、とにかく……翠花さん。“校則”も“村の掟”もちゃんと守ってくださいね?」
「えぇ~」
「えぇ~じゃなくて。わたくしは委員長として校内の風紀を守る義務があるんです!」
「そりゃわかるけどぉ? でもさぁいいんちょー?」
翠花はずっと気になっていたことがある。
だが、そのことに触れることはしなかった。
なぜならギャルは気遣いができるからだ、本人が気にしていそうなことをズケズケと指摘したりはしない。
だがもう、踏み込むしかなかった。
「えっ……ちょ、翠花さん!?」
翠花は委員長の背後に周り込むと、バカげた大きさ――まさにスイカのような両胸を持ち上げた。
肩にズッシリとした重さを感じる。
「この胸さぁ大きすぎん? スイカじゃんこんなの! こんなバカみたいな胸こさえて“風紀”とか“掟”とかヤバくねぇ!?」
「ちょちょちょ! やめてください!(//」
少年達を惑わし、すべてを捻じ曲げる重力。
成長を続ければ、いずれその質量はブラックホールと化し、あらゆる理を呑み込むだろう。
すべての視線を引き寄せ、飲み込む教室の特異点。
村一番の“掟破り”は、初めから“教室”に在った。
「これがホントの“淫習村”つってね!」
「揉まないでください~!(////」
ギャルはオチもサービスも抜かりない。
夏にスイカを食べてはいけない――”水禍村”に伝わるこの決まり。
もともとは「食べすぎてお腹を壊さないように」という、ただそれだけの話だった。
だが、いつしか“教え”は“祟り”へと姿を変え、気づけば因習として定着していた。
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