黒ギャルと委員長。水禍村はスイカ禁止です!

まけない犬

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黒ギャルと委員長。水禍村はスイカ禁止です!

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 ここは“水禍村すいかむら”です。
 人里離れた山の中にある小さな村ですが、車で一時間も走れば町があります。
 不自由はそんなにありません。
 電車は一時間に一本しか来ないですが……十分なんです。利用する人がいませんからね。
 学校ももちろんあります。小中高一貫です。
 一クラス二十人ほどです。少ないですか?
 多いとは言えませんが、少なくもないですよね?
 
 申し遅れました。わたくしは如月きさらぎ紅葉もみじと申します。
 高校二年生で学級委員長をしています――クラスのみんなには「委員長」って呼ばれてます。
 眼鏡……掛けてそうですか?
 はい、掛けています……目が悪いので……。

 最近、転校生がやって来たんです。
 明るい方です。星野さんって言うんですけど、星みたいに明るいです。
 それに比べるとわたくしは月ですね……名前にも月って入ってますしね。

 脱線しました。
 星野さんは都会の方だし……最近の言葉でいうと“黒ギャル”というんですかね?
 自由奔放っていうか……クラスの風紀が乱れて困っています。

 ***

「ひぃ~~! 何を食べているんですかぁ!?」

 叫び声とともに、教室の空気が一瞬で張りつめた。
 机の上には、大きなタッパーがドンと置かれている。
 その中には、赤くみずみずしいスイカがずらりと並び、きらきらと滴をこぼしていた。

 夏の太陽、焼けたトースト――それらを思わせる褐色の肌。
 口いっぱいに頬張り、膨らむ頬はリスを想像させる。
 咀嚼のたびに「シャクシャク」と音がなり、明るい金髪が揺れていた。

「ん~? あっ! さいあくーみつかったー!」

 突如、水禍村すいかむらに転校して来た黒船……ならぬ黒ギャルは言った。
 三白眼気味の目を細め、バツの悪そうな表情を浮かべている。
 ただし、その言葉に反省の色はなかった。

「この村では夏にスイカを食べちゃいけないんですっ!」

 水禍村すいかむらには“夏にスイカを食べてはならぬ”という“掟”がある。
 委員長は細かい理由を知らないが……ただ、そう“決められて”いる。

「はぁ~? スイカって夏にしか食わんくねぇ? てか、うち。夏はスイカしか食わないんよねぇ!」
「さきほど菓子パン……食べていましたよね?」

 黒ギャルは平気で嘘を言う。
 いや、本人的には嘘のつもりがないのかもしれない、ちょっと話を盛っているだけ。

「え~? みてたん? いいんちょースケベじゃねぇ?」
「何でですか! いや、そうじゃなくてスイカ食べちゃダメです!」
「なんでー? スイカ食うっしょ? ギャルはスイカ食う」

 ギャルだけじゃなく、老若男女……イケメンもオタクもスイカは食べる。

「わたくしだって食べます。でも“夏”はダメなんです。これは村の決まり……“掟”なんです!」
「はぁ~? なんで夏にスイカ食べちゃダメなん? 意味わかんなくねー?」
「そもそも、今は授業の合間の休み時間ですからね! 昼休みは終わってるんです! スイカに限らず、何も食べちゃダメなんです!」
「わーかった、わーかった。そんなおこんなし~いいんちょー?」

 黒ギャルはそう言いながら、机の横に引っかけていたバッグをガサゴソと漁り始めた。
 ピンクのもふもふが付いたポーチ、香水の小瓶、デコられ過ぎたミラーケース……謎のキーホルダー。

 彼女の辞書に整理整頓という言葉は存在しないのか――委員長はそんなことを考える。
 黒ギャルがあれでもない、これでもないと、鞄をまさぐり続けた後、水筒がひとつ顔を出す。

「……? それは?」
「水筒だけど? 田舎にはないの? 水筒?」

 黒ギャルは、水筒をひょいと顔の横に持ち上げる。
 首をかしげてきょとんとした表情を魅せる――化粧っ気は強いが、顔立ちは整っている。

 ギラついたネイル、ラメ入りのボトル、軽く揺れたストラップがじゃらっと音を立てる。
 そのすべてが喧しく、教室の中でひときわ目立っていた。
 委員長は思わずこめかみに手をやる。
 服装、言葉遣い、校則違反の数々……注意しないといけないことは山ほどある。
 だが、今はひとまず水筒だ。

「水筒あります! 田舎にも水筒ありますよ! 何をする気かって聞いたんです!」
「水分補給じゃね? 田舎だと、ワンチャン使い方違う……? 筆箱?」
「一緒ですよ! 田舎でも水筒には飲み物を入れます!」

 田舎と言われる度にバカにされてる気がして、委員長は声を荒らげた。

「……麦茶?」
「ダケじゃないですよ! 色々入れますよ!」
「へーそうなん? あっ、とりま水分補給は問題ないよね?」
「はい……水分は補給してください。熱中症になってしまうので――」

 委員長の言葉を待たずに、黒ギャルは「ごくごく」と喉を鳴らす。
 椅子に座ったままだが、風呂上がりの牛乳を一気飲みするかのように、片手を腰に当てて水筒を掲げていた。

「かぁー! うめー!」

 黒ギャルはご満悦の表情。水筒をドンと机に置く。

「あの……ちなみに何を飲んでいるんです? 学校に持ってきて良い飲み物は……お茶かお水……この時期ならスポーツ飲料でも」

 委員長がおそるおそる尋ねる。

「スイカ汁」
「スイカ汁っ!?」

 黒ギャルはさらりと答え。委員長の声は裏返る。
 人気の少ない教室に、一瞬だけ微かなざわめきが走った。

「早起きして絞った」

 黒ギャルのドヤ顔。

「手絞りなんですか!? ジュースだしスイカだし、校則としても掟としてもアウトですよ!」

 委員長はつい机をバンと叩いた。自覚はない。

「んぐんぐっ」
「ダメって言ってるのに! 堂々と飲まないでっ! 転校生さん!」
「いいんちょー? うちには“翠花すいか”っていう立派な名前あんのねー? ちゃんと名前で呼んでくんねー?」

 黒ギャル――“星野ほしの翠花すいか"はニヤニヤと笑い、飲み干した水筒をフリフリと振った。

「知ってます! でも、この村は掟でスイカ禁止なんですっ……だから……呼びづらくて……」
「なんでなん? てか翠花すいかって名前が呼びにくいなら星野ほしのって苗字で呼べば? てかさぁ――」

 翠花すいかは机に肩肘をつき、のんびりと話し続ける。

「名前と食べ物は別っしょ? 犬って名前なら犬食うん?」
「食べませんっ! というか犬なんて名前つけませんっ!」

 委員長は思わず張り上げた自身の声に、ハッとする。
 急に我に返った。自分でも変なことを言ってしまったと気づき、赤面する。

「その例えは変ですけど、言いたいことは何となくわかります……今のはわたくしがおかしかったです。名前は関係ないですよね……すみません」

 しゅんとし、肩を落とす委員長。

「頭がたかいぞー」

 椅子の背もたれにふんぞり返り、グイッと胸を張る。
 翠花すいかの着崩した制服、ゆるく開いた胸元から、はりのある谷間がちらりと覗いた。

「両親のどちらかがこの村の出なら、その名前、避けたらよかったのに!」

 “黒ギャル”……と言うには主語が大きすぎるかもしれない。
 だが、少なくとも翠花すいかを相手にするなら、引いてはいけない。
 委員長は、そう自覚していた。

「とにかく……スイカは村の掟で禁止なんです……スイカもスイカ汁もやめてください……」
「たくもー、なんなーん? 田舎って謎くねー?」

 翠花すいかは腕を組み、ため息をついた。

「掟なんです」
「郷に入れば郷に従えってことー?」
「そうです! 翠花すいかさん、難しい言葉知ってるんですね!」
「さいあくー! ギャルはみんなバカだと思ってるんでしょー?」

 口をとがらせて、ちょっと睨むような目つきで言う。
 桃色のリップが光を受けて艶めいている。

「うっ……そんなこと……」
「みんなビッチで非行に走ってるとか思ってるんでしょー?」
「思ってません! でも翠花すいかさんは、さっきからずっとスイカ食べてますけどね!!」

 ビッチだとは思っていないが、非行には走っている。
 委員長はそう感じた。

「とにかくです……もうスイカ持ち込んでませんよね?」
「ないよー」
「スイカチップスとか持ち込んでないですよね?」
「んー? もってきてないよー!」
「白いワタの部分とか、皮ならセーフとか思ってませんか?」
「流石にソレは食わねーし! もうないってば! いいんちょー!」
「そうですか……とにかく“掟”なんです。わたくしだってこんな口煩く言いたくはないんです……でも、“掟”は守らないと翠花すいかさんにスイカの“祟り”が……」
「はー? 祟りって何ー? 腹でも壊すんかぁ!? 田舎まじヤベーんだけどぉ? 教室にクーラーすらないのも考えられん」

 胸元をパタパタと仰ぎながら、翠花すいかは不満そうにつぶやいた。
 ブラの隙間からチラリとのぞく素肌さえ焼けている。こんがりと一分のムラもない。
 汗の滲む褐色の肌は、同性である委員長から見ても、どこか生々しく映った。
 匂いは感じない。いや、強めの香水がすべてを上書きしていた。
 委員長は、例えようのないむず痒さを覚えながら、「どうやって肌を焼いているんだろう?」そんなどうでもいい疑問で、思考をそっと塗りつぶした。

 だが、気づいてしまった。

「何ですかコレは!?」

 委員長はずいっと黒ギャルに迫り、たわわに実った房を持ち上げた。

「ん? おっぱい?」
「そうですけど違います! 下着のことです!」
「あー! これ可愛くねぇ? スイカ柄になってるんよぉー!」

 翠花スイカは自らの手で、制服のボタンをプチプチと外した。
 そして、ためらいもなく胸元をグイッと広げる。

 今回は、さすがに教室内がハッキリとざわついた。
 だが、そのざわめきはすべて女子の声だった。
 男子たちは、一様に何も見えていないかのような顔をしている。
 見えていない――そんなことはあるはずがないのに。

「ちょっと! そんな破廉恥な行為やめてくださいっ! 恥ずかしくないんですか!?」

 慌てて黒ギャルの胸元を隠そうとする委員長。
 刹那――別の考えが脳裏に走った。

「あっ! もしかしてっ!」

 椅子に座ったままの黒ギャルに向け、膝を折る委員長。
 校則などお構いなしと言わんばかりに、短く履かれたスカートをヒラリとめくる。

「やっぱり下の方もスイカ柄になってる! ダメですよ! こんなの!」

 程よく引き締まった健康的な両脚。
 その奥にのぞくのは、一見ヒョウ柄にも見えるスイカ柄の下着だった。
 およそ女子高生が学校に履いてくるには際どすぎる、最小限の布面積。
 だが、ムダ毛のはみ出しなど一切なく、きっちりと手入れが行き届いている。
 ……いや、もしかすると、その白い……ならぬ、褐色の恥丘には、不毛の大地が広がっているのかもしれない。

「そりゃそーでしょ? うちギャルだよ? トータルコーディネイトは基本じゃね!」

 笑って返すその顔に、なぜか薄く朱が差していた。

「てか、委員長……流石にスカートの中に顔ツッコまれるとハズカシ……」

 気づけばスカートの中に顔を突っ込んでいる。
 黒ギャルはもじもじと内股になり、それ以上の侵入を拒もうとする。
 委員長は汗ばむ肌が吸い付く感触、こもった湿り気、香水ではない匂いを感じていた。

「はっ! すみませんっ!」

 ハッと、我に返った彼女は、弾かれるように立ち上がった。

「と、とにかく……翠花すいかさん。“校則”も“村の掟”もちゃんと守ってくださいね?」
「えぇ~」
「えぇ~じゃなくて。わたくしは委員長として校内の風紀を守る義務があるんです!」
「そりゃわかるけどぉ? でもさぁいいんちょー?」

 翠花すいかはずっと気になっていたことがある。
 だが、そのことに触れることはしなかった。
 なぜならギャルは気遣いができるからだ、本人が気にしていそうなことをズケズケと指摘したりはしない。
 だがもう、踏み込むしかなかった。

「えっ……ちょ、翠花すいかさん!?」

 翠花すいかは委員長の背後に周り込むと、バカげた大きさ――まさにスイカのような両胸を持ち上げた。
 肩にズッシリとした重さを感じる。

「この胸さぁ大きすぎん? スイカじゃんこんなの! こんなバカみたいな胸こさえて“風紀”とか“掟”とかヤバくねぇ!?」
「ちょちょちょ! やめてください!(//」

 少年達を惑わし、すべてを捻じ曲げる重力。
 成長を続ければ、いずれその質量はブラックホールと化し、あらゆる理を呑み込むだろう。
 すべての視線を引き寄せ、飲み込む教室の特異点。
 村一番の“掟破り”は、初めから“教室ここ”に在った。

「これがホントの“淫習村いんしゅうむら”つってね!」
「揉まないでください~!(////」

 ギャルはオチもサービスも抜かりない。

 夏にスイカを食べてはいけない――”水禍村すいかむら”に伝わるこの決まり。
 もともとは「食べすぎてお腹を壊さないように」という、ただそれだけの話だった。
 だが、いつしか“教え”は“祟り”へと姿を変え、気づけば因習として定着していた。

 そうして残るものが“掟”だとしたら――因習村とは、えてしてそうやってできあがるのかもしれない。
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