キャンピングカーで始める異世界スローライフ

まけない犬

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異世界でガソリンを手に入れる方法

第18話「ガス欠」

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「すまん……ガス欠みたいだ……」

 俺は意を決して口を開いた。
 社会人の基本は報連相だ。悪い知らせほど早く伝える必要がある。

 手遅れになってからでは取り返しがつかない。
 まぁ、すでに手遅れではあるんだが。

「……」
「……」

 エクラのサイドオーニングを引っ張りだし日よけを作る。
 その下に折り畳みのテーブルを配置すれば、立派なダイニングだ。

 ルミがテーブルクロスを広げ、リーシャーが椅子を並べてくれた。
 俺はオーニングのペグを打っただけだが、指示を出したのは俺だ。
 
 木漏れ日がクロスの上に揺れる昼下がり。いまは遅めのランチ中。
 リーシャーが持参してきた食材を使い、茶色いシチューを作った。
 作ったのもリーシャーなんだが、彼女は家事全般なんでもこなす。

 口の悪さに目をつむれば、よい奥さんになれるとおもう。
 しまった……今の時代、こんな台詞自体がアウトだったな。

「なんだ?」

 リーシャーはもう食べ終えて、食器を片づけ始めている。
 ルミの祈りに付き合ってから食べ始めるのに、いつも一番早い。

 俺は祈りに参加しないから誰より先に食べ始める。それでも敵わない。
 ルミの世話があるから急いでいるんだろう。

 俺の食器も片づけてくれたら助かるんだが、そこまではしてくれない。

「いや、だからガソリンがなくなったんだ」
「……?」

 正面に座るルミと目があった。
 スプーンを口にくわえたまま、目をぱちくりしている。

「ガソリンとはなんだ?」

 リーシャーがいぶかしげに言った。

 ああそうか。この世界にガソリンはないのか。
 ここまで走ってきたが、他に車は見かけなかった。馬や馬車だけだ。
 すれ違うたびに驚いた顔を向けられたが……まあ、そりゃそうか。

 捜索隊から逃げるのに必死で、ここ数日がむしゃらに走らせた。
 ペーパードライバーだからか、リッター感覚がない。メーターも見てなかった。
 言い訳にしかならないが、仕方ないだろう。

「エクラを走らせる燃料だよ」
「……つまり、それがきれたら動けないのか?」
「そういうことだね」
「どうするつもりなんだ?」

 当然の疑問だろう。
 だが、その答えを持ち合わせていたら、報告なんてするもんか。

「ああそれだよ。それを相談したい」

 スプーンを置き、腕組みをした。
 椅子に体を預けると、ギギっときしむ音がした。

 ここで申し訳なさそうにすると、リーシャーに怒られるのが目に見えている。
 むしろ堂々とした態度が必要だ、逆ギレと受け取られても構わない。

 俺個人の問題ではなく、チームとして問題であると、当事者意識を植えつけるのだ。

「燃料……燃料……リーシャー。ランタンにつかう油のそなえがありましたよね?」
「はい姫様。それほど多くはありませんが」
「ハンゾーさま。それを使うことはできませんか?」

 ランタンの油……灯油のことかな?

「エクラ。おまえ灯油で走ることはできるのか?」

 カッチ――カッチ――

 ハザードランプが二度点滅した。

「無理らしいね」
「そうですか……すみません」

 ルミが肩を落とした。シュンとした表情だ。
 彼女は、王女様なのだが、魔王ヴェルファイアに受けた呪いにより苦労をしている。

 自己肯定感が妙に高いなと感じるときもあるが、基本的には「すみません」が口癖の女の子だ。

「おいクソ男」

 リーシャーが腕組みして、こちらを睨みつけてくる。
 ルミが謝るたびにメイドに叱られる。もう謝らないでほしい。

「もう一度聞くぞ。どうするつもりなんだ?」
「うーん……そうだなぁ……」

 わからんから「わからん」と、言いたい。
 でも、それなりの案を出し「考えてますよ~」のポーズは必要なんだ。

 社会人にはそういうのが求められる。

「エクラはハイブリッドだから、バッテリーだけで、もうすこし走れるはずなんだ」
「あん? はいぶりっど? ばってりー? 走れないんだろ? いったいどっちだ?」

 リーシャーの眉がゆがむ。

「えーっと電気ってわかる?」
「?」

 ルミが小首をかしげる。スプーンを置いて、こっちを見ている。
 シチューが冷める前に説明を終わらせたい。

「ほら、エクラのライトとかって電気ってエネルギーで動いているんだ。電子レンジとかもそうだ」
「電子レンジとはあれか? 食材を温めるのに使う四角い箱」

 俺はコンビニ弁当を温めるくらいにしか使わないが、リーシャーはすでに応用している。

 硬くなったパンを蒸しタオルで包んで復活させたり、バターを半溶けにしてソースに混ぜたり。
 火がとおりにくいジャガイモの事前調理とかにも使っていた。

 少し説明しただけなのに、俺より使いこなしている。

「そうそう……ああ、そうだ。雷だ、電気ってのは雷のことだよ」

 乱暴な説明だが、他に例えようがない。

「まあ! 雷の力で動いているのですか! 主の奇跡はこんな形でも現れるのですね!」

 ルミがキラキラと目を輝かせ、天に向かって十字をきった。

 この程度の説明で、こんなうれしいリアクションが頂けるとは思わなかった。
 異世界ギャップ――他にもいろいろないだろうか。聞きたいし説明したい。

「だったら、それで動かせばいいだろうが」

 リーシャーはもうちょっと愛嬌あいきょうをもってほしい。

「いくらハイブリッドだとはいえ、メインはガソリンだ。バッテリーだとそんなに長く走れないんだ」

 一番近い街にも届かない。カーナビで確認済みだ。

「それにバッテリーが完全にきれちまうと、それこそアウトだ。エクラの設備がなにも使えなくなる。だから、この場にとどまってどうすればいいか考えたい」

 俺の言葉を聞き終わるなり、リーシャーは立ち上がった。

「姫様、ごゆるりと。オレは少し席を外します。食器の後片付けはその後に……」

 言い残し、立ち去ろうとする。

「あっ、おい。どこいくんだ?」
「ここにとどまるというのなら野営の準備がいる。食料の確保も必要だ」

 リーシャーは視線だけこちらに向けてきた。

「お、おう、そうなのか。てっきり怒っているのかと」
「怒る? なぜだ?」
「こんな森の中に立ち往生することになったからな」

 奥深いというほどでもないが、立派に自然の中だ。
 人が踏み固めた道があり危険はなさそうだが、今は人の気配がない。

些細ささいなことだな。姫様の隣がオレの居場所だ。それにな……ハンゾー。行先は貴様が決めるのだろう?」

 旅のルールその一「行先は俺が決める」だ。

 リーシャーは返事を待たず、背を向けた。ポニーテールが風に揺れる。

 ザッザッザ……

 黒ブーツが、落ち葉を掻き分けかきわけていった。 
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