キャンピングカーで始める異世界スローライフ

まけない犬

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異世界でガソリンを手に入れる方法

第19話「薪割り」

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 俺は聖剣アルファードを肩に背負った。

「フー……フンッ!」

 深呼吸をひとつ。勢いよく振り下ろした。

 ドガッ!

「うわ! あっぶねぇ!」

 狙いすましたはずだったが、薪にはかすりもしなかった。
 黒光りする刃先は地面に食い込んだ。

 あと数センチ横にずれていれば、足の指を飛ばしていたと思う。

 薪割りなんか余裕だと、ふたりに見栄を張ってしまったことが恥ずかしくなる。
 何度やっても上手くいかない。

 腕の筋がピクピクと痙攣し、筋肉痛の兆候を感じる。
 年をとったもんだ……若いころは、これくらい余裕だったのに。

「うーん……うまくいかないな……」

 ハァハァと息が上がる。そんなつもりはないのに。
 はやくしないとリーシャーに馬鹿にされるぞ、俺。

『なんと“情けない”奴』

 ほらこんな風にな……。

「もうすこしだけ待っていてくれよ。すぐにおわるから」

 実際のところ、薪は一本も用意できていない。

 この作業がいつ終わるのかもわからない。
 今日中には終わらない可能性もある。

 それじゃ困るってのもわかっている。
 エクラのバッテリーを節約しないといけないからエアコンは使えない。

 焚き火たきびで暖を取る必要があるのだが、ホームセンターで用意した分はもうない。

 幸い、この辺りには枯れ木が多い。蹴り倒して原木は手に入った。
 今はそれを細かく割ろうとしている段階だ。

「リーシャー?」

 辺りには誰の気配もない。
 聞こえた声はリーシャーだと思ったが、勘違いだったらしい。

「……気のせいか」
『“我”は“木の精霊”ではないぞ』
「うぉ! おのがしゃべったっ!」

 思わずアルファードを投げ捨てた。
 勢いよく飛んでいって、スコーンと木に刺さった。

『おい“我”を手放すな“マスター”』

 頭の中に直接響くような声だ。

「アルファードの声なのか?」
『そうだ“マスター”……“我”は“聖剣アルファード”』

 近寄ってグリップに手を伸ばす。

「……まぁ、異世界だから剣もしゃべるか……いや、オマエはおのだけどな」

 異世界にきて十日ほど。
 この程度のサプライズには慣れた。

 引いても簡単には抜けそうにない。深く刺さってしまったようだ。
 両腕にグッと力を込める。

「マスターってのは俺のことか? よっこいしょぉ!」

 気合を入れるとスポーンと抜けた。

『そうだ“ルミレーゼ・ド・クラリオン”は“オマエ”を選んだ。古の“契約”に従い“力”を貸そう』

 俺はため息をこぼした。

「またその話か……守護騎士だかなんだか知らんが。俺にそんなつもりはない」
『おもしろいな“ハンゾー”……“我”は“力”……皆“力”を求める。“オマエ”は違うのか』
「俺が欲しいのは薪だよ」
『“我”との“契約”はあの娘と共にある。あの娘が決めたのだ“オマエ”が“マスター”だと』

 どいつもこいつも……。

「転生の女神といい、ルミといい……異世界には身勝手な奴ばかりだな」

 吐き捨てた言葉に、アルファードは静かに反応する。

『ふむ……あの“女神”に会ったことがあるのか……そうか“オマエ”もそうなのか』

 オマエも、とはどういう意味だろうか。
 だが、その答えを聞く前に、背後から声がした。

「ハンゾー!」
「うぉ……なんだリーシャーか」

 雑木をかき分けてリーシャーがズカズカと近寄ってくる。

「なんだとはなんだ? オレはずっと貴様に声を掛けていた。貴様はズッとブツブツと独り言だったがな」
「独り言? いや俺はアルファードと……」

 言葉を遮るように、リーシャーが顔を寄せてきた。

「おい貴様っ! よもや聖剣で薪を割ろうとしていたんじゃないだろうな!」

 ご名答。
 しかし、なぜこんなに鼻息が荒いのだろうか。

「薪を用意しろといったのはキミだろう」
「言ったが、聖剣を使えとは言っていない! 愚か者っ!」
おのだぞ? 薪を割る以外にどう使えっていうんだい?」
「聖剣だっ! なんて罰当たりな……ああ! オレが男でないばかりに……!」

 リーシャーは頭を抱え、わなわなと肩を震わせた。
 男だったなら自分が守護騎士になる、とでも言いたげだ。

「ふたりともなにを話しているんですか?」

 騒ぎを聞きつけたのだろうか、ルミもやってきた。

「姫様見てくださいっ! コイツが聖剣を薪割りに使っているんです!」
「薪割り……?」

 ルミが辺りをきょろきょろと見回す。
 どこに薪があるのか探しているのだろう。

 今から用意するところだったんだよ。
 こう邪魔が入っちゃ、いつまで経っても終わらないが。

「姫様もなんとか言ってやってください! 王家の秘宝をこのように扱って……!」
「おおげさだな。ただのキャンプギアだろ?」
「貴様っ!」

 食って掛かろうとするリーシャーをルミがなだめる。

「リーシャーやめなさい」
「しかし……!」
「聖剣アルファードはハンゾーさまのもの。わたしがそう決めたのです」
「むむむっ!」

 リーシャーが不服そうにうなった。

「ハンゾーさま」

 ルミがまっすぐこちらを見つめた。

「どうぞお好きに。その力はすでにハンゾーさまのもの……存分にお振るいください」

 いや、ただのおのだろ?
 しゃべるから普通のおのとは言えないがな。

「まぁ……よくわからんが使わせてもらうよ……さすがに素手では無理だからな」

 そう言いつつ、地面に置いたままの原木の前に立った。

「よっ……と!」

 ズガンッ!

「ああ! うまくいかないなっ……!」

 今回は空振りしなかった。だが、端っこにかすっただけだ。
 ガチッと手ごたえはあったが、薪は割れずに倒れた。

「おいっ! そうじゃないだろう!」

 リーシャーが腕を組み見下ろしてくる。

「なにが?」
「すべて間違っている!」
「えっ?」
「たたいて割ろうとするな素人か! 薪はたたくな! 地面に置くな! 端に刃を食わせて、台で割れ! 素人がっ!」

 素人なのは認めるが、二回も言う必要はないだろう。

 自分には聖剣を握る資格がないから実演はできないと言われた。
 あくまで俺がやらないといけないらしい。

 リーシャーの言うとおりにしたら、あっさりと割れた。
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