私の日常-それぞれの-

林原なぎさ

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碧から見たお話

母について

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まだ3歳になる少し前の夏。


「碧!明後日はみんなでお祭りに行こうか!」


そう言って、笑う母はとても嬉しそうだったことを覚えている。

花火とお祭りに行ってみたい、と思っていたことも覚えているのだ。


多分、そんな私を喜ばせようと思って両親がお祭りに連れ出してくれたのだ。



「碧ちゃんは、俺と手を繋いで行こうか!」


父の友人である、那央さんが手を差し出してきたので、ぎゅっと握った。


母とは待ち合わせなので、父や那央さんと一緒に向かう。


お祭りはどんな所なのだろう、当時の私はうきうきだった。



しかし母や友人の愛歌さんは、知らない男の人と一緒だった。

誰だろう?と思う私とは対照的に父と那央さんはわかるようで。


父は一目散に母の所まで行ってしまい、その一部始終を見ていた那央さんは、けらけら笑っていた。


今思うと、あれはナンパだ。


知らない人達がいなくなり、母の所まで私も駆け寄る。


母は長い髪を結い、藤の花の絵柄に白地の浴衣を着ていた。

見慣れない浴衣姿の母を綺麗だと思った。


初めてのお祭りはもちろん楽しかった。

母を見ると父と手を繋ぎ歩いていた。

母は笑顔だ。

私と一緒に出掛ける時も、父を見送る時も、日常生活では常に笑顔なのだ。


しかし今日の母はいつも違う表情で笑う。


父を見つめる母の横顔は本当に幸せそうで、女性の表情かおをしていた、と気付くのはもう少し大きくなってからだ。


母もなんだかんだ、父に恋をしているのだ。





「碧ってば本当に何でも出来ちゃうのね。」


心底感心したように呟く母は、同じ幼稚園、小学校に通う他のママと比べても若々しく可愛らしい、と思う。


幼稚園から一緒の桜葉おとはは。


「碧のママって本当に可愛いよね。うちの担任、碧のママに気があるでしょう。」


「あはは…。」


2年生になったクラスの担任、村田むらた先生。


私は目撃してしまったのだ。

先生が母を視界に入れた時。

時が止まった様に先生は母をじっと見つめ、母以外の声、姿をシャットアウトしていた。


人が恋に落ちる瞬間を初めて見たのだ。


そんな母が心配な私は村田先生について聞いてみた。


「そうねぇ。若い先生…かなぁ?」


母をじっと見つめていた事について聞いてみるも。


「そうだね。そう言われてみれば…じっと顔、見られてた様な。お母さん、顔に何かついてた?」


やはり予想通りの返しがきた。


母は自分が既婚者で子持ちだという考えからなのか、誰かに好意を寄せられる、とは夢にも思っていないのだ。



私がまだ幼い頃。

母も若く、そして元々の可愛らしさもあって、よく知らない男の人に声を掛けられていた。

あれはナンパだと私でも解るのに。

母は、何だったのかしら?

本人はナンパだと思ってもいない様子だった。


そんな母を心配する父の苦労がわかってしまう。



「歩。」


「おかえりなさい、秀一さん。」


いつもにこにこ笑顔を絶やさない母だが、いつもの笑顔とは違い、嬉しそうな笑みを浮かべ、父をお出迎えする。

当たり前の様に父からのキスを受け入れる母は、やっぱり父の目からみても可愛いのだろう。


いつも笑顔。

'良妻賢母'とは母の為の言葉だろうと、本気で思う程、母は家族にとって良き妻、良き母なのだ。
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