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【第三章】新選組壊滅
総司逝く
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沖田総司は、もはや寝床から一歩も動けないほど衰弱していた。千駄ヶ谷池尻橋の植木屋平五郎の納屋が総司の療養先であり、ほどなく最期の地となる場所であった。
姉のお光が、数日おきに姿をあらわしては看病にあたっていた。その夜、総司は人の気配を感じ目を覚ました。
「おかしいな?」
姉のお光が訪れる時刻ではない。何者であろうか? 薄目を開けた総司は、そこに立ちはだかる一際体格のよい男の姿に驚き、顔色を変えた。
「近藤さん! どうしてここへ?」
総司は思わず寝床から起き上がった。
「何、ちょっとお前の様子が気になったもんでな……」
近藤は笑った。
「戦は? 一体どうなったのですか」
「俺たちが負けるとでも? この先も戦いは続く。いつまで続くかわからねえ。だが俺たちは負けない。いつまででも戦う」
「俺も、戦にゆきたい」
総司は必死に体が動かそうとした。しかし体がいうことをきかない。総司は思わず激しく咳をした。
「歳にもいわれただろ。俺たちが薩長の連中と戦っている間に、お前は病と戦うんだ」
「いやです! 寝てなんていられない。俺も戦う。皆と戦って死ねるなら本望です。このまま寝床の上で朽ちていく自分が嫌なんです」
総司が叫ぶと近藤は深くため息をついた。
「総司、無理をするな……」
総司の表情から笑みが消えた。この時ほど悲しい表情をうかべた近藤を総司は初めて見た。
「もうじき新しい世が訪れるんだ。その時まで、その命大事にとっておけ」
「近藤さん。新しい世の中ってどんな世の中なんですか? もし新しい世が来ても自分には刀しか使えないじゃないですか? それで何ができるんですか」
すると近藤は深く頷く。
「確かに、俺もお前も剣術一途に生きてきた。そのことに悔いはねえ。だがお前にも他の連中にも剣じゃねえ生き方を模索させるべきだったな。まるで時流が読めなかったことは、新選組局長としてこの俺の不覚だ。心残りでならねえ」
「心残りって……。これから死ぬわけでもないでしょうに?」
総司はかすかに笑った。しかし近藤はそれ以上なにもいわなかった。
「近藤さん? どうしたんですか?」
……総司はようやく夢から覚めた。近くに姉のお光がいた。
「どうかしたんですか?」
光が総司の様子をいぶかしんだ。
「今そこに近藤さんが……」
光の表情がくもった。近藤が刑死したという報は、すでに光や総司の周辺の者の耳にも入っていた。しかし彼らは口裏を合わせて、そのことを総司には極秘としていたのである。
「木刀を……」
と総司は幼子が玩具をねだるような目で光に頼み、総司は震える手で、病床で二度、三度木刀を振った。
「合下段の構えより打太刀、仕太刀とも右足より三歩出て中段なり……」
総司はしばし実戦の立ち合いを想定しながら木刀を振ったが、やがてその視界が庭先の黒猫をとらえた時、まったくの無と化した。呼吸が苦しくなり、ついには激しく咳をした。
「お願い無理をしないで!」
光が必死に叫んだ。
結局、総司は近藤を死を知ることなく、これよりおよそ一月後の五月三十日に世を去ることとなる。享年二十七歳だった。
そして世はいよいよ、新選組の多くの隊士たちが見ることができなかった明治へ向かって歩みだすのであった。
(沖田総司の愛刀・菊一文字則宗)
姉のお光が、数日おきに姿をあらわしては看病にあたっていた。その夜、総司は人の気配を感じ目を覚ました。
「おかしいな?」
姉のお光が訪れる時刻ではない。何者であろうか? 薄目を開けた総司は、そこに立ちはだかる一際体格のよい男の姿に驚き、顔色を変えた。
「近藤さん! どうしてここへ?」
総司は思わず寝床から起き上がった。
「何、ちょっとお前の様子が気になったもんでな……」
近藤は笑った。
「戦は? 一体どうなったのですか」
「俺たちが負けるとでも? この先も戦いは続く。いつまで続くかわからねえ。だが俺たちは負けない。いつまででも戦う」
「俺も、戦にゆきたい」
総司は必死に体が動かそうとした。しかし体がいうことをきかない。総司は思わず激しく咳をした。
「歳にもいわれただろ。俺たちが薩長の連中と戦っている間に、お前は病と戦うんだ」
「いやです! 寝てなんていられない。俺も戦う。皆と戦って死ねるなら本望です。このまま寝床の上で朽ちていく自分が嫌なんです」
総司が叫ぶと近藤は深くため息をついた。
「総司、無理をするな……」
総司の表情から笑みが消えた。この時ほど悲しい表情をうかべた近藤を総司は初めて見た。
「もうじき新しい世が訪れるんだ。その時まで、その命大事にとっておけ」
「近藤さん。新しい世の中ってどんな世の中なんですか? もし新しい世が来ても自分には刀しか使えないじゃないですか? それで何ができるんですか」
すると近藤は深く頷く。
「確かに、俺もお前も剣術一途に生きてきた。そのことに悔いはねえ。だがお前にも他の連中にも剣じゃねえ生き方を模索させるべきだったな。まるで時流が読めなかったことは、新選組局長としてこの俺の不覚だ。心残りでならねえ」
「心残りって……。これから死ぬわけでもないでしょうに?」
総司はかすかに笑った。しかし近藤はそれ以上なにもいわなかった。
「近藤さん? どうしたんですか?」
……総司はようやく夢から覚めた。近くに姉のお光がいた。
「どうかしたんですか?」
光が総司の様子をいぶかしんだ。
「今そこに近藤さんが……」
光の表情がくもった。近藤が刑死したという報は、すでに光や総司の周辺の者の耳にも入っていた。しかし彼らは口裏を合わせて、そのことを総司には極秘としていたのである。
「木刀を……」
と総司は幼子が玩具をねだるような目で光に頼み、総司は震える手で、病床で二度、三度木刀を振った。
「合下段の構えより打太刀、仕太刀とも右足より三歩出て中段なり……」
総司はしばし実戦の立ち合いを想定しながら木刀を振ったが、やがてその視界が庭先の黒猫をとらえた時、まったくの無と化した。呼吸が苦しくなり、ついには激しく咳をした。
「お願い無理をしないで!」
光が必死に叫んだ。
結局、総司は近藤を死を知ることなく、これよりおよそ一月後の五月三十日に世を去ることとなる。享年二十七歳だった。
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