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【第三章】明治への道
<榎本武揚の朝廷に対する嘆願書とジュール・ブリュネのナポレオン三世への手紙>
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(榎本武揚の嘆願書)
王政日新は皇国の幸福、我輩も亦希望する所なり。然るに当今の政体、其名は公明正大なりと雖(いえど)も、其実は然らず。王兵の東下(とうか)するや、我が老寡君(かくん)を誣(し)ふるに朝敵の汚名を以てす。其処置既に甚しきに、遂に其城地を没収し、其倉庫を領収し、祖先の墳墓を棄(す)てゝ祭らしめず、旧臣の采邑(さいゆう)は頓(とみ)に官有と為し、遂に我藩士をして居宅をさへ保つ事能はざらしむ。又甚しからずや。これ一に強藩の私意に出(い)で、真正の王政に非ず。我輩泣いて之を帝(てい)こんに訴へんとすれば、言語梗塞(こうそく)して情実通ぜず。故に此地を去り長く皇国の為に一和の基業を開かんとす。それ闔国(こうこく)士民の綱常を維持し、数百年怠惰の弊風を一洗し、其意気を鼓舞し、皇国をして四海万国と比肩抗行せしめん事、唯此一挙に在り。
(ジュールブリュネのナポレオン三世への手紙)
陛下の御命令によって日本に派遣された私は、私の同僚士官たちと共に、陛下の御意に沿うべく全力を尽くしてまいりましたが、日本の内戦により帰国を余儀なくされる事態となりました。しかしながら私は日本にとどまり、フランスに好意をよせる北の大名たち(奥羽諸藩)と共に、我が伝習使節団が達成した成果を明らかにする覚悟であります。
北の大名たちは、私に南の大名たち(薩摩、長州)に対抗する組織の中心となるよう求めております。私はその求めを受けいれました。かって我が使節団が伝習を授けた幕軍千名の補佐を受けるならば、私には五万の同盟軍を率いることも可能だからです。
伝習教官全員をフランスに連れ帰る任務を与えられた使節団長シャノワンヌ大尉、及び公式には中立の立場をとらざえるをえないウトレイ公使を巻き添えにすることをさけるため、私は辞表を残して横浜を去るべきであると考えたのであります。
私は確かに、フランス軍士官としての私の将来を危険にさらしております。しかし私は、幕軍と共に戦う決心をするにあたり、彼らが必ずや私の助言に従うであろうという確信を抱くことができたのであります。日本人がヨーロッパに対して、かくも大きな信頼をよせたことは、かってなかったことであります。彼らの信頼に答えることは、ひいては陛下にお仕えすることであると私は信じたのであります。心ならずも軍規に違反した私をお許しください。
この違反が重大なものであることを私は承知しております。しかし陸軍大臣閣下の承認が届くまでの六カ月間、ただ坐して待つことは、軍事行動における好機をいたずらに失することにつながることでありましょう。
薩長軍にはすでに疲労が見えはじめており、内紛が彼らの力を殺いでいるとはいえ、我らの行く道は困難なものであります。反フランスの立場をとる薩長軍の中には、多数のアメリカ軍士官及びイギリス軍士官が参加しております。
私が陛下が御自らに賜った十字架にかけて、この国にフランスの大義を広めるため全力を尽くすことを誓うものであります。もし幸いにして、陛下が私のささやかな行動を良しとせられるならば、私にとってこれに勝る喜びはありません。
陛下の忠実な僕ジュール・ブリュネ砲兵大尉
王政日新は皇国の幸福、我輩も亦希望する所なり。然るに当今の政体、其名は公明正大なりと雖(いえど)も、其実は然らず。王兵の東下(とうか)するや、我が老寡君(かくん)を誣(し)ふるに朝敵の汚名を以てす。其処置既に甚しきに、遂に其城地を没収し、其倉庫を領収し、祖先の墳墓を棄(す)てゝ祭らしめず、旧臣の采邑(さいゆう)は頓(とみ)に官有と為し、遂に我藩士をして居宅をさへ保つ事能はざらしむ。又甚しからずや。これ一に強藩の私意に出(い)で、真正の王政に非ず。我輩泣いて之を帝(てい)こんに訴へんとすれば、言語梗塞(こうそく)して情実通ぜず。故に此地を去り長く皇国の為に一和の基業を開かんとす。それ闔国(こうこく)士民の綱常を維持し、数百年怠惰の弊風を一洗し、其意気を鼓舞し、皇国をして四海万国と比肩抗行せしめん事、唯此一挙に在り。
(ジュールブリュネのナポレオン三世への手紙)
陛下の御命令によって日本に派遣された私は、私の同僚士官たちと共に、陛下の御意に沿うべく全力を尽くしてまいりましたが、日本の内戦により帰国を余儀なくされる事態となりました。しかしながら私は日本にとどまり、フランスに好意をよせる北の大名たち(奥羽諸藩)と共に、我が伝習使節団が達成した成果を明らかにする覚悟であります。
北の大名たちは、私に南の大名たち(薩摩、長州)に対抗する組織の中心となるよう求めております。私はその求めを受けいれました。かって我が使節団が伝習を授けた幕軍千名の補佐を受けるならば、私には五万の同盟軍を率いることも可能だからです。
伝習教官全員をフランスに連れ帰る任務を与えられた使節団長シャノワンヌ大尉、及び公式には中立の立場をとらざえるをえないウトレイ公使を巻き添えにすることをさけるため、私は辞表を残して横浜を去るべきであると考えたのであります。
私は確かに、フランス軍士官としての私の将来を危険にさらしております。しかし私は、幕軍と共に戦う決心をするにあたり、彼らが必ずや私の助言に従うであろうという確信を抱くことができたのであります。日本人がヨーロッパに対して、かくも大きな信頼をよせたことは、かってなかったことであります。彼らの信頼に答えることは、ひいては陛下にお仕えすることであると私は信じたのであります。心ならずも軍規に違反した私をお許しください。
この違反が重大なものであることを私は承知しております。しかし陸軍大臣閣下の承認が届くまでの六カ月間、ただ坐して待つことは、軍事行動における好機をいたずらに失することにつながることでありましょう。
薩長軍にはすでに疲労が見えはじめており、内紛が彼らの力を殺いでいるとはいえ、我らの行く道は困難なものであります。反フランスの立場をとる薩長軍の中には、多数のアメリカ軍士官及びイギリス軍士官が参加しております。
私が陛下が御自らに賜った十字架にかけて、この国にフランスの大義を広めるため全力を尽くすことを誓うものであります。もし幸いにして、陛下が私のささやかな行動を良しとせられるならば、私にとってこれに勝る喜びはありません。
陛下の忠実な僕ジュール・ブリュネ砲兵大尉
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