終末世界で明日を見る

がみれ

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第一章「希望の光と絶望の認識」

第四話「始まり」

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 必要最低限の物資を持ち、第二次拠点に移動すると伝えられ、名無しらは急いで物資をまとめていた。

「なんかさ、前もこんなのなかった?」

「あったあった。前もこんな感じでね」

 物をまとめ準備ができ、焦りが無くなったせいか、周りの声も聞こえてきた。
 外へ出るのに絶望する人や、いつもの事だと納得する者。そうでないものが話す会話が、少女の耳に聞こえる。

「みんなおかしい」

 外が危険だというのは、おそらく皆等しく知っている。
 だが、急な出来事に納得している人が多数いたため、名無しは違和感を強く感じた。

 何かがずれているような、隊長が言うことに盲目的に従っているような。
 死への恐れは皆、持ち合わせているはずであるのにも関わらず。

「そうだよねー!」

「君は最初からおかしかったよ」

「そうなんだー!」

 (そういえば、氷楼っていう人。あの部屋に置いて行っちゃったけど……)

 名無しは少しだけ、隊長が気がかりになった。
 行かないと死ぬと言われたということは、ここが危険になるということだ。このまま置いていけば、死んでしまうかもしれない。

「………ちょっと待ってて。すぐ来るから」

「り!」

 石材の上を駆け、行き当たる人に居場所を聞き、名無しはある部屋の前に着いた。

 そして、何より名無しは隊長の判断に納得できずにいた。
 何で理由も無しに危険を冒さなければいけないのか。これだけの人数を外に放り出して、見殺しにする気なのかと。

 直接行って確かめる必要があった。
 扉を豪快に音を立て開け、部屋に入ると、その男は非常事態にも関わらず、呑気に寝ていた。

「起きて」

 両手で力いっぱい体を揺らすが、眉ひとつ動かない。
 名無しは手を止め、思案する。

「起きてってばー!!」

 結果、少女は氷楼の両手を無理やり引っ張ることにした。

「あ」

 力差が大きいせいか、手が滑り、起き上がった体がベッドに再び戻された。
 結果、特に意図していない力技によって、氷楼を起こすことに成功した。

「あ?誰だ」

「私」

 頭に手を当て、半目を開ける氷楼。
 確認し、すぐに目を瞑ろうとしたため、名無しは二、三冊の本を氷楼の腹あたりにぶつけた。

「痛たッ…。なんだ……?って乗せるのをやめろ。起きたから」

 七冊ほど乗せたところで、氷楼の体を起こすことができた。
 起こした後、名無しは持った二冊の本を氷楼に置いた。

「まさか、また会うことになるとはな」

「ひとつ聞きたい事がある。いや、やっぱ三つ」

「答えられる範囲かつ手短にな」

「まず一番聞きたい事。何で拠点を移動しなくちゃならないの?」

「それはいろいろあって言えないな」 

「聞きたい事が四つになった」

「いろいろは言わないぞ」

「ケチ」

「それで、二つ目は?」

「何でみんな納得してるの?理由もなしに」

「納得はしてないな、おそらく。けど、そういう事を聞きたいんじゃないんだろ。納得しなくても、何も言わずに従う理由の方を聞きたいんだろ?」

「うん」

「一言で言えば信頼だな。これ以外は、知識が豊富とかそんぐらいだ」 

「信頼。例えば人を救って恩を売るとか?」

「それもあるな。ちなみに一応言うが俺は一言もお前を救うよう誰かに言っていない、その頃は夢の中だったからな」

「別に疑ってないけど。じゃあ最後、動かなくてもいいの?」

「俺は平気だ。理由はさっきと同じで言えないけどな」

「そ、ならいいや」

「行くのか?」

「うん」

「俺からも一ついいか」

「うん」

「どれが本命だったんだ?」

「……二つ目かも。でも三つ目だけでも多分来てた」

「そうか。優しいな」

 名無しが部屋を出て扉が締まり、部屋が暗くなるのと同じように、氷楼はベッドに沈んだ。

「そんな未来は無かったよ」

 扉の奥から声が聞こえた気がした。

「寝てたのに少し病人に悪いことしたかも。て、そんな事より早く戻らないと」

 時計がないせいか時間感覚がわからない。二時間以内とは言っていたが、間に合うか不明だ。景色が変わらない土の通路を走る。

 迷っている暇はない。
 記憶を頼りに来た道を折り返す。

「誰もいないとこんな不安なんだ」

 灯りが灯り、さっきまで誰かが話していたその場所はもう何もない。
 名無しは全力でさっきの場所をめがけて走り、身に覚えのある子を見つけた。

「あー遅刻だ!!」

「ごめん、はぁはぁ…みんなは?」

「入口。早く!!」

 その声にはいつもの元気な様はあったが、不安と焦りが入り混じり、笑みを失っていた。声も不安を隠すためか、幾分大きい。

「わざわざ待ってたの?」

「お姉ちゃんがいないとつまんないから!!」」

 (私なんか面白いことしたっけ?思い返してもただ元気な大型犬にじゃれつかれてたみたいな気がする)

「お姉ちゃん、おんぶ」

「ま、いっか」

 ミージュをおんぶしまた名無しは走り続ける。
 ここから東門まで距離は近く、すぐにたどり着く事ができた。

「お、来よったな」

 狼のような尻尾と耳が付いている、訛が入った大人の男が、岩に腰掛けている。

「間に合いましたか?」

「一分遅れやけど誤差や誤差。遅れてない」

 周りの物静かな雰囲気から誰もいないことが、分かる。
 きっと別拠点へ既に、向かったのだろう。

「みんなは?」

「安心しな。みんな向かった」

 (安心は出来ない。だって奴らが……)

「う……」

 その時、頭に突き刺さるような痛みを名無しは感じた。最初は少し強い頭痛だったのが、どんどん強くなり立っていられなくなった。

 頭に殴られたような強烈な痛みが、名無しを目の前に倒れさせた。生涯で感じたことの無いほどの痛みに悶え、苦しむ気力も沸かない。

 ただ目を開け意識がなくなるまで待つしかない地獄の時間が続いた。

「なんや大丈夫か!!」

 水の中から外の声が聞こえるように遠い言葉が耳に入る。

「ぁ……」

 ひねり出した言葉は、文にはならない。
 永遠とも思える引き延ばされたような時間は、名無しを蝕み、ものの数秒で意識を消失させた。







「ここは……?」

 さっきまでの光景とは一変し、周りを見渡せば、何も無い灰色のコンクリートと地面の隙間を縫うように生える草に埋め尽くされたフラットな広場と、それを取り囲むように何棟も倒れた緑に侵食された建築物。

 どこかもわからない場所に名無しはいた。

 空を見れば快晴で空気は心地いい。
 夢の中なのかと思ったが、暖かい春のような風が頬を掠めるのを感じ、現実だと悟った。

「あそこに行けばいいのかな」

 広く開けた広場の真ん中に、傘が付いた丸いテーブルと三つの椅子が配置されている。

 名無しはひとまず、椅子に座った。
 独特な雰囲気がある場所だと名無しは感じた。余裕を生み自分自身について広い視野でよく考えられる、そんな場所だと。現に、今知らない場所にたった一人でいる致命的な状況なのにどこか落ち着いている自分がいるのだ。

「やぁ」

 その時、突如として目の前から女性の声が聞こえた。

「!?!?」

「あははは、凄い驚くね」

 口元に手を当て微笑む女性は、驚いて椅子から転げ落ちる名無しを見て言う。名無しが驚くのも、無理もない。なにせ、居なかった対面の席に人の姿がいきなり現れ、話しかけてきたのだから。

「君は面白いな」

 女性が指差す動きに引っ張られるように、名無しの体は宙に浮き、椅子へと座らせられた。

「これは……」

「魔法と呼ばれるものだ。名無しくん」

 先ほどの宙に浮いた現象。それに加え、何もない所からティーポットが現れ、勝手にコップに注ぐその光景は確かに、魔法と呼ばれる現象に酷似していた。

「飲むかい?」

「いや、大丈夫です」

「お菓子もあるよ」

「食べます!!」

 (食い気味に思わず、頷いてしまった。マカロンには勝てな、もぐもぐ)

 改めて対面の女性を見ると、その美しさに目を奪われた。白く美しい髪と整った顔には目のやりどころを失い、閉じた瞳と真っ白な服装は神々しささえ感じさせた。

「どうした?」

「きれい」

「それはありがとう」

 軽く言葉を返し、コップをテーブルに置く白の女性。
 湯気が立つ紅茶とともに、優雅に会話を進める。

「いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、今君に話せることは少ない。また会いにきた時に話そう」

「どうやって?」

「私から呼ぶよ。今回は少し調整を誤ってしまったんだ。だから、修復が終われば君は戻るよ」

「調整?」

「そう。頭痛で死にそうになっていたからね。休むといい。鳥がなき心地いい風が吹くこの場所は君にとっては天国のようなものだろう。何ならずっとここに居てもいいよ」

 (確かにそうだ。少なくとも元の場所に比べたら、格段に死の恐怖がなく落ち着いていられる。ここに来たときも、確かに天国のようだと思った。でも私には心に決めた夢ができた)

 せっかくの誘いだが、名無しは断ることにした。

「私、戻らなくちゃ」

「なぜだい?ここは理想郷だろう?死に脅かされず、欲しいものはこの通り何でも手に入る」

 女性が指を鳴らした瞬間、景色が変わり気づけば快晴の野原にいた。景色だけじゃない。温度、風、質感までもさっきとは違う。確かに人によっては理想郷なのかもしれない。だが、名無しにとってそれは違う。

「私は世界から化け物がいなくなった世界でみんなと楽しく過ごしたい。ここは仮初、ただの景色」

「つまりそのシナリオであれば満足だと?」

「そう。もしかしてできるの!?だったら!!」

 景色を変えたり欲しいものが手に入れることができるのなら、もしかして元の世界も変えられるのではないだろうかと名無しは女性の言葉に食いつく。

 もしできるのであればすべてが解決するのだ。誰も死なずにすむ。文字通りのハッピーエンドになる。

「ふふ」

 だが、名無しの熱量とは裏腹に、白の女性はまるで分かっていないと言うような冷笑を浮かべた。
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