終末世界で明日を見る

がみれ

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第二章「霧の街の失踪」

第十一話「古びた神社」

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 この先に居る者は間違いなくやばい。名無しの直感が今すぐ引き返すように危険信号を出していた。物理的な死の恐怖ではなく、幽霊のような得体の知れない怖さを感じ身震いした。

 だが、勇人たちは特段怖がってる様子はみられず平然としていた。名無しだけがこれを感じているのは、勇人が怖がっていないのが何よりの証拠として明白になった。

 皆がどんどん地下への階段を下っていく。
 ここで留まってても一人になるだけだと思い、名無しも平静を装い後についていった。

 残された狐の少女は一泊置き、皆が階段を降りていくのを確認し扉を閉める。
 鈴の音色が再び鳴り、少女と扉は消えていた。

 階段は石造りで間隔を開けて花瓶が置かれており、花までしっかり手入れされていた。

 以外にもきれいで照明もあり明るく、手が施されていない街並みとは一風変わって安心感があるだろう。この魔力を感じなければの話だったが。

 階段を下りきり、地面についた。
 地下に降り立ち名無しは踏んだ地面の感触と視覚の情報がうまく整理出来なかった。

 地下空間でありながらそこには草が生い茂り、昼間のように明るい。だだっ広い空間には建造物が一つ。

 存在感が際立つように中央に神社が立っていた。

(なんで地下に神社が?上と下で文化が違いすぎない?)

 名無しが疑問に思うも、島名は先に進んで行く。

「お参りしたら第二拠点に行けるので参拝しましょう」

 疑問が浮かぶが、島名の言う通りに名無しは参拝するため前に進んだ。

 天井や側面の壁にまで草が生い茂り、草原が辺りに広がる緑の空間の中、神社は池の中央小さな島の上で孤立していた。

 名無しは赤い橋を通り鳥居をくぐった。
 鳥居の前、道を挟み両端に二つの狐の石像があった。

 階段を上り名無しは神社へとたどり着いた。
 数本の木々と本殿。本坪鈴をつなぐ鈴緒の紐が一つ。これまた古びた苔むしたお賽銭の上にあり、本殿も緑がかった様子からずいぶん昔の物だというのが分かる。

(ずいぶん古びているけど。手入れされてないのかなぁ)

 参拝の仕方は記憶上知ってはいた。
 お賽銭の前に立ち名無しはお金を入れようとする。その時、ふと入れるお金がないことに気づいた。

「ほら」

 お金が無いことを見かねたラルは硬貨を親指で弾き、名無しは両手でそれをキャッチした。

「ありがとう」

「ええよ、全然。お金なんて今は機能してへんからな」

 それもそうだと理解していたが、名無しは単純にそのご厚意に感謝した。

(何を願ったらいいのかな?というか神社だから祀っているは神様だよね。神か………)

 名無しはいやな思い出が頭に浮かぶ。祀っている神様が同じとは限らないが、どうしても嫌悪感や負の方向の感情が沸いてくる。

 名無しは形だけでも皆と同じようにした。

 鐘を鳴らし、「皆が笑って暮らせる世界になりますように」と願いながら。

 その時、風が吹き抜け黄色い紅葉の枯れ葉が宙に舞った。名無しは目を開け後ろを振り向きみんなの元へ向かう。

「参拝終わったよ」

 名無しが三人に言う。
 しかし、返事は返ってこなかった。

 三人は名無しの発言を無視し、微動だにせずただただ真っすぐ本殿の方を見ていた。

 名無しは違和感を感じ、勇人を掴もうとした。
 しかし、触れたと思った手に感触はなく体は霞のように掴むことが出来なかった。

 ゾッと全身に鳥肌が立つ感覚が体中に走る。
 勇人が掴めないのなら他はと思い島名、ラルに触れようとしたが、その手は空を掴むことしかできなかった。

 名無しには起こったことが理解できなかった。
 後退り、パニックになりそうになるも思考は止めず、名無しは今の状況を整理し始めた。

 霧の街に来て狐の少女二人に道案内され神社に来た。お参りした後、三人は時が止まったように静止し、物理的な干渉が不可能になった。

 現状を整理しても手掛かりは一切見当たらず、今起きている理解し難い事柄に名無しの恐怖は強まる。

 金色の魔力を手に覆い、触れようとしてみたがやはり触れられない。

「どうなってるの?」

 独りぼっちになった空間には返してくる言葉はなく、木や草の揺れる音だけが響いた。

 名無しはどうすることも出来ず神社を真っすぐ見た。

 どうしようもない状態に陥った時、人は行動するかしないかの二つの選択を取るだろう。

 前者は考えなしの無謀な選択だが現状を打開する可能性がある。後者は冷静に不動を貫き、リスクをこれ以上大きくせず時間が解決するのを待つ考え。

 どちらにもメリット、デメリットがあるだろう。

 名無しは前者を選んだ。
 それにはれっきとした理由があった。勇人との契約の感覚が切れていないのにも関わらず、勇人側から応答がなかったからだ。

 その観点から時間が解決するという希望の確率は低くなったと言える。

 名無しは決意し、本殿に近づいた。
 ほんとは入ってはいけないと理解はしていた。

 けれど、このまま永遠に停滞し続けても得られる物は何もないという事もわかっていた。

 振り返り三人を見る。
 やはり先ほどとまるで変わっていない。

 名無しは焦りと恐怖を感じながらも、誘い込まれるように本殿の扉を開けようと両手を扉に近づける。

 だが、その手は寸前で止まった。
 可視化できるほどのおぞましい黄色い魔力が後ろから流れてくるのを感じたからだ。

(見なくても分かる。こんな異質な魔力。人間じゃない)

 名無しは恐怖で開けようとする手すら戻せなかった。

「アァイイオイアアエアオイウアウオ、エアオ。アイアエアアイ」

 理解不能な言葉の羅列と二重に聞こえる声が異質さを増長させ名無しの耳に届く。

 言語と認識出来なかったが、その者が人ではない事ははっきりと分かった。

 地響きがするほど巨大な足音が背後から近づいてくるのが聞こえる。

(動け!!動け!!体!!)

 その場から離れたい一心に体に動けと命じても金縛りにあっていて名無しの体は一向に動かない。

 押さえつけられている感覚ではない。
 動きたいと思う体を自ら止めるように動かない。

 この場から一刻も早くこの場を去りたいという思いと、動いたら死ぬかもという思い。その二つがせめぎ合い名無しは動けなかった。

 どんどんと近づいてくるたびに魔力が濃くなっていく。

 吐き気と息苦しさが同時に襲ってくる。
 吐きそうになる不快感を必死に耐え、名無しは恐怖で涙目になる。

 とうとう謎の声の主は名無しの真後ろにまで近づいた。すぐ後ろにいることが見なくても分かる。

 歯はガタガタと音を立て、名無しは体中から汗が噴き出た。これから殺されるのだと、耐え難い恐怖を名無しは覚える。

 背後の存在は首を絞め殺せるほどに長い指を伸ばす。首根っこを撫でるように触れ、その者は言葉を発した。

「アイイイオイア(何をしに来た)」

 今度は言葉の意味が理解できた。
 だが、意味が分かったとして言葉を発するかは別の話だった。

 名無しは無言を貫き、静かな時間が流れる。隙間など無いはずの空間に横から風が吹き、枯れ葉の舞い散る音だけが辺りに聞こえる。

 数分にさえ感じる数十秒が過ぎ去った。 
 真後ろにいる存在はいつまで経っても喋らない名無しに対し声を発した。

 顔を近づけ、名無しの耳元で囁くように。

「ウイエイ、オゥう(ずっと、見ている)」

 その声からは憤怒の感情を名無しは感じた。
 魔力の流れと気配が初めからなかったもののように完全に消え、謎の存在は霧となり消えた。

 息を洩らし、目眩がして名無しは建物を支える柱を掴む。

 しかし、掴む手はずるずる滑り、名無しは地面に両手をつけた。

 そのままの勢いで床に座り込み、目からは涙が大量にこぼれ落ちる。血の引けた表情で名無しは俯いた。

 涙に染みた床が少し黒みがかる。

「はぁはぁはぁ……」

 呼吸の感覚が不規則になっていく。
 視界が歪み、名無しは倒れ込んだ。

 名無しは限界だった。
 精神的疲労は意識をぶらつかせ、平衡感覚を失わせた。

 化け物が居なくなった安堵もあるだろう。
 限界になった名無しはその場に倒れ込み、簡単に意識を失った。







「久しぶりやな。道案内を頼む」

 ラルが交差点にいる狐の少女二人に声をかけるのが聞こえた。

 ラルの言葉を聞いた少女は同じ歩幅、同じ動きで互いの仮面を見る。二人は正面の道を開け一礼した。

 道路の脇に立つ二人は、神楽鈴という鈴が複数個ついたものを虚無から取り出し、鳴らした。

 チリンという鈴の音が辺りに響く。

「え?」

 名無しは目の前の光景が理解出来なかった。
 神社に居たはずの名無しの体は十字路に戻っていた。ラルの言葉も先ほど聞いたものとまったく同じだった。

 しかし、それに対する皆の反応はごくごく自然。
 まるでこれが一度目であるかのように会話を続けていた。

(なんで……)

 勇人と島名がラルの背中から降りる。
 あの時感じた恐怖と疲労は今は感じない。名無しも地面に降り、ひとまず何が起きたのか名無しは考察する。

(もしかして夢だった?いや、あんなに正確で現実でないわけがない)

 名無しは狐の少女二人を見た。
 神社関連の人物に加えこの街に来て初めて会った人物として疑わしかったからだ。

 だが、ありのままを伝えても信じてはくれないだろう。必死に思考を巡らせる名無しはラルに背中を押される。

「はよ、いかんと危険やぞここは」

 以前と同じセリフ。
 一旦前と全く同じ行動、階段の前までは様子を見てみてからでも遅くないかもと思い、さっきと同じ道を辿った。

 そして、すぐに地下に続く階段にまで到着してしまった。その間、第二拠点に行く行動は変わらなかったが、細かな行動や仕草、言葉は少しだけ変わっていた。

 島名が階段の扉を開けようと体を屈ませる。

「ま、待って……!!」

 名無しは思わず止めてしまった。
 怖かったのだ。もう一度同じ事が起きてほしくない。もう二度と行きたくは無かった。

 しかし、震える手と怯えた表情は照明が無いこの場所では誰の目にも届かない。

「何や。名無し?」

 ラルが名無しに聞いた。
 だが名無しは何も言えなかった。自分の体験を伝えた所で嘘か事実かと言われれば嘘だと思われる。

 虚言と見做されることは理解していた。
 だから、何も言わなかったし言えなかった。

「いや、何でもない」

 平静を装ったが、少し震えた声で今にも泣きだしそうな名無しは何もできず、何も言えず下を向く。

 これから死ぬような思いをするかもしれない。そう知りながら、前に進むしか選択肢は無く、名無しの体は動かなくなった。

 だが、その手は握られた。

「怖い時は手を繋ぐと安心するでしょ」

 勇人は何かに怖がってると思ったのか、優しく手を繋いでくれた。

 その手は温かく、母がかつてしてくれたように包みこむような安心感があった。

 それだけで名無しは救われた。
 さっきまで感じていた身を貫くような恐怖の圧力はどこにいったのか、今はただただ心地よかった。
 
 気づけば手の震えは止まっていた。

 きっと勇人も怖かっただろう。
 それでも人を思い手を差し伸べる勇人に対し名無しは勇気づけられた。

 次第に表情が和らいでいき、温かく優しい感情をその身に受け止めた名無しは深呼吸する。

 そして、勇人の手を離さないように強く握った。
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