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第二章「霧の街の失踪」
第十二話「安住の地へ」
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手を握ってもらい名無しは先へと進む。
耐え難い恐怖を感じた存在のいる神社へと。
身を引き締め、名無しは島名が扉を開けるのを注意深く眺める。
だが、結果は名無しの予想していたものとは違っていた。
扉から漏れ出る魔力は一切なく、悪寒が走るような思いはしなかったのだ。
名無しは胸を撫で下ろす。
ひとまず安心し前を向いて歩き出した。
「よし」
決意と勇人の思いを頼りに名無しは階段を下りていく。
狐の少女は名無しの後ろについて行き、一泊開け扉を閉める。直後、二人は神楽鈴を鳴らし、ラルが持っていた荷物と扉は消え、扉は木製の床へと変わっていた。
二度目になる地下空間を見るが、外観は一切変わっていない。夢というにはやはり現実味があり過ぎている。
しかし、名無し以外は二度目だと気づいていない様子だった。
「神社でお参りしたら拠点に行けるので参拝しましょう」
これまた以前と同じように島名が言う。
皆が順々にお祈りしどんどんと自分の番が近付いていく。緊張と恐怖で心臓の鼓動は早まった。
何を願うか、名無しは必至に過去を振り返ってずっと考えていた。
前に願ったのは「みんなが笑って暮らせる世界になりますように」という願い。
これに関してはおそらく悪くないだろう。
(じゃあ、何が悪かった?)
疑問の答えはすぐには頭の中に浮かんでこない。
(いや悪いか悪くないかじゃないのか)
何をしに来た、と謎の存在は言っていた。
その前の言葉は分からなかったが、名無しは謎の存在がする問いかけに無視をした。
結果、居なくなりはしたがまた同じ事を繰り返している。
(つまり、私が鐘を鳴らして神に告げる言葉はここに来た理由なんじゃないの?)
謎の者が今知りたい事はおそらくそれだと名無しは必死に捻り出した考えを正解にし前に進む。
さっきと同じ光景。
しかし、硬貨を投げる手が先ほどより数倍重く感じた。
「はぁ…………よし!!」
息を吐ける分だけ目一杯に吐き、名無しは今作れる最大限自信に満ちた表情で正面を向く。作った顔でも自信のある顔を作れば、感情はそれに引っ張られ恐怖を誤魔化せる。
名無しは勢いよく硬貨を入れ、鐘を鳴らした。
そして、神様にこう言った。
『私はこの世界を救うためここにいる』と。
大見得張って大層なことを言ったことは百も承知だった。
それでも、名無しの心は揺るがない。
恐怖以上に夢を成し得たいという思いの強さが勝っているのだから。
風が吹き黄色い紅葉の枯れ葉が宙に舞う。
一か八かの神への返答。
名無しは恐る恐るゆっくりと後ろを振り向いた。
「よし、これで行けるね」
その時、重々しい空気感をぶち壊すように能天気な勇人の声が名無しの耳に聞こえた。
「良かった……」
勇人が声を発せられるということはループは抜け出したのだ。
名無しは安堵し、その場に座りこみそうになるが膝に手を乗せ何とか耐える。
本当にいい意味でペースを乱される存在だと心の中で名無しは勇人を褒めた。
名無しはそのまま歩みを進め、みんなの元へ向かった。
その時、突然チリンという鈴の音色が背後から聞こえた。
振り向くとそこには狐の少女二人がいつの間にか本殿の前で名無したちの方を真っすぐ見ていた。仮面で誰を見ているかは分からなかったが。
狐の少女二人は手を前にする。
名無しは魔力の起こりを感じ身構える。魔導書を手にして注意深く少女を見た。
「『ンオインエ』イイウゥイインエンエイエ」
今しがたと同じ理解出来ないあの言語を発する二人。謎の存在と同じ言葉を放つ狐の少女二人を見て名無しは汗を流す。
だが、少女らの魔力の色は謎の存在の属性色の黄色ではなく黒色だった。
二人は外側の魔力を体に覆い、名無したちと狐の少女の間に位置する地面に魔法陣を展開した。
形は円形。
真ん中に星の形があり、それを囲むように円があり、読み取れない謎の文字が書かれまた円で囲み、よく分からない模様と記号が交互に描かれた所を最後に円で囲った黒色の魔法陣。
それは空間に亀裂を走らせる。
時空の裂け目がどんどん広がり地面に穴ができ、魔法陣の上部に白く小さな雲のようなもので穴を囲んでいた。
「これは?」
「第二拠点に通じてる転移門だよ」
名無しの疑問に勇人が答える。
「「どうぞ、いってらっしゃいませ」」
狐の少女らが礼儀正しくお辞儀し、同時に言った。
(てか、普通に喋れたんだ……)
どうやらこの先が第二拠点らしい。
近づいて穴の先を覗き込むと向こう側の景色があると名無しは思っていた。
しかし、先はここの地面と同じ石材しか見えない。先が分からずちょっぴり怖く感じた名無しだが、今はとっておきがあった。
「手つなご」
勇人に向かって右手を伸ばし、少し上を見上げ真顔で手をつなぐことを名無しは勇人に求めた。
「え?いや…そういうのは、大事な人というか、結ばれた人とするべきというか…何というか」
しどろもどろに言葉を濁す勇人に疑問が浮かぶ。
名無しにとって勇人は恩人で大事な人で、契約で実際に結ばれている。
(さっきしてくれたのに、何で今は駄目なんだろう?よく分からない)
「いいから。じゃあ手つなぐよ!」
名無しは強引に勇人の右手を掴み、転移門に向かって走り出した。
「ええ~!?ちょ、ちょっと待って!!!」
名無しが右手を引っ張り、急に走り出したので勇人は転びそうになる。
だが体勢をすぐに安定させ、後数歩で転移門に着く所で勇人は名無しのペースに合わせるように一緒に走った。
「飛ぶよ!」
急な呼びかけに勇人は少し遅れたがほぼ同時に二人は転移門の上に飛び、落下の影響で服が風で揺れそのまま下に吸い込まれ、穴の中に入っていった。
勇人はその時困惑と驚きの表情をし、名無しは不思議と笑みが溢れていた。
「青春やな」
ラルが後方腕組みをし、二人が走る姿を見て言った。
「そうですね。それはそうと私達も行きましょう」
「おう。そうやな」
二人も先に行き、狐の少女らも同じように穴の先へと入っていった。
瞬間、魔法陣は消え転移門は跡形もなく消失した。
穴の先は特に何とも無く地面に着地した。
約二メートルぐらいの高さから落っこちたから足が衝撃で痛むかと思ったが以外に何ともなかった。
見覚えのある石材が見え薄々気づいていたが、やはりこの場所はさっきと同じ神社らしい。
それは神社の構造が瓜二つで見てすぐに分かった。けれど、あの神社とは違う点が一つだけあった。
「古びてない」
あの緑がかった寂れた神社と違い、綺麗な木材と色が落ちていない朱色の塗装が施され、直近に建設されたかのようなまだ新しい神社の姿がそこにはあった。
後ろの木々は桜色の花びらをつけ風に吹かれ散っていた。その光景は趣き深く、名無しはそれに思わず見とれてしまった。
「名無し。こっちに」
「あ、そっか」
勇人に引っ張られ、上の方を見て少しだけ後ろに下がる。ラルが島名を右手で担いでいるのが向こう側から見え、どしんと重量のある音を立て落ちてきた。
その後、狐の少女も草履が地面につきカコンと音を立て落ちてきた。
ようやく全員が揃い、狐の少女は名無し達の前に立ち言葉を発した。
「「茜様がお呼びです。ご案内いたします」」
二人はそのまま名無し達の前を歩きついてくるように言った。
「ん?入口が」
名無しは来た時の階段が木製でできた通路になっていることにふと気づいた。どうやら、本当にここはさっきとは違う第二拠点らしい。
そのまま階段を降り通路の前まで名無しは向かう。その間、草原は手入れされているのか草が短くなっていて歩きやすく、側面を見ても緑が覆われていることはなかった。
通路を見ると木材の中では黒っぽい木材を使った木造の通路が正面、右左に続いていた。適切に作られた和風建築の様に名無しは驚いた。
こういうのを初めて見たのもあるが、上の街は明らか西洋風の作りをしていて、神社は古びていた。
その事からここが終末世界後に作られていると名無しは推測していた。だから、そこまでの設備があると期待していなかったが、度肝を抜かれた。
名無し達は正面に進んでいく。
道中には障子や襖、板戸などがあり複数の部屋が通路の両脇に続いた。
また、照明は長方形の形をした物がそれだけ置けるほどのサイドテーブルの上にあり、通路の左手に間隔を空けて配置されていた。
明るさはあまり無く、少し薄暗くも感じたが気にも止めない程度。所々に横に続く横幅二人分ぐらいの通路があった。
「ここって元からあったの?」
名無しは勇人に興味本位で聞いた。
「いや、ここは茜さんの能力で作られた構造物だよ」
「能力で作った!?これ全部!?」
驚きで名無しの声は大きくなる。
それもそのはずスケールが違いすぎる。名無し達が持っている能力と毛色がまるで違う。これ程の建造物を作れる能力があるという事が名無しにはにわかに信じられなかった。
「そうやで。わいらは地下空間を掘っただけやしな」
それでも構造物を作り出すのは凄いとしかいえない。能力が消費する魔力量だって無限じゃないのだから。
色々雑談している内に吹き抜けになって池がある箇所を横に通り過ぎ、突き当たりにある階段を一から四階まで上った。
同じ景色が先でも続き、右左にある通路を右に少し進み左手にある部屋の前で狐の少女は止まった。
「「茜様。ご客人が来訪されました」」
「ええ。入っていいですよ」
扉の奥から女性の声が聞こえた。
狐の少女は扉に手をかけ、右左息ぴったりに板戸をゆっくりと開ける。
床と摩擦で擦れる音がして両開きの扉が開いた。
名無しはそこでまず部屋の中を見て驚いた。
「なにこれ?」
密閉された部屋の中に部屋にしては結構な広さ、高さのある空間。建造時に無駄だと一目で分かる部屋の大きさにしかし、名無しは圧迫感さえ覚えた。
それは何故か。
名無しの前方、部屋の中に立派な瓦屋根をつけた建造物が堂々とそこにあったからだ。
部屋の中に建物があるのは違和感があると思ったが、部屋の中に一歩足を踏み入れてみると不思議とそうは思わなかった。部屋が広いからだろうか。
建物の床座は少し高く、名無しの腰ぐらいの高さにあった。だから自然と名無しは建物を見上げることになった。
建物正面の板戸は開いている。
そして、そこには畳に正座する人の姿が見えた。床に下ろした手が見えないほど、体よりひとまわり大きい着物を着用し、両目を包帯で覆った黒の長髪の女性が。
よく見ると、その女性の顔の左側には首から左目までいかないくらいにジグザグに刻まれた傷のようなものがあるのが分かる。
「ようこそいらっしゃいました。第二拠点「狐霊正殿堂」へ。貴方達を歓迎いたします」
その女性は朗らかに言った。
「おう。久しぶりやな。生きてて安心したわ。第一拠点にいた奴らはどうなった?」
「ここにたどり着いた人は二階と三階にいますよ。今は時期的に外にいる人も多いですが」
「そうか」
ラルと女性は面識があるようで、相互に状況を軽くだが共有した。
「あ、はじめましての方もいましたね。私の名前は新城茜。この狐霊正殿堂を管理•運用をしている者です。以後お見知りおきを」
目は隠れて見えなかったが名無しはなぜだか自分を見ていると分かった。視線的にも雰囲気的にも。
「名無しです。よろしくお願いします」
「名無し?」
女性は首を傾げ、名無しの名前のおかしさに純粋に疑問に思った。
(そうだよね。名無しって名前変だよね。恥ずかしいし、偽名考えようかな)
「魂の名前を尊重されていらっしゃるのですね。素晴らしいです」
女性はニコッと笑みを浮かべ言った。
(魂の名前?肉親につけられた名前のこと?)
確かに今の名前だと仮名だと明らかだし、本当の名前が別にある事が分かる。
尊重という意味では名前が判明するまで偽名を使っていないのは大切にしていると捉えられなくはない。
(そっか。だったら、記憶を取り戻すまでは名無しの方がいいのかも)
名無しはこのまま名無しと名乗ることを少し悪くないなと思った。
「皆さん、長旅で疲れたでしょう。細かい話し合いはまた今度にして今夜はここで寛いでください。緋狐、案内をお願い」
「はい。茜様」
右後ろにいる狐の少女緋狐が返事をし名無し達はこの建物を案内してもらうことになった。
耐え難い恐怖を感じた存在のいる神社へと。
身を引き締め、名無しは島名が扉を開けるのを注意深く眺める。
だが、結果は名無しの予想していたものとは違っていた。
扉から漏れ出る魔力は一切なく、悪寒が走るような思いはしなかったのだ。
名無しは胸を撫で下ろす。
ひとまず安心し前を向いて歩き出した。
「よし」
決意と勇人の思いを頼りに名無しは階段を下りていく。
狐の少女は名無しの後ろについて行き、一泊開け扉を閉める。直後、二人は神楽鈴を鳴らし、ラルが持っていた荷物と扉は消え、扉は木製の床へと変わっていた。
二度目になる地下空間を見るが、外観は一切変わっていない。夢というにはやはり現実味があり過ぎている。
しかし、名無し以外は二度目だと気づいていない様子だった。
「神社でお参りしたら拠点に行けるので参拝しましょう」
これまた以前と同じように島名が言う。
皆が順々にお祈りしどんどんと自分の番が近付いていく。緊張と恐怖で心臓の鼓動は早まった。
何を願うか、名無しは必至に過去を振り返ってずっと考えていた。
前に願ったのは「みんなが笑って暮らせる世界になりますように」という願い。
これに関してはおそらく悪くないだろう。
(じゃあ、何が悪かった?)
疑問の答えはすぐには頭の中に浮かんでこない。
(いや悪いか悪くないかじゃないのか)
何をしに来た、と謎の存在は言っていた。
その前の言葉は分からなかったが、名無しは謎の存在がする問いかけに無視をした。
結果、居なくなりはしたがまた同じ事を繰り返している。
(つまり、私が鐘を鳴らして神に告げる言葉はここに来た理由なんじゃないの?)
謎の者が今知りたい事はおそらくそれだと名無しは必死に捻り出した考えを正解にし前に進む。
さっきと同じ光景。
しかし、硬貨を投げる手が先ほどより数倍重く感じた。
「はぁ…………よし!!」
息を吐ける分だけ目一杯に吐き、名無しは今作れる最大限自信に満ちた表情で正面を向く。作った顔でも自信のある顔を作れば、感情はそれに引っ張られ恐怖を誤魔化せる。
名無しは勢いよく硬貨を入れ、鐘を鳴らした。
そして、神様にこう言った。
『私はこの世界を救うためここにいる』と。
大見得張って大層なことを言ったことは百も承知だった。
それでも、名無しの心は揺るがない。
恐怖以上に夢を成し得たいという思いの強さが勝っているのだから。
風が吹き黄色い紅葉の枯れ葉が宙に舞う。
一か八かの神への返答。
名無しは恐る恐るゆっくりと後ろを振り向いた。
「よし、これで行けるね」
その時、重々しい空気感をぶち壊すように能天気な勇人の声が名無しの耳に聞こえた。
「良かった……」
勇人が声を発せられるということはループは抜け出したのだ。
名無しは安堵し、その場に座りこみそうになるが膝に手を乗せ何とか耐える。
本当にいい意味でペースを乱される存在だと心の中で名無しは勇人を褒めた。
名無しはそのまま歩みを進め、みんなの元へ向かった。
その時、突然チリンという鈴の音色が背後から聞こえた。
振り向くとそこには狐の少女二人がいつの間にか本殿の前で名無したちの方を真っすぐ見ていた。仮面で誰を見ているかは分からなかったが。
狐の少女二人は手を前にする。
名無しは魔力の起こりを感じ身構える。魔導書を手にして注意深く少女を見た。
「『ンオインエ』イイウゥイインエンエイエ」
今しがたと同じ理解出来ないあの言語を発する二人。謎の存在と同じ言葉を放つ狐の少女二人を見て名無しは汗を流す。
だが、少女らの魔力の色は謎の存在の属性色の黄色ではなく黒色だった。
二人は外側の魔力を体に覆い、名無したちと狐の少女の間に位置する地面に魔法陣を展開した。
形は円形。
真ん中に星の形があり、それを囲むように円があり、読み取れない謎の文字が書かれまた円で囲み、よく分からない模様と記号が交互に描かれた所を最後に円で囲った黒色の魔法陣。
それは空間に亀裂を走らせる。
時空の裂け目がどんどん広がり地面に穴ができ、魔法陣の上部に白く小さな雲のようなもので穴を囲んでいた。
「これは?」
「第二拠点に通じてる転移門だよ」
名無しの疑問に勇人が答える。
「「どうぞ、いってらっしゃいませ」」
狐の少女らが礼儀正しくお辞儀し、同時に言った。
(てか、普通に喋れたんだ……)
どうやらこの先が第二拠点らしい。
近づいて穴の先を覗き込むと向こう側の景色があると名無しは思っていた。
しかし、先はここの地面と同じ石材しか見えない。先が分からずちょっぴり怖く感じた名無しだが、今はとっておきがあった。
「手つなご」
勇人に向かって右手を伸ばし、少し上を見上げ真顔で手をつなぐことを名無しは勇人に求めた。
「え?いや…そういうのは、大事な人というか、結ばれた人とするべきというか…何というか」
しどろもどろに言葉を濁す勇人に疑問が浮かぶ。
名無しにとって勇人は恩人で大事な人で、契約で実際に結ばれている。
(さっきしてくれたのに、何で今は駄目なんだろう?よく分からない)
「いいから。じゃあ手つなぐよ!」
名無しは強引に勇人の右手を掴み、転移門に向かって走り出した。
「ええ~!?ちょ、ちょっと待って!!!」
名無しが右手を引っ張り、急に走り出したので勇人は転びそうになる。
だが体勢をすぐに安定させ、後数歩で転移門に着く所で勇人は名無しのペースに合わせるように一緒に走った。
「飛ぶよ!」
急な呼びかけに勇人は少し遅れたがほぼ同時に二人は転移門の上に飛び、落下の影響で服が風で揺れそのまま下に吸い込まれ、穴の中に入っていった。
勇人はその時困惑と驚きの表情をし、名無しは不思議と笑みが溢れていた。
「青春やな」
ラルが後方腕組みをし、二人が走る姿を見て言った。
「そうですね。それはそうと私達も行きましょう」
「おう。そうやな」
二人も先に行き、狐の少女らも同じように穴の先へと入っていった。
瞬間、魔法陣は消え転移門は跡形もなく消失した。
穴の先は特に何とも無く地面に着地した。
約二メートルぐらいの高さから落っこちたから足が衝撃で痛むかと思ったが以外に何ともなかった。
見覚えのある石材が見え薄々気づいていたが、やはりこの場所はさっきと同じ神社らしい。
それは神社の構造が瓜二つで見てすぐに分かった。けれど、あの神社とは違う点が一つだけあった。
「古びてない」
あの緑がかった寂れた神社と違い、綺麗な木材と色が落ちていない朱色の塗装が施され、直近に建設されたかのようなまだ新しい神社の姿がそこにはあった。
後ろの木々は桜色の花びらをつけ風に吹かれ散っていた。その光景は趣き深く、名無しはそれに思わず見とれてしまった。
「名無し。こっちに」
「あ、そっか」
勇人に引っ張られ、上の方を見て少しだけ後ろに下がる。ラルが島名を右手で担いでいるのが向こう側から見え、どしんと重量のある音を立て落ちてきた。
その後、狐の少女も草履が地面につきカコンと音を立て落ちてきた。
ようやく全員が揃い、狐の少女は名無し達の前に立ち言葉を発した。
「「茜様がお呼びです。ご案内いたします」」
二人はそのまま名無し達の前を歩きついてくるように言った。
「ん?入口が」
名無しは来た時の階段が木製でできた通路になっていることにふと気づいた。どうやら、本当にここはさっきとは違う第二拠点らしい。
そのまま階段を降り通路の前まで名無しは向かう。その間、草原は手入れされているのか草が短くなっていて歩きやすく、側面を見ても緑が覆われていることはなかった。
通路を見ると木材の中では黒っぽい木材を使った木造の通路が正面、右左に続いていた。適切に作られた和風建築の様に名無しは驚いた。
こういうのを初めて見たのもあるが、上の街は明らか西洋風の作りをしていて、神社は古びていた。
その事からここが終末世界後に作られていると名無しは推測していた。だから、そこまでの設備があると期待していなかったが、度肝を抜かれた。
名無し達は正面に進んでいく。
道中には障子や襖、板戸などがあり複数の部屋が通路の両脇に続いた。
また、照明は長方形の形をした物がそれだけ置けるほどのサイドテーブルの上にあり、通路の左手に間隔を空けて配置されていた。
明るさはあまり無く、少し薄暗くも感じたが気にも止めない程度。所々に横に続く横幅二人分ぐらいの通路があった。
「ここって元からあったの?」
名無しは勇人に興味本位で聞いた。
「いや、ここは茜さんの能力で作られた構造物だよ」
「能力で作った!?これ全部!?」
驚きで名無しの声は大きくなる。
それもそのはずスケールが違いすぎる。名無し達が持っている能力と毛色がまるで違う。これ程の建造物を作れる能力があるという事が名無しにはにわかに信じられなかった。
「そうやで。わいらは地下空間を掘っただけやしな」
それでも構造物を作り出すのは凄いとしかいえない。能力が消費する魔力量だって無限じゃないのだから。
色々雑談している内に吹き抜けになって池がある箇所を横に通り過ぎ、突き当たりにある階段を一から四階まで上った。
同じ景色が先でも続き、右左にある通路を右に少し進み左手にある部屋の前で狐の少女は止まった。
「「茜様。ご客人が来訪されました」」
「ええ。入っていいですよ」
扉の奥から女性の声が聞こえた。
狐の少女は扉に手をかけ、右左息ぴったりに板戸をゆっくりと開ける。
床と摩擦で擦れる音がして両開きの扉が開いた。
名無しはそこでまず部屋の中を見て驚いた。
「なにこれ?」
密閉された部屋の中に部屋にしては結構な広さ、高さのある空間。建造時に無駄だと一目で分かる部屋の大きさにしかし、名無しは圧迫感さえ覚えた。
それは何故か。
名無しの前方、部屋の中に立派な瓦屋根をつけた建造物が堂々とそこにあったからだ。
部屋の中に建物があるのは違和感があると思ったが、部屋の中に一歩足を踏み入れてみると不思議とそうは思わなかった。部屋が広いからだろうか。
建物の床座は少し高く、名無しの腰ぐらいの高さにあった。だから自然と名無しは建物を見上げることになった。
建物正面の板戸は開いている。
そして、そこには畳に正座する人の姿が見えた。床に下ろした手が見えないほど、体よりひとまわり大きい着物を着用し、両目を包帯で覆った黒の長髪の女性が。
よく見ると、その女性の顔の左側には首から左目までいかないくらいにジグザグに刻まれた傷のようなものがあるのが分かる。
「ようこそいらっしゃいました。第二拠点「狐霊正殿堂」へ。貴方達を歓迎いたします」
その女性は朗らかに言った。
「おう。久しぶりやな。生きてて安心したわ。第一拠点にいた奴らはどうなった?」
「ここにたどり着いた人は二階と三階にいますよ。今は時期的に外にいる人も多いですが」
「そうか」
ラルと女性は面識があるようで、相互に状況を軽くだが共有した。
「あ、はじめましての方もいましたね。私の名前は新城茜。この狐霊正殿堂を管理•運用をしている者です。以後お見知りおきを」
目は隠れて見えなかったが名無しはなぜだか自分を見ていると分かった。視線的にも雰囲気的にも。
「名無しです。よろしくお願いします」
「名無し?」
女性は首を傾げ、名無しの名前のおかしさに純粋に疑問に思った。
(そうだよね。名無しって名前変だよね。恥ずかしいし、偽名考えようかな)
「魂の名前を尊重されていらっしゃるのですね。素晴らしいです」
女性はニコッと笑みを浮かべ言った。
(魂の名前?肉親につけられた名前のこと?)
確かに今の名前だと仮名だと明らかだし、本当の名前が別にある事が分かる。
尊重という意味では名前が判明するまで偽名を使っていないのは大切にしていると捉えられなくはない。
(そっか。だったら、記憶を取り戻すまでは名無しの方がいいのかも)
名無しはこのまま名無しと名乗ることを少し悪くないなと思った。
「皆さん、長旅で疲れたでしょう。細かい話し合いはまた今度にして今夜はここで寛いでください。緋狐、案内をお願い」
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