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邪馬台国、歴史上存在は確認されていても未だにどこにあるのかが分かっていない日本史における最大の謎である。
しかし、私たちは知らない。
邪馬台国についての謎を深めるばかりで、邪馬台国の女王、卑弥呼に関する一つの隠し事を。
「うーん、今日も一日隠し通せるかなぁ」
邪馬台国の女王、卑弥呼は、いつものように悩んでいた。
両親を早くに無くしてからというもの、女王として毅然と振舞ってきたが、それでもすべては運がよかっただけ。
「占いって言ってもただそれっぽいことを言ってみんなが勝手に納得してくれただけなんだけど…」
まあ、現代から考えて、そんな占いがすべて当たって国が続いたというのも変な話。
つまるところ、邪馬台国がある程度存続したのは、この卑弥呼がヒジョーに運に恵まれていたことが大きい。
そして、
「よう、兄弟。」
「ちょっと、かってにはいってこないでって」
「ははっ、わるい。」
口調とは裏腹に全く持って反省の色を見せない弟に、卑弥呼は苦笑する。
「もう…」
「ほら、柿を取ってきた。くえよ」
「ん、ありがと」
柿を一口かじる。甘い柿だ。
一方弟は渋柿に当たったらしく、外に向かって柿を投げつける。
「行儀悪いよ。」
「兄弟が運が良すぎるだけだろ。」
「前々からだけど、その兄弟って言い方、何とかならないの?」
「ん?いやか?」
「そうじゃないけど…」
「ま、人前で使いまくるとばれるかもしれないからな。普段はもっと気を遣うさ。お姉ちゃん(笑)」
「っ!からかうなっ!」
「おお、こわいこわい」
はて?と思う読者も多くいることだろう。では、二人の会話をもう少しだけ。
「でも、みんなの前ではちゃんと姉上と呼ぶんだからいいだろ?その方が分かりやすい。」
「…二人の時くらいは、普通に呼んでくれたっていいじゃないか。」
「…そういうところは本当に女みたいなことを言うんだな…兄さん。」
「そんな育てられ方をしたからね。」
そう、謎の国、邪馬台国、その女王卑弥呼は、男だった。
「それにしても、自分の兄ながら驚きを隠せねえな。普通の格好してればどっからどう見ても女だろ、それ。ついてるかついてないかくらいじゃね?ちがい。」
「いいだろ、いろいろと都合がいいんだから。」
卑弥呼は神の妻と言われ、夫も持つことはなかったと言われているが、これが真実。
夫を持たなかったんじゃない。もともと男だった。これが現実。
そういうことだ。
まあ?ギリシャ神話とかも同性愛を非常に大事にしていることだし?神様だって美少年は大事にするのが常識だ。
「ほんとはこの社も男子禁制なんだからね?」
「ほかでもない男子が入ってるじゃねえか。」
「ま、そうだけどさ、何なら君も女装してみる?」
「はっ、遠慮しとくよ。俺は兄貴と違って背も高いし、そういうのは似合わねえからな。」
立ち上がり衣服を整える。
「…行くの?」
「ああ、一応言っておくぞ。西の方から敵が攻めてきてる。明日には攻めてくるとみていい。」
「ありがとう、気を付けて。」
弟を見送った後、卑弥呼は一人、衣服を整える。
「さて、この情報をどう使おうかな?」
翌日、
「卑弥呼様!大変です!」
卑弥呼が社から出てくると、大勢の部下たちが大慌てでやってくる。
「あら、西の国が攻めてきたのでしょう?一応対応できるように準備はしていると思うけど。」
弟の事前情報を思いっきり駆使して卑弥呼は部下たちからの信頼を集めている。そして今日も部下たちはその奇跡をまのあたりにして、
「さ、さすがです。ひみこさま。」
「ま、神のお告げ、あるからね?」
卑弥呼は思う。こうも頻繁に神のお告げを連呼して、いずれ自分に天罰が訪れるのではないか、と。
「さあ、今のところは大丈夫だと思うけど、一応周りに気を付けるのよ。」
『はっ!』
「じゃあ、私は社に戻るから」
そういって踵を返す卑弥呼偉そうな口ぶりではあるが、弟の話をそのまましただけであとは丸投げ、まあ、いつものことではあるが、そのいつものことも、卑弥呼にとっては恐怖以外の何物でもなかった。
(ばれてない…よね?)
ばれてしまったが最後、邪馬台国は崩壊する。弟に言われるまでもなく、卑弥呼もその程度のことは理解していた。
社に戻った卑弥呼は、なぜか有り余っている亀の甲羅を並べる。忙しい中で集めた数少ないコレクションだ。
「うーん、これは割といいやつだよね。こっちのは色がきれいだし。もっといいばしょにかざりたいなあ」
「だから、それは兄貴の玩具じゃないっての。」
「あ、いたんだ」
勝手に入ってきたことを怒ってもよかったが、今日のやり取りは弟の情報がすごくいい仕事をした。
そう、邪馬台国の女王卑弥呼がうまいこと政治をやりくりしたというのは、間違いではない。だがそれは正解からは程遠いのだ。
正しくは、邪馬台国の美少年が、女装して女王卑弥呼となり、弟とのコンビで苦難を乗り越えていた。
これが謎多き邪馬台国の真実である。
邪馬台国の女王には、弟がいた。だが、女王卑弥呼の名が強すぎて、その名の陰に埋もれてしまい、その名前は今も不明のままだ。
だが、そいつは確かに存在した。その影の薄さから誰にも関与されず、だがしかし、絶妙なパス回し、こほん、絶妙なアシストで卑弥呼を支えた影の立役者、幻のセカンドマン
その名も―
「あ、徳子(とくこ)、そこのはっぱとってー」
「はいはい、今日もお疲れさま。」
この時代には男であろうが名前に子がつくものが多い。後の時代の聖徳太子も小野妹子も子がつくことからも分かるだろう。だからこのような名前でも立派に卑弥呼の弟として成り立つし、何一つ不自然はないのである。
「じゃあ、おねがーい」
「はいはい、わかったよ。」
さて、邪馬台国の真実はまだまだある。
卑弥呼には日課があった。
滝で身を清める(ただし夏だけ)、など、ほとんどはそれっぽさと自分の都合を合わせた者であり、性別がばれかねない卑弥呼にとって本当の意味での日課というと、これが真っ先に挙げられる。
「えいっ」
ペシンッ!
「っ~~!!」
「どうだ?」
「少し強い。もっと弱くお願い。」
「はいはい」
ペシンッ、ぺシンっ
「んっ、あっ」
「おい、変な声を出すなよ。俺だって変な気持ちになってくるじゃねえか。」
「ご、ごめ・・・んあっ、はあ、はあっ」
言っておくが、卑弥呼の日課は別に葉っぱでたたかれるsmプレイなどでは断じてない。
葉っぱでたたかれることで血行を良くする。現代でもサウナとして時々見られる行為だ。
とはいえど、見た目女にしか見えない美少年が叩かれて変な声をあげられては、実の弟としても何も感じないわけがない。
「…頼むから声を抑えてくれ。」
「う、うん。んあっ、ああっ!」
艶やかな声は、卑弥呼の日課が終わるまで続いた。
「まったく、こんなみっともない声まで出して、兄貴はほんと、女に生まれてきた方が良かったんじゃねえか?」
「い、言わないで…」
うるんだ目で徳子を見つめてくる。その微妙に涙がかかった眼は、徳子の理性を非常にガタガタと揺さぶった。
うつぶせになったままの卑弥呼の隣に徳子は座り、豪快に笑いだす。
「ま、あんたが男に生まれたから、俺はあんたと楽しくやれてるんだろうよ。あんたが神の妻としてしっかりやれてんのもあんたが男に生まれたゆえだ。」
その言葉に少しだけむっとする卑弥呼。
「何を言うのさ。僕が女に生まれてたらそれこそ問題なく女王として、神の妻としてふるまえたに決まってるじゃん。」
「いや、それはないな。」
今までで一番自信に満ちた表情で、徳子は断言する。
「なんでさ!」
うつ伏せを崩さずに、文句だけは一人前の卑弥呼の前に立ち、顔を下ろす。そして、
「だって、女だったら、俺が真っ先に純潔を奪ってるよ。」
「っ~~~~!自分の兄をからかうんじゃありません!」
「そういう反応、まんま女子だからな。気をつけろよ?」
気を付けないと、襲うぞ?と言わんばかりの徳子の表情。それはいつも卑弥呼を困惑させる魔性の笑みだった。
「ええと、そういえばあの大陸の国から使者が来るって話、ほんと?」
「ああ、鏡が届くだろうからな、受け取っとけよ。」
「ええ?正直いらないというか…」
「儀式とかにつかうんだよ!もらっとけ!」
「今だって持ってるし…」
「あれ、移りが悪くなってたからな。そろそろ変え時だ。」
「ま、分かったけどさ。ううっ、明日も女装するのか―いやだなぁ。ねえ、一日変わってくれない?」
「それ、無理だってわかっていってるだろう。」
「まあ、そうなんだけどさ。神の妻って、ずっとやってるとなんだか罰が当たりそうで…」
「神様はすべてを見ているっていうからな。」
「そう!そこなんだよ!」
徳子の言葉にここ一番に食いつく卑弥呼。
「怖いんだよ!神様の天罰が!男が神様の妻を騙って何も起きないはずがない!」
「そうか?案外楽しんでみてるかもしれないぞ。世界には美少年が好きな神様や、女装した男が好きな神様だっているかもしれない。神様なんて何人いるかわかったもんじゃないからな。」
「うーん、そんなに変態な神様が世界に入るのかなあ。」
現代人からすれば、ギリシャあたりにいると考えるものが多いだろうが、この時代の人々は神の怒りを非常に恐れていた。神の妻とまで嘘をついた卑弥呼の恐怖は計り知れないものがあったかもしれない。
「ま、もし天罰が下って死んじまったら、俺も一緒に謝ってやるさ。地獄だって二人なら怖くないだろ?」
「怖いよ!」
「あっれえー?」
格好つけておいて予想外の返答が帰ってきた徳子。
「というかその話だと二人同時に死ぬってことになるんだけど!?そんなことになったら邪馬台国滅ぶんだけど!?」
「あー、ま、まあ、そうなるな。」
確かに縁起でもないことを言ったと反省する徳子。
卑弥呼は少しだけ起こった顔で。
「いいですか、徳子、女王としてお前に一つ命令を下します。」
「誰が女王だ。誰が。」
「私です。いいですか徳子。あなたは絶対に生き抜かないといけません。私かあなたのどちらかが生き残ること。それこそが邪馬台国が生き残るための最低条件です。」
「…分かってるよ。」
卑弥呼のお説教はまだまだ続く。徳子としても分かり切った内容だ。
「そして、もし私が死んだときには、お前は私の代わりに神の妻を名乗り、女装して女王としてふるまうのです。」
「ああ、分かってーん?今なんて言った?」
分かり切った内容の中に意味不明な内容が紛れ込んでいた。聴き間違いだと内心断言する徳子。
聞き直して、テイク2。
「次の女王はあなたです。」
「わかってたまるかっ!」
聞き返すんじゃなかったとばかりに片膝をつく徳子。
「そんな話きいたことがねえぞ!」
「当然、今初めて言ったんだから。」
話に聞き飽きてはいたが、こういう新鮮さなど望んでいない。
「大体!俺にそういうの向いてないってしってるだろ!」
「ええー」
にあうとおもうけどなーと一言付け加える卑弥呼に徳子がかみつく、それをうまくかわす卑弥呼。
「ま、まあ、もしもの話だよ。僕が死なない限り、君が女装することはないわけだし。」
これが日本史上初のフラグとなるのか否か。
「そういうことを言うとなぜかお前が死にそうな気がしてきたぞ。」
そしてなぜかこの手の死亡フラグに敏感な徳子。これも神のお告げなのだろうか。
「言っとくぞ、俺は女装しない。だからお前も死ぬ気で生きろ。お前が死んだとき、邪馬台国も滅ぶと思え。」
「そう簡単に死んだりはしないけど、もしもの時を考えて一度きみのじょそうすがたをみておきたいなぁ」
「却下!」
まあ、今この忙しい時にどちらかが倒れれば、二人そろってあの良い気だろうなとはある程度勘付いている二人だ。
衣服を整えて社を出ていこうとする徳子。
「伝令からそろそろ情報が入る。少し行ってくる。だから兄さんはそれまでに―」
「ん?なに?」
「その散らかした亀の甲羅を片付けておけ。」
「…はい。」
しかし、私たちは知らない。
邪馬台国についての謎を深めるばかりで、邪馬台国の女王、卑弥呼に関する一つの隠し事を。
「うーん、今日も一日隠し通せるかなぁ」
邪馬台国の女王、卑弥呼は、いつものように悩んでいた。
両親を早くに無くしてからというもの、女王として毅然と振舞ってきたが、それでもすべては運がよかっただけ。
「占いって言ってもただそれっぽいことを言ってみんなが勝手に納得してくれただけなんだけど…」
まあ、現代から考えて、そんな占いがすべて当たって国が続いたというのも変な話。
つまるところ、邪馬台国がある程度存続したのは、この卑弥呼がヒジョーに運に恵まれていたことが大きい。
そして、
「よう、兄弟。」
「ちょっと、かってにはいってこないでって」
「ははっ、わるい。」
口調とは裏腹に全く持って反省の色を見せない弟に、卑弥呼は苦笑する。
「もう…」
「ほら、柿を取ってきた。くえよ」
「ん、ありがと」
柿を一口かじる。甘い柿だ。
一方弟は渋柿に当たったらしく、外に向かって柿を投げつける。
「行儀悪いよ。」
「兄弟が運が良すぎるだけだろ。」
「前々からだけど、その兄弟って言い方、何とかならないの?」
「ん?いやか?」
「そうじゃないけど…」
「ま、人前で使いまくるとばれるかもしれないからな。普段はもっと気を遣うさ。お姉ちゃん(笑)」
「っ!からかうなっ!」
「おお、こわいこわい」
はて?と思う読者も多くいることだろう。では、二人の会話をもう少しだけ。
「でも、みんなの前ではちゃんと姉上と呼ぶんだからいいだろ?その方が分かりやすい。」
「…二人の時くらいは、普通に呼んでくれたっていいじゃないか。」
「…そういうところは本当に女みたいなことを言うんだな…兄さん。」
「そんな育てられ方をしたからね。」
そう、謎の国、邪馬台国、その女王卑弥呼は、男だった。
「それにしても、自分の兄ながら驚きを隠せねえな。普通の格好してればどっからどう見ても女だろ、それ。ついてるかついてないかくらいじゃね?ちがい。」
「いいだろ、いろいろと都合がいいんだから。」
卑弥呼は神の妻と言われ、夫も持つことはなかったと言われているが、これが真実。
夫を持たなかったんじゃない。もともと男だった。これが現実。
そういうことだ。
まあ?ギリシャ神話とかも同性愛を非常に大事にしていることだし?神様だって美少年は大事にするのが常識だ。
「ほんとはこの社も男子禁制なんだからね?」
「ほかでもない男子が入ってるじゃねえか。」
「ま、そうだけどさ、何なら君も女装してみる?」
「はっ、遠慮しとくよ。俺は兄貴と違って背も高いし、そういうのは似合わねえからな。」
立ち上がり衣服を整える。
「…行くの?」
「ああ、一応言っておくぞ。西の方から敵が攻めてきてる。明日には攻めてくるとみていい。」
「ありがとう、気を付けて。」
弟を見送った後、卑弥呼は一人、衣服を整える。
「さて、この情報をどう使おうかな?」
翌日、
「卑弥呼様!大変です!」
卑弥呼が社から出てくると、大勢の部下たちが大慌てでやってくる。
「あら、西の国が攻めてきたのでしょう?一応対応できるように準備はしていると思うけど。」
弟の事前情報を思いっきり駆使して卑弥呼は部下たちからの信頼を集めている。そして今日も部下たちはその奇跡をまのあたりにして、
「さ、さすがです。ひみこさま。」
「ま、神のお告げ、あるからね?」
卑弥呼は思う。こうも頻繁に神のお告げを連呼して、いずれ自分に天罰が訪れるのではないか、と。
「さあ、今のところは大丈夫だと思うけど、一応周りに気を付けるのよ。」
『はっ!』
「じゃあ、私は社に戻るから」
そういって踵を返す卑弥呼偉そうな口ぶりではあるが、弟の話をそのまましただけであとは丸投げ、まあ、いつものことではあるが、そのいつものことも、卑弥呼にとっては恐怖以外の何物でもなかった。
(ばれてない…よね?)
ばれてしまったが最後、邪馬台国は崩壊する。弟に言われるまでもなく、卑弥呼もその程度のことは理解していた。
社に戻った卑弥呼は、なぜか有り余っている亀の甲羅を並べる。忙しい中で集めた数少ないコレクションだ。
「うーん、これは割といいやつだよね。こっちのは色がきれいだし。もっといいばしょにかざりたいなあ」
「だから、それは兄貴の玩具じゃないっての。」
「あ、いたんだ」
勝手に入ってきたことを怒ってもよかったが、今日のやり取りは弟の情報がすごくいい仕事をした。
そう、邪馬台国の女王卑弥呼がうまいこと政治をやりくりしたというのは、間違いではない。だがそれは正解からは程遠いのだ。
正しくは、邪馬台国の美少年が、女装して女王卑弥呼となり、弟とのコンビで苦難を乗り越えていた。
これが謎多き邪馬台国の真実である。
邪馬台国の女王には、弟がいた。だが、女王卑弥呼の名が強すぎて、その名の陰に埋もれてしまい、その名前は今も不明のままだ。
だが、そいつは確かに存在した。その影の薄さから誰にも関与されず、だがしかし、絶妙なパス回し、こほん、絶妙なアシストで卑弥呼を支えた影の立役者、幻のセカンドマン
その名も―
「あ、徳子(とくこ)、そこのはっぱとってー」
「はいはい、今日もお疲れさま。」
この時代には男であろうが名前に子がつくものが多い。後の時代の聖徳太子も小野妹子も子がつくことからも分かるだろう。だからこのような名前でも立派に卑弥呼の弟として成り立つし、何一つ不自然はないのである。
「じゃあ、おねがーい」
「はいはい、わかったよ。」
さて、邪馬台国の真実はまだまだある。
卑弥呼には日課があった。
滝で身を清める(ただし夏だけ)、など、ほとんどはそれっぽさと自分の都合を合わせた者であり、性別がばれかねない卑弥呼にとって本当の意味での日課というと、これが真っ先に挙げられる。
「えいっ」
ペシンッ!
「っ~~!!」
「どうだ?」
「少し強い。もっと弱くお願い。」
「はいはい」
ペシンッ、ぺシンっ
「んっ、あっ」
「おい、変な声を出すなよ。俺だって変な気持ちになってくるじゃねえか。」
「ご、ごめ・・・んあっ、はあ、はあっ」
言っておくが、卑弥呼の日課は別に葉っぱでたたかれるsmプレイなどでは断じてない。
葉っぱでたたかれることで血行を良くする。現代でもサウナとして時々見られる行為だ。
とはいえど、見た目女にしか見えない美少年が叩かれて変な声をあげられては、実の弟としても何も感じないわけがない。
「…頼むから声を抑えてくれ。」
「う、うん。んあっ、ああっ!」
艶やかな声は、卑弥呼の日課が終わるまで続いた。
「まったく、こんなみっともない声まで出して、兄貴はほんと、女に生まれてきた方が良かったんじゃねえか?」
「い、言わないで…」
うるんだ目で徳子を見つめてくる。その微妙に涙がかかった眼は、徳子の理性を非常にガタガタと揺さぶった。
うつぶせになったままの卑弥呼の隣に徳子は座り、豪快に笑いだす。
「ま、あんたが男に生まれたから、俺はあんたと楽しくやれてるんだろうよ。あんたが神の妻としてしっかりやれてんのもあんたが男に生まれたゆえだ。」
その言葉に少しだけむっとする卑弥呼。
「何を言うのさ。僕が女に生まれてたらそれこそ問題なく女王として、神の妻としてふるまえたに決まってるじゃん。」
「いや、それはないな。」
今までで一番自信に満ちた表情で、徳子は断言する。
「なんでさ!」
うつ伏せを崩さずに、文句だけは一人前の卑弥呼の前に立ち、顔を下ろす。そして、
「だって、女だったら、俺が真っ先に純潔を奪ってるよ。」
「っ~~~~!自分の兄をからかうんじゃありません!」
「そういう反応、まんま女子だからな。気をつけろよ?」
気を付けないと、襲うぞ?と言わんばかりの徳子の表情。それはいつも卑弥呼を困惑させる魔性の笑みだった。
「ええと、そういえばあの大陸の国から使者が来るって話、ほんと?」
「ああ、鏡が届くだろうからな、受け取っとけよ。」
「ええ?正直いらないというか…」
「儀式とかにつかうんだよ!もらっとけ!」
「今だって持ってるし…」
「あれ、移りが悪くなってたからな。そろそろ変え時だ。」
「ま、分かったけどさ。ううっ、明日も女装するのか―いやだなぁ。ねえ、一日変わってくれない?」
「それ、無理だってわかっていってるだろう。」
「まあ、そうなんだけどさ。神の妻って、ずっとやってるとなんだか罰が当たりそうで…」
「神様はすべてを見ているっていうからな。」
「そう!そこなんだよ!」
徳子の言葉にここ一番に食いつく卑弥呼。
「怖いんだよ!神様の天罰が!男が神様の妻を騙って何も起きないはずがない!」
「そうか?案外楽しんでみてるかもしれないぞ。世界には美少年が好きな神様や、女装した男が好きな神様だっているかもしれない。神様なんて何人いるかわかったもんじゃないからな。」
「うーん、そんなに変態な神様が世界に入るのかなあ。」
現代人からすれば、ギリシャあたりにいると考えるものが多いだろうが、この時代の人々は神の怒りを非常に恐れていた。神の妻とまで嘘をついた卑弥呼の恐怖は計り知れないものがあったかもしれない。
「ま、もし天罰が下って死んじまったら、俺も一緒に謝ってやるさ。地獄だって二人なら怖くないだろ?」
「怖いよ!」
「あっれえー?」
格好つけておいて予想外の返答が帰ってきた徳子。
「というかその話だと二人同時に死ぬってことになるんだけど!?そんなことになったら邪馬台国滅ぶんだけど!?」
「あー、ま、まあ、そうなるな。」
確かに縁起でもないことを言ったと反省する徳子。
卑弥呼は少しだけ起こった顔で。
「いいですか、徳子、女王としてお前に一つ命令を下します。」
「誰が女王だ。誰が。」
「私です。いいですか徳子。あなたは絶対に生き抜かないといけません。私かあなたのどちらかが生き残ること。それこそが邪馬台国が生き残るための最低条件です。」
「…分かってるよ。」
卑弥呼のお説教はまだまだ続く。徳子としても分かり切った内容だ。
「そして、もし私が死んだときには、お前は私の代わりに神の妻を名乗り、女装して女王としてふるまうのです。」
「ああ、分かってーん?今なんて言った?」
分かり切った内容の中に意味不明な内容が紛れ込んでいた。聴き間違いだと内心断言する徳子。
聞き直して、テイク2。
「次の女王はあなたです。」
「わかってたまるかっ!」
聞き返すんじゃなかったとばかりに片膝をつく徳子。
「そんな話きいたことがねえぞ!」
「当然、今初めて言ったんだから。」
話に聞き飽きてはいたが、こういう新鮮さなど望んでいない。
「大体!俺にそういうの向いてないってしってるだろ!」
「ええー」
にあうとおもうけどなーと一言付け加える卑弥呼に徳子がかみつく、それをうまくかわす卑弥呼。
「ま、まあ、もしもの話だよ。僕が死なない限り、君が女装することはないわけだし。」
これが日本史上初のフラグとなるのか否か。
「そういうことを言うとなぜかお前が死にそうな気がしてきたぞ。」
そしてなぜかこの手の死亡フラグに敏感な徳子。これも神のお告げなのだろうか。
「言っとくぞ、俺は女装しない。だからお前も死ぬ気で生きろ。お前が死んだとき、邪馬台国も滅ぶと思え。」
「そう簡単に死んだりはしないけど、もしもの時を考えて一度きみのじょそうすがたをみておきたいなぁ」
「却下!」
まあ、今この忙しい時にどちらかが倒れれば、二人そろってあの良い気だろうなとはある程度勘付いている二人だ。
衣服を整えて社を出ていこうとする徳子。
「伝令からそろそろ情報が入る。少し行ってくる。だから兄さんはそれまでに―」
「ん?なに?」
「その散らかした亀の甲羅を片付けておけ。」
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