男子校、強制共学化

氷室ゆうり

文字の大きさ
上 下
18 / 21
第二章 文化祭編

委員会連合会 前編(本編)

しおりを挟む
時系列は、生徒総会が始まる数日前にさかのぼる。
普段は静かなはずの生徒会室も、今日ばかりはざわざわとしていた。
というか。定員オーバー気味である。
委員会連合会。委員長連合会とも呼ばれる。まあ、生徒会と委員会が共同でたまーに開催するイベントである。
「さて諸君、みんな集まってくれたかな?」
生徒会長の上野(うえの)がそう明るく問いかける。
「はいせんせー。みゃーみゃーが呼んだ新聞部の子が少し遅れるらしいにゃ。ちょっと待ってあげてほしいのにゃ!」
「うん、僕は先生じゃないけどね?了解。しばらく待ってみようか。」
その決定に周りはざわざわと文句を垂れ始める。
「俺たち委員長が集まったってのに、取材する新聞部の方が遅れるってなんだよ。」
「仕方がないさ。あれは保健委員のお気に入りだと聞く。」
「正確には、一部の新聞部員がお気に入りらしいよ?」
「俺には関係ないな。うちには黒田がいるから。」

生徒会室に集まる面々。
風紀委員、保健委員。図書委員。美化委員。放送委員、などなど。
それぞれの委員長が集まる委員長連合会。
彼らは数名の後輩を付き添いとして連れ込んでいるため、生徒会室はちょっとした大所帯になっていた。自分たちの後継者としての顔見せのようなものである。
「初めましての子もいるかな?僕がココの生徒会長だ。上野ひびきという。そしてこっちが僕の後釜。」
「ど、どうも、釘宮です。よろしくお願いします。」
ぺこりと一礼した少女は、着席する。
なんだかんだ言ってこの場の集団の性別は大体男女比がとんとんだ。委員長は意外と女体化しないものも多いので、美化委員長と保健委員長、そして生徒会の二人が女体化した権力者といえるだろう。
まあ、この集団に関しては、だが。

「それにしても、黒田も出世したなあ。」
「あ、瑞樹さん。今日はちゃんと化粧してきてるんですね。」
「まあな。こいつらがうるさくて…」
瑞樹の後ろでは、美化委員の男や美少女がにらみつけているのがみえる。美化委員長をこのばに連れてくることがそもそも難関だったのだろう。美化委員の男子に至っては放送委員に愚痴をこぼしている様子も見える。
そして、
「ぐぬぬ。美化委員長の旭川め・・・黒田と親しいというのは本当だったのか…!」
そして、図書委員からもにらまれる保健委員長。
学年の垣根を越えてもなお、ナチュラルな美少女同士、ランキングに入り込む二人。なにかと合う二人。
委員会の垣根を超えた友情であれど、それは図書委員や各委員会の隠れファンを嫉妬させるに十分なものだった。

その時、生徒会室のドアがノックされる。
コンコンと、静かに、とても小さく、ノックしたことにすら気づきようのないほど小さな音。
だが、それを察知したのはみゃーみゃー先輩だ。猫耳をぴくぴくさせて立ち上がる。
「あ、新聞部がきたにゃ!」
瞬間、面々の緊張感が高まる。
新聞部の切り札。それは美少女ランキングの一人と、男前ランキングの一人。どちらにせよ油断はできないと構えるが…
「もうっ!ちゃんとごめんなさいして、そのあとは普通に入ってくればいいのにゃ。ほら、いや、みんな別に怒ってないし…」
グイっと手を引き、中に引き込もうとするみゃーみゃー先輩。一人の男はなすすべもなく、ぺこぺこしながら中に入ってきた。
「男前ランキングの方だったか。」
「それはそれで油断できんぞ。うちの黒田を食い荒らそうものなら…」
「ええとせんぱい?ぼくがどうかしましたか?」
「んー?なんでもないぞ?」
「お前は知らなくていいんだからなー?よしよし。おい、生徒会、お茶の一つくらい出してくれないか?暑くてかなわん。」
「ああ、失敬。今すぐ用意しよう。」
図書委員たちが茶を求め、黒田に茶とお茶菓子が集まりつつある。
その間に、新聞部の切り札はペコペコと自己紹介を始める。
「え、えと。信濃健(しなの けん)です。2年です。お願いします。」
遅れてきてそれだけのあいさつ。あまりにもそっけない挨拶に男子どもはイラっとするが。
「はい、よくできましたにゃ。」
「あ、信濃くん。久しぶり。今日は取材よろしくね。」
「お前が信濃か。うわさはかねがね聞いてる。静かで優秀だってな。よろしく。胸でも揉むか?」
「こら!なにしてるにゃ!というか君も揉まない!」
なぜか女体化メンバーからの評判がいいことが、事態を余計にややこしくした。
…あとから聞いた話では、信濃はただ緊張していただけらしい。彼のクラスにいる放送委員の証言だ。


「さてさて、今日の議題はこれしかない。文化祭が近いからね。風紀委員長、状況説明よろしく。」
「ああ、俺から説明する。結論から言うと、今年の文化祭は来賓がいつもより多くなる分、よりトラブルが起こりやすそうなんだ。そこで、女体化を思いっきり活用する。」
「そういえば、曽田君いつの間にか男に戻ってるにゃ。天原先輩が今は女役かにゃ?」
「話の腰を折るなよ!お前たちの提案だろうが!」
図星だったのか、変なキレ方をする風紀委員長。
「なるほどな。女体化に精神が侵食されないように必死で男っぽく振舞ってるのか。ほら見たかお前ら。俺が女っぽくしないのもこういう日々の努力があってだなあ…」
「嘘つけ。センパイはいつだって適当なだけでしょ?」
「旭川さんは何もしなくてもきれいだからすごいですよねー」
「はは、黒田に言われても嫉妬にしか聞こえないなー。俺もお前なら普通に抱ける。」
「ほら、気味も静かにするだけじゃなくて会話に入るにゃ…ダメだよ?取材なんだからじっとしてないと。」
「わ、分かってます…」
「まあ気にすんな。俺もどっちかといえばお前に近いタイプだ。」
「ビジュアルだけでしょ?」
口喧嘩そっちのけで女体化とイケメン組は好き勝手雑談をしている。ちなみにところどころツッコミに入るのは美化委員の後輩だ。旭川には図書委員の連中からの憎しみのまなざしもむけられているが一向に気づく気配はない。生まれながらの美形ゆえの余裕だろうか。

「まあ、言い出したのはみゃーみゃーだし、ここからはみゃーみゃがかわるにゃ。」
曽田から強引にマイクを奪って楽しそうに構える。
「じゃあ、けつろんだけいってしまうにゃ!今年の文化祭は、全校生徒の最低半分以上を女体化させたいと思っているにゃ!毎年女体化して店を開けば集客も売り上げも期待できるし、そもそも女子の身体なら、誰だって簡単に取り押さえられるにゃ。もめごとも起こりにくいニャアっ。」
ええ・・・と、ざわめきの声が広がる。
頭の悪そうなことをしごく真面目に、それも女体化における中核をなす委員長が述べているのだ。
だが、ここは女体化が校則に組み込まれる学園。
「もちろん、イケメンランキング上位者を女体化させちゃうとイケメン目当てにやってくる女子たちがかわいそうだから、そこのところはしっかり審査するにゃ。念のため、最近素行の悪い部活を見繕って実験しておくので、そこのところも安心するにゃ。風紀委員!」
「ああ。ここだけの話だが、ラグビー部の連中に近々協力してもらおうと思っている。時期が来たら放送部には台本を渡しておくから、よろしく頼む。」
「了解。」
無茶苦茶なはずの議題は、異常なほどいとも簡単に承認された。
「俺からもいいか?」
美化委員長の旭川水樹だ。
「俺たち美化委員会だが、今回の文化祭は、全力で楽しむという仕事をする。細かい仕事は任せた。」
要するに、さぼるぞという宣言だ。
「おいお前!委員長としてそれでいいのか!」
図書委員長がかみつく。黒田と仲良くされていたことがそもそも悔しいのだ。黒田に慕われているうえにこんな態度では嫌われてしまうのも仕方がない。
もともと、いけ好かないイケメン。当時からそこそこの有名人。いまは美女になっても、それでも恨みは消えてくれない。これはもはや男とか女とか関係ないやつだ。
「そういうなよ、チンコ大きくしてよく言う。」
「…ぐぬぬ」
黒田と瑞樹。この二人が以前何をしたかを知れば、委員会同士の抗争が始まってしまうかもしれない。黒田が必死に瑞樹のフォローに回ったことも、火に油を注いだことだろう。
特に権限のない委員会同士でも、瑞樹個人の影響力は決してバカにできないのだ。

そしてとくにエロいことも起こらず、会議の終盤。
「さて、こちらの件はまあいいや。じゃあ次。いよいよ生徒総会が明日だけど、何か言っておきたいことはある?」
上野が周りを見渡すと、なぜか旭川と目が合った。美少女同士のアイコンタクトだ。
「部活動は荒れるだろうな。部費はいつも奪い合いだ。つってもいつもどおり、写真部と美術部に入れておけば問題はないさ。」
「そういえば、今年はランキング上位者は舞台に上がるのかにゃ?けんくん?」
「え、ええと、何人かには声をかけたみたいですけど…みんな嫌がるみたいで。ただ、ランキング自体は決定しましたので、それは近々掲載します。」
「うちの釘宮君の予想が大体当たってね。まあ、女体化の二位と三位を間違えたんだけど。」
「あの二人は接戦でした。」
生徒会長の上野も、信濃の言葉に賛同する。
「うん、僕も聞いた。そこはあきらめるしかないね。それより君も男前ランキングにいるんだろ?」
「なんかわかんないですけど、いつの間にか入ってました。」
「…自慢かにゃ?」
みゃーみゃーの発言は確かに一理あったようにも見えるが、信濃に悪気はない。そして、意外なところから助け船が入る。
「ああ、俺もそんな感じだったなあ。」
「僕も、気づいたらランキングに載せられてて、びっくりしました。」
信濃の言葉に瑞樹、黒田が共感したのだ。入りたくてもそうそう入れるものではないし、天文部の少女は一生懸命頑張って今年の美少女ランキングで5番目に入ったのだ。
それらの情報を大まかにつかんでいた生徒会長の上野と、次期生徒会長の釘宮は嘆息する。
才能あふれるものにとっては、ランキング入りはどうでもいいことなのだ。
「…そういえば、最近ハーレムランキングみたいな変なランキングができてたけど、あれ、なんなんだ?」
図書委員がふと、そんな噂を振る。
そういえば、と周りの面々も首をかしげる。そういえばどこかで自分たちが関わっていたような気もするが、なぜか誰も思い出せない。
風紀委員と保健委員もそのうわさは聞いたことがあるらしいが、
「うーん、聞いたことはあるけど、細かいランキングまでは知らないにゃ。」
「俺も、分からんな。どこかで聞いたことはあるような…ひょっとして俺が女体化してた頃の話か?」
…実はこの二人は事件に関わっているのだが、見当違いの方向に話が進んでしまい、結局うやむやになってしまった。



「まあいいや!生徒総会!頑張っていきましょう。そして、それが終わったら!いよいよ文化祭に向けて!いそがしくなるぞっ!」
『おおっ!』
「ラグビー部を女体化させるぞ!」
「にょたいかお化け屋敷もやってみたいにゃ!モンスター娘化もやるにゃ!」
「全力でさぼるぞ!」
「黒田、悪いことは言わんからこいつとは縁を切った方がいい。」
「いや、でもこの人は…」
「…」
「君も何かしゃべるにゃ。…え?…ああー。そ、そうか、そうだったね…緊張してきた…」
それぞれのなすべき方向性を明確にし、委員会連合会は終わりへと向かう。
「では、これにて、閉幕!」
たまには真っ当に会議が終わることもある。やればできるとはこういうことなのかもしれない。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:1,050pt お気に入り:67

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,857pt お気に入り:2,217

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:39,613pt お気に入り:5,331

鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,073pt お気に入り:159

処理中です...