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女の子としては抵抗があるけれど 前編

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その日は、杏理君がゆっくり帰ってきてと言っていたけど、それほど時間をつぶせなかった私は普通に屋敷に帰ってきていた。さすがに一日中山を歩き回ったのでシャワーを浴びたのだけど寝巻に着替える最中、ふと思ったことがある。
「洗濯機、古いままよね」
いや別に、古いとまではいわないけど、今日の悠里君からの電話によれば、新しく洗濯機を買ったという印象をうけたのよね。でも思い返せば彼の発言はいろいろとおかしかった。…
今日に限った話じゃないけど。
新人の洗濯機?てっきり新品と言い間違えたかワタシの聞き間違えだと思っていたけど。遊ぶというのはひょっとして?……まさかね。





「いや、ほんとにまさかとおもってたわよ。」
まさか本当に人を洗濯機に変えて遊んでいたとは、まあ普通の洗濯機に興味を持つタイプじゃないわよね。それにしても相変わらず、考え方が常人離れしている。いったいどうすればこんな事態を引き起こすのか。いや、それよりも、
「それで、なんで悠里君が変人扱いされなきゃいけないの?」
「香蓮さんはどうして僕が話す前から悠里君の味方なの?フラグは僕の方が多いよね?」
こんな感じでビミョーに拗ねている杏理君から情報を聞き出さないと。


「ふむ、なるほど、レン君とあかりさんね」
大体何があったかは聞いた。魔道具の実験と称していろいろしたということも。洗濯機になった女の子にいたずらしたことも。杏理君は大したことをしてないと言っているけど、女の子の胸を強引に触って何が大したことないのか。でも、それはそれとして、
「それで、その二人は今日は泊まっていくのね。」
一応挨拶くらいはしておかないと、幸いまだ寝るような時間でもないし、向こうはそれぞれ部屋でゆっくりしているだろうから。と思ったら。
ガチャリ、とドアが開いて
「失礼します。」
と男の子のほうから入ってきてくれた。

「こんばんは、キミがレン君ね。話は聞いてるわ。」
「あの、どうも、よろしくお願いします。」
うん、杏理君から聞いた話とほとんど同じような子だ。大人しい印象を受けるけどわざわざ挨拶をしに来てくれたあたりから礼儀正しさが伝わってくる。
レン君は本当に挨拶をしに来ただけだったらしく、そそくさと退場していった。…ふむ、正直言ってそんなに女の子に強引なことをするタイプには見えない。私はその場に居たわけではないからどれくらいのことをしたのか分からないけど、まじめだから仕事としてやってしまったというところなのかな。
と思ったのだけど、
「いや、あの子はすごかった。具体的に言えば洗濯機のボタンを押しまくったりふたのところをいじったりしていた。」
と杏理君はレン君ドs説を押しまくる。うーん。ボタンと言われても…
杏理君の話は止まらない。
「実際、ただの知り合いって感じじゃないし、恋人なのかなー。でも悠里君にキュンと来てたようにも見えるし、それならあの子を最悪ビッチ認定しなきゃいけなくなるし。それは嫌だなぁ」
杏理君は意外と頭は悪くないし興味を持ったことはきちんと考えることが多い。けど、
「イケメンに一生懸命触られてキュンと来てしまうことは女の子なら誰でもあるわ。それくらいのことで勝手に評価を付けるのは良くないわよ。」
とくぎを刺しておく。刺したのだけど
「え、香蓮さんも悠里君にキュンとくるの?それはちょっと嫉妬するなー」
こういう切り返しは想定してなかった。こういう減らず口をたたかなければ杏理君も十分美形なのに。でも、杏理君もあかりさんを本気でビッチ扱いしたいわけではないらしい、
「まあ、あかりさんがビッチだというのは撤回するけど、実際あかりさんとレン君は付き合ってるのか、恋人未満のあたりなのか、うちの悠里君とくっつく見込みはあるのか。この辺りは考えておかないと。」
と、杏理君が自分勝手な考察を続けていると
ガチャリ
「すいません、お風呂お借りしたいんですけど。・・・あ、どうも」
当の考察対象、あかりさんが入ってきた。

「すいません、お帰りになられていると知らなかったので。七瀬あかりと言います。」
「いえいえ、この屋敷も私のものってわけではないし、よろしくね。あかりさん。」
この子がうわさのあかりさんね。可愛らしい子だけどいろいろな目にあったのか、とても疲れて見えるわね。・・・お疲れさま。
「風呂場はそこを出て左側よ、ああそういえば、アイスを買ってきたの。あとで一緒に食べましょう。」
杏理君は参加したがるだろうけど、諜報合戦は女子会でするのが一番。男の前では言えないこともあるでしょう。
あかりさんも
「はい、ありがとうございます。」
と、私の提案に乗ってくれた。


「というわけで、あかりさんのことは私に任せてくれない?」
と、お願いすると予想通りの答えが返ってきた。
「嫌だ。」
だと思った。でもそれも想定済み。
「女の子同士でないと言えない話もあるの。それに杏理君、私のことを好きだって言ってくれるのならまずは私を信じてほしいなぁ。さっき杏理君が嫉妬するとか言ってたけど早々他の女の子に興味を持たれたら私も嫉妬しちゃうなぁ」
実際まだ付き合っていないのだから文句を言う筋合いは私にはないけど、好きって言ってくるその口でほかの女の子の話を言われるのは少しさびしいなぁ。
そんなことを言っていると、なんと杏理君が抱き着いてきた。
「ごめんね香蓮さんっ、寂しい思いをさせちゃって、配慮が足りなかったね。よし、魔道具の用事がすんだらデートに行こう。二人っきりでパーッとやろう!」
・・・ごめんね。杏理君。



「というわけで、女子会を始めましょう。」
私たちは二人っきりで女子会を始めた。部屋の中には買ってきたアイスのほかにも知り合いが旅行土産に買ってきてくれたクッキーなども出した。
「香蓮さんはお酒飲まないんですか?」
あかりさんが聞いてくる。実は私は今年から新社会人です。あかりさんが未成年だからあんまり飲むのはいやだなぁ。なんかいやだ。うまくいえないけど。
「ああ、今日はなんかそんな気分じゃないというか、どちらかというと甘いものが欲しいかなー」
「たしかに甘いもの食べたくなる時間ですよねー」
やっぱり話していて伝わってくる。この子はいい子だ。明るくて気遣いもできる。同性からも人気が出るタイプの女の子だ。
杏理君はいろいろ悩んでいたようだけど正直言って悩むようなことではないし、問い詰めるようなことでもない。私の中での結論は出ている。というか女の子なら誰だってわかるはずだ。イケメンに言い寄られていい気分になるのは当たり前に決まってる。しかも今回はイケメン二人に体中まさぐられたようなものだ。悠里君は初対面だったけど紳士的な子だからドキドキしてしまったのだろう。一応杏理君に話を合わせてみたけどどっち狙いとかそういう段階にまで急に考えるわけがない。あかりさんの反応は女の子としては至極真っ当です!私が保証します。

話が進むうちに私たちは打ち解けていった。あかりさんも元気を取り戻していったらしく真相を自分からべらべらしゃべり出した。
「だってあんな風に触られたらびっくりしますよ。悠里さん、洗濯機になった私にも優しくささやいてくれたし。不安でしたけど、うれしかったです。そりゃあキュンときますよ!女の子だもん!」
「そうね、あかりちゃんの言う通り。まったく、杏理君はあの程度のことで大騒ぎするんだから」
一途な女の子なら世の中にごまんといるけど、それでも全くイケメンに興味がないというのは無理だろう。
そう思っていると今度はあかりちゃんの方から話題を振ってきた。
「そういう意味では香蓮さんこそいいなぁーって思いますよ。普段の生活が逆ハーレムじゃないですか。」
まあ、彼女の言い分も一理ある。でも、
「悠里君はいい子だけど、杏理君にはよく巻き込まれるからなぁ」
「今日見た感じだと魔法使いの中では普通かやさしいほうですよー」
それは知らなかった。他の魔法使いに会うのが怖いんだけど。
まあ何はともあれ、私たちは仲良く女子会を続ける


「じゃあ何、それを使うと私も何かになっちゃうってこと?」
そして今は、愚痴がてら杏理ちゃんを洗濯機にした道具の説明を受けていた。それにしてもこの道具、製作者の意図が全くもって見えない。買う方も買う方だけど作る方も作る方だ。
「試してみます?大事に優しく扱ってあげますよ。」
うーむ、さすがに物になるのはちょっと怖いなぁ。でも杏理君は絶対私に使おうとするだろうし一度くらいなら、と。
「わかったわ、やってみましょう。」
了承し、万華鏡に目を当てた。


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