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狐と鳥と聖夜を……

【21】

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「でもまあ……一つ言えることは、ベテランの姑獲鳥さんは凄腕だってことで……」

 ぶつぶつ言う慈英の言葉に、何言うてはるんか全然わからへんわ、と暁月は肩を竦めて。

「けど、ベテランの姑獲鳥なら、ええ仕事しはるんちゃう?」
 あくびをしながら、寝る。と一言だけ言って、暁月はこたつから立ち上がる。

 慈英は机の上にばらまかれた菓子を一つとっては口に入れ、ゆっくりと咀嚼して飲み込む。
 甘くて安いその味は、なんだか少しだけ懐かしくて。

「あの姑獲鳥、今度は人になって生まれてくるのかな……」
 どうしてあの姑獲鳥にかまってしまったのか。それは千年も前に確かに居たはずの、自分と兄の母親を思い出させたのかもしれない。

 まさか上の息子が妖狐を封じるために、下の息子を犠牲にするとは、想像もしなかっただろう。母の嘆きを想像するのが怖く、慈英は頭を振って我が子をひたすら愛していた姑獲鳥の姿を脳裏からかき消す。

 慈英はサンタの帽子を脱いで、ゴロンとそのまま横になり、手を伸ばしてはお菓子を食べて、ビターチョコより少しだけほろ苦い、クリスマス・イブの夜は更けていく。

***

 暁月は年末に向かうある日、いつもどおり読んでいた新聞で、あの女を殺した男が警察に自首してきたことを知った。

「せやから、ベテランの姑獲鳥は怖いと言うたやろ?」
 ポツリと呟く。まあ自首したからといって、男に取り憑いた姑獲鳥がそれで納得したかどうかはわからないが。

(まあ、姑獲鳥としては格好の標的を見つけたことだし、しばらくはがっつりと取り憑いて、夜毎枕元で恨み言を言っているかもしれへんな……当然の酬いやけど)
 と暁月は酷薄な笑いを浮かべる。

 まあ、よくも悪くも、慈英が鳥を拾ってきたお陰で、深い怨念を持った物の怪が増えずにすんだ、ということは、評価できるのかもしれない。

 そう思って小さく笑みを浮かべたその途端。

「暁月ぅぅぅぅぅぅぅ」
 玄関先からまた情けない声が聞こえる。

 思わず暁月はぎゅうっと瞳を細め、玄関先に声を飛ばす。

「……今度は何やっ!!」
 どうせまた、慈英が何か厄介事を持ち込んできたんやろう。
 怒り半分……諦め半分で暁月は立ち上がる。

 まあ、千年してきたことの繰り返しを、また新たに一つ繰り返すだけだ。

 でも、この弟が居なければ、この千年は退屈で耐えられなかったかもしれないから……。

 暁月はそんな想いを憮然とした表情に隠して、唇に浮いた笑みを誤魔化すよう、わざと、どすどすと足音を立てて、玄関先に向かったのだった。


~ 終 ~
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