うちの会社の御曹司が、私の許婚だったみたいです

sakuru

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番外編 御厨夫人になりまして(温泉旅行編)

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 先に連絡していたのか、宿に着いた後はスムースに離れの部屋まで連れていかれた。仲居も案内だけで長居することなく、静謐な空間がそこに用意されていた。

「……すまなかった……怖かっただろう」
 部屋に入った瞬間、ぎゅっと抱きしめられて、莉乃亜は目を瞬かせる。そう言えば泉川にすごく怒りも感じていたし、自分の不甲斐なさにも苛立たしさを感じては居たけれど、不思議と思ったほど恐怖心はなかった気がする。

「……大丈夫ですよ。樹さんがちゃんと来てくれるって思ってましたから」
 手を回して、背中をとんとんと叩くと、彼は莉乃亜の肩に埋めていた顔をゆっくりと顔を上げる。

「だって私が十分以上経っても戻らなかったら、絶対樹さんが探しに来てくれるって思ってましたし、内鍵なんて閉まっていても、お店の人に頼めば開くはずですから。泉川常務ってあんまり頭良くないんだなって思いました」
 そりゃ少しは怖かったですけど、と言って笑うと、彼は小さくため息をついた。

「くだらない電話で引っ張られて、かまをかけてみたら昴がこの店に予約を入れていると聞いて嫌な予感がしたんだ。だから莉乃亜が戻ってこないことを伝えて、無理やり該当の部屋のマスターキーを持ってこさせた。もう少し早く気づけば嫌な思いをさせないですんだんだが。俺の対応が甘かった。あの時もっと徹底的に潰しておけば……」

 苛烈な事を言われて、莉乃亜は思わず顔をふるふると横に振った。
「あの、最初あのルポライターって人にいきなりあれこれ聞かれて、帰り道をわざと防がれて、そこで声を掛けてきた泉川常務がその人を追っ払ってくれて。一人で部屋に戻るのは危ないと言われて、樹さんを呼んであげるからと、部屋に引っ張り込まれて。あの、まさかその二人がグルだなんて思ってもなくて……」
 その言葉にすぅっと樹が瞳を細める。

「お前に説明しなかったか? この間の件で、中途半端にマスコミに情報を漏らして、結果としてグループ全体を危機にさらしたアイツの事を、御厨の親族が怒っていると。あの男に二度とそんなことをさせないために、こちらで抑え込む、と。……まあ、それであの男も事態を理解して、大人しくなると思ったんだが、思った以上に馬鹿だったんだな」
 
「あの、ごめんなさい。泉川常務が悪いことをして、罰を受けたらしいっていうのはなんとなく分かってたんですが、だから挽回の意味もあって、今回はフォローしてくれる気になってくれたのかなって……」
「そうか、昴がお前くらい素直だったらよかったんだが……」
 そう言って優しく頬を撫でられたのに、樹の普段と違う様子に莉乃亜は嫌な予感しかしない。

「お前が人を疑わない性格なのはよく知っている。だから俺の注意喚起が足りなかった事も理解した。それに御厨の家のことで、お前に嫌な思いをさせたことは心から謝る」

「あの、でも私がもっと警戒していたら……」
 慌ててそう答えると、彼は莉乃亜の唇を親指の腹で撫で上げて、なぜか眼鏡越しに壮絶にセクシーな流し目を送る。思わず莉乃亜はドキッとして言葉を止めた。

「まあ、確かにお前の危機管理が甘かったのも確かだな」
「……樹、さん?」
「なるほど、男の欲深さがよく理解できるように、その体に教え込んでやるのも夫の義務か……」
 そういうと樹はどこか楽しそうに、肉食獣めいた笑みを浮かべた。
 

***********

すみません、本日、微妙に体調不良でして、
短めの更新となっていますが、
その分、明日は艶々しいのを上げたいと思います←

苦手でなければお付き合いいただければ……。

昨日、恋愛大賞の投票が終了しました。
皆さまの応援がとても嬉しかったです。ありがとうございました!
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