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ルネがヨハンに誘われて素人劇団に顔を出すようになったのは、学園に通っていた15才の頃だった。
ヨハンはルネより2才年上で同じ寮生だった。
最初はなんとなく顔を知っている程度で、二人にこれといった接点はなかった。
その日、ルネはクリスマス休暇でそれぞれの家族のもとに帰っていく友達を見送って、
「まったく、アンタ一人残ってるから私も帰れやしない」
と去年と同じセリフで愚痴る寮母さんに頭を下げて自室に戻ってきて、特にすることもなくベッドに寝転んで、既に読み飽きた雑誌をパラパラとめくったりしていた。
夕方になって食堂に行くと、先に座っている人がいて、それがヨハンだった。
離れた席に座ると寮母さんが、
「今年はもう一人いたんだね」
と言って、
「わざわざ離れて座ることもないだろうに」
と同意を求めるようにヨハンを見た。
「良かったらこっち来いよ」
フレンドリーに誘われれば断るわけにもいかず、面倒だな、と思いながらも愛想の良い笑みを浮かべてルネは席を移動した。
「3年生のルネ・デュシャンです」
「俺はヨハン・クライブ。5年だ」
ルネはいつもと代わり映えのしない夕食のシチューをスプーンで弄びながら、さっさと食事を済ませて部屋に戻ろうと考えていた。
「ルネ、君の家は遠いの?」
「うーん、遠いっていえば遠いですかね」
ルネは歩いても行けるあの場所を自分の家だと言っていいものか迷いながらそう答えた。
「隣の国の人?名前がそんなかんじ」
「先祖が移民みたいです」
「そうか、俺もヨハンって外人っぽいだろ?」
「そうですね」
ルネが食べるスピードを上げたのを見て、ヨハンは笑った。
「オイオイ、せっかく二人なんだから もっとゆっくり話そうぜ。
な、オマエ明日予定あるか?」
そ う言ってヨハンがルネを誘ったのが劇団セルライトだった。
「クリスマス公演って、生誕劇でもするんですか?」
いかにも気乗りのしないルネの声に
「そんなつまんないものやらないよ」
と笑ったヨハンの役は聖夜に公衆トイレで生み捨てられた赤子を拾って育てるドラァグクイーンだった。
繰り広げられるナンセンスドタバタ劇に、ルネは久しぶりに涙を流して笑った。
それからルネはヨハンに連れられて劇団に顔を出すようになったが、いくら誘われても練習に参加することはなかった。
「お前は他人を惹き付ける容貌をしているから芝居をやればいいのに」
きっと人気が出るよ、とヨハンが言う。
「自分でいるのも面倒なのに、他のものになんかなれないですよ」
「そっかあ?俺とは逆だな。
俺は自分でいるのを忘れたいよ」
そう言ってヨハンは自分の生い立ちを話した。
「俺は私生児でさ、母子家庭だったんだけど、5才の時に孤児院に預けられたのよ。生活が大変でさ」
ルネはこういう話は苦手だな、と思いながらも黙って聞いていた。
「母が迎えに来るのを待ってたんだけどさ、10才の時に父親って人が俺を探して引き取りにきたのよ。
奥さんに子供ができなかったんだな。
奥さんにしたら面白くないよな。
俺ももちろん居心地悪かった。
で、母親の居場所が分かったんだよ。
嬉しくて、喜んで会いに行ったんだ。
なんていうかさ、俺の想像の中の母親ってさ、貧乏で、苦労してて・・・。
『ボクが働いて母さんを楽させてやるから』
なんてセリフまで練習してさ。
だけど現実の母親は新しい旦那さんがいて、可愛い娘がいて、キレイな家で幸せそうに暮らしてるわけ。
新しい旦那さんが、
『君も遠慮しないで、いつでも遊びに来てね』
なんて言うの。
良かったじゃん?幸せそうで。
喜ばなきゃいけないんだけどさ」
ヨハンはそのまま黙ってしまった。
その後無理矢理参加させられた舞台で、カフェで喋りまくる女の子達に放置されて溶けていくアイスクリーム、というシュールな役をしているところを劇団 袋小路の主催者サンドロビッチに見いだされ、ヨハンと共に袋小路に所属することになった。
ニコとはそこで知り合った。
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