可哀想な私が好き

猫枕

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 リーヌスの提案でビラを作り、それを校外でまで配ることになった。

 「トイレが足りない!!」と赤く大きな文字が踊るビラはインパクトが強く、さすがは市長の息子だけあって一目で興味を引く画面構成になっていた。
 リーヌスが父親の選挙事務所で印刷してきてくれたビラを駅前で配ったり卒業生の女性達に郵送したりした。

 やがて噂はネタに困っていた地方新聞社にも届き、少女達の元には取材依頼が舞い込むようになった。

 思いがけない大騒動に発展したことで次第に校長も焦り出し、どうにか事を穏便に鎮めようとしたが、今や60人規模に膨れあがった不穏分子たちの勢いは止まらない。

 総決起集会が挙行された。

「女性達に排泄の自由を!!」

 少女達は拡声器で訴え、少女達の切実な声はちょっとテンポ遅れで校外の道行く人々の耳にも届いた。

「我々~、現在この第一高等学校に在籍する女子生徒は~、総勢63名でありま~す。
 その~63名に対し~、割当られた~、便器の数は~、たったの~、たったの3つなので~、あります!!」

 タオルで顔を隠しヘルメットを被った少女達が次々にトラメガで訴える。

 男子生徒の中には改めて女子の置かれている現状を知り、真剣に改善を検討するべきだと考える者もいたが、一方で「排泄の自由」と言う言葉に「女性らしくない」と嫌悪感を示す者もいた。

 中には「ローレンシア・ベルクホーフみたいな美少女でもオシッコすんだな~」とニヤニヤする不届き者達もいた。

 「この件についてどう思うか」

 新聞や雑誌の取材は校長にも及んだようだ。

 結果、州も早期の改善を約束せざるを得なくなったのだが、なにせ予算が無い。
 そこで出張ってきたのが、「ベルクホーフ財団」だった。

 結果はほぼ満額回答で、各階の中央部にある教材置き場を潰して女子トイレが設置される事になった。ベルクホーフの資金で。

 総勢約60名の女子活動家たちは勝利に湧き、購買部で買い占めたアップルサイダーで乾杯した。


 そして後日、問題の新聞記事である。

「トイレの増設を求めて運動した女子生徒」
 が隅の方にちょっと書かれていて、

「女子生徒の為に尽力した現市長の息子リーヌス君」
 
 の写真が大きく載っていた。

 更に記事には「現状に心を痛めたベルクホーフ財団会長ライムント・ベルクホーフ氏が資金提供」と彼を称える文言が太字で踊っていた。

 更に腹が立つのは校長のインタビューで、

「新しい時代のリーダーになっていく女子生徒達が直面する問題に対して自ら声を上げたわけです。
 これは私ども第一高等学校の掲げる『平等社会の実現』に基づいた教育の結果であると喜びを隠せません」

 薄らハゲが笑顔で写っていた。



「何これムカツク!」

 新聞を机に叩きつけながらレギーナが怒りを顕にする。

「まあ、世の中なんてそんなもんだって」

 ローレンシアが宥めようとするとレギーナが更に怒る。

「またアンタそんな達観したみたいなこと言ってさ!」

「所詮、男社会なんだよ」

 アガーテが溜息混じりに言うと、

「よくある話です。私の姉も徹夜で仕上げた企画書を捨てられたり、成果を横取りされたりしょっちゅうだって言ってます」

 ドーラは怒りと諦めのブレンドみたいな表情だ。

「ま、トイレは増えるんだから良いとしましょうよ」

 アラベラが言って、マヌエラが

「パーッと祝勝会しようよ!」

 と言った。

 皆が鞄を持って立ち上がるとさっきから静かに黙っていたリーヌスは座ったままだ。

「ほら、アンタも行くよ!」

 レギーナが声を掛けると捨て犬みたいな顔をしたリーヌスが

「僕もいいの?」

 と情けない声を出す。

「何言ってんの。アンタも一緒に闘った同志じゃん!」

 レギーナが言うと他の皆もウンウンと頷く。

 6人+ワンが坂道を下っていく。

「どうする?やっぱりビスマルク・サンドイッチ?」

「なんかいつもアレだよね~」

 いつもの公園にさしかかった時、間の抜けた歌が聞こえてきた。


 
 早く舐めなきゃ♫溶け~・ちゃ・うよ~♪

 リカルド~リカルド~みんな大好きリカルド~アイスクリーム~♪


 「出た~!」

 リカルド・アイスクリーム・カー
 が公園の駐車場に入って来た。

 今日はアイスクリームでお祝いすることにした。

 



 
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