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㉕
しおりを挟む「我々は女子トイレの増設とそれが実現するまでの間の各階の西側トイレの明け渡しを要求する!!」
始業前と放課後の校門近くで連日ローレンシア達6人の声がトラメガで響き渡る。
「やかましいから止めなさい!」
教師の制止が入るが、
「我々の要求は極めて正当なものであり!新時代に於ける自由と平等の象徴であるべきこの第一高等学校で不当な男女間の差別が容認・放置されてきたことに対し断固抗議するのであります!!」
と聞きやしない。
第一高等が共学化されて10年になるが、未だ全校生徒に対する女子生徒の割合は20%に満たず、校舎各階の東西両端にあるトイレはいずれも男子用、女子は一階エントランス脇の一箇所のみを全学年で使っている。
ローレンシア達は生徒たちに署名を求めているが男子生徒達の反応は冷ややかで、無視を決め込んで無言で通り過ぎる。
悲しいことに他のクラスや他学年の女子生徒でさえも協力的では無い。
トイレ問題は女子にとって切実であるにも拘らず、男子の目を気にしているのか、はたまた学校からの評価を気にしているのか、遠巻きに興味の有りそうな表情を見せるものの署名には至らない、そんな状況が続いていた。
男子生徒の中には差別意識を隠そうともしない輩もいて、6人が
「我々は~!」
という度に、
「ハレホレヒィ~!」
とか
「ヘニヘラピィ~!」
とか囃し立てて小競り合いが勃発していた。
「どうします?校長先生」
そんな生徒達を窓の下に眺めながら小判鮫(教頭)が薄らハゲ(校長)にお伺いを立てている。
「放置でいいです。
誰も相手にしてませんから」
「そうですか~?」
「彼女達はアードルフ・ベルクホーフの件で仕返しをしてるだけなんですよ。
一週間もすりゃ飽きて止めますよ」
二人は少女達を馬鹿にしたように、
小賢しいお嬢ちゃん達だねぇ、と笑った。
6人が♀印を描いたピンクの腕章を着けていつものように活動していると、リーヌスがやって来て王子スマイルで
「署名するよ」
と言った。
サラサラと台帳にサインするイケメンの姿を多くの生徒達が驚きをもって遠巻きに見ていた。
そして彼等以上に驚いていたのがローレンシア達6人だった。
『何のつもりだろう?』
なぜ、謂わば敵のリーヌスが目下のところ誰にも相手にされていない我々に協力的な態度を示すのだろう?
『何を企んでいるのだろうか?』
心情的には「アナタの助けは要りません」と言ってやりたいところであるが、「男女平等」を標榜している以上拒否するわけにもいかない。
「僕に協力できることはないかな?」
そう爽やかに微笑むリーヌスはいかにも「僕は善意の塊ですよ」みたいな顔をしている。
そうしてこの男は毎朝、毎放課後、許可したつもりも無いのに当然のように活動に参加するようになった。
「女子トイレが一箇所しか無いのは確かにおかしいよ」
リーヌスがいかにも同情的に言うと、
「そうです。場合によっては4階から降りて行かなければならないのです。
男子の方が尿道が長いのに女子に我慢を強いる、これは明らかに男尊女卑です」
ドーラが淡々と答えると、『尿道の長さ』に反応してリーヌスの顔が赤くなる。
それを目敏く見つけてクスクスするレギーナとローレンシア。
しかしリーヌスが参加すると他の女子達も次第に署名してくれるようになり、中には
「本当は気になってたんだけど勇気がなかったの」
と活動に参加する者も徐々に現れ、今まで無視だった男子生徒の中にも女子ウケを気にしてか署名してくれる者も出てきた。
「オマエ何のつもりだよ?点数稼ぎかよ?」
一連の流れを忌々しく見ていたアードルフがリーヌスに詰め寄った。
「・・・そんなんじゃ、・・・だってほら、僕の家は政治一家だからさ、やっぱり女性の地位向上問題に協力するってのは将来の僕自身の為にも家の為にも必要なことなんだよ」
などと尤もらしい言い逃れをした。
リーヌスの本心としては先日のダンスパーティーで耳にしたあの噂、
「ルドヴィカとリーヌスが婚約する」
を是が非でも回避したかった。
リーヌスは意地悪なルドヴィカと結婚するなんて真っ平ご免だし、万が一ルドヴィカと結婚なんかしたら今でさえアードルフに頭が上がらないのに、一生奴隷にされてしまうから絶対に阻止しなければならない、必死だ。
その為にも何としてもローレンシアとの関係を改善し、あわよくば彼女と結婚する未来を手繰り寄せたいと思っていた。
「そんなに言うならアードルフも彼女達の活動に協力したらいいじゃないか」
リーヌスは口ではアードルフを勧誘するような事を言いながら、決してアードルフがその誘いに乗れないことも分かっていたし、実際にアードルフが参加することがあっては困ると思っていた。
リーヌスはあくまでもアードルフの目が届かない所でローレンシアとの距離を縮める必要があった。
「アイツ今から選挙の票集めでもやってるわけ?」
6人はヒソヒソとリーヌスの悪口を言っていたが、一方で彼が参加したことによって活動の成果が飛躍的に伸びたことも事実であり、内心面白くはなかったが認めざるを得ないのだった。
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