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会いたい
しおりを挟むジルベールは憔悴していた。
方々に人を派遣して海辺の町を捜索させているが、未だクラリスは見つからない。
自分も過密スケジュールで仕事を片付けて空いた時間で探しに行っているが見つけることができずにいる。
『きっと今頃私を思って不安で泣いているに違いない』
ジルベールの頬はこけ白髪が出ていたが、元々色の薄い金髪なのでほとんど目立たなかった。
シノは、海とか言っちゃってマズかったかなぁ~、などと思っていたが今更後に引けないので、
「案外お近くにいたりしてねぇ」
などと姑息に己が罪を薄めようとしたが、
『猟師町で海に向かってジルベールへの愛惜の歌を涙を流して絶唱するクラリスの図』
が脳内にすっかり出来上がっているジルベールには聞こえなかった。
「庶民街の居酒屋で歌とバイオリンの上手い女の子がいて評判になっている」
そんな噂がジルベールの耳に届いたのはクラリスが週末のステージに立つようになって随分たった頃だった。
まさか本人がいるとは思わなかったが、クラリスの面影を求めてジルベールは知人に教えられたラスティ・ネイルズに足を運んだ。
勝手の分からない庶民の店で居心地の悪い思いをしながらジルベールはステージの時間を待った。
満席で入れないというボーイに高額のチップを渡して無理矢理用意させた席でジルベールはハンカチで口元を覆った。
顔を見られたくないのと店内の空気が淀んでいるようで、直接息を吸うのが嫌だったのだ。
店はステージ目当ての客でごった返していて、ジルベールは仕方なく注文したコニャックのグラスに口をつけるのを躊躇っていた。
ホールの照明が暗くなって、店の奥にある小さなステージがライトに照らされる。
「皆さんお待ちかね!
一週間の疲れを素晴らしい音楽で癒してください。
ピンキー・ドゥです!」
ホールには拍手と口笛が巻き起こる。
『 pinky doe、とは芸名にしても下品だな。
可憐なクラリスとは大違いだ』
やはり来なければ良かったかな、そう思って立ち上がろうとしたジルベールはステージに登場した女の姿に釘付けになった。
紫のミニ丈のドレスにロングブーツ。
髪は緩くカールされて肩で揺れ、イミテーションのネックレスがキラキラ輝いている。
ジルベールの記憶のクラリスとは随分変わってしまったが、
『間違いなく私のクラリスだ』
クラリスはポップな流行歌をうたって場を盛り上げた。
それから流浪の芸能の民の歌をうたった。
哀愁たっぷりの独特の節回しは聴衆の心をぐっと掴んだ。
派手なメイクをしていても隠せないあどけなさが却ってクラリスの色気を増していた。
ジルベールは男どもが私のクラリスに、ピンキー、ピンキーと気安く黄色い歓声を浴びせるのを忌々しく聞きながらも、やっと見つけた愛する女性の歌声に酔った。
歌が終わるとクラリスはバイオリンを取り出しリールのリズムで演奏しだすと皆が一斉に踊り出した。
ジルベールは呆気にとられて茫然としていたが、そのうち酔いの回った髭面のオッサンに両手を捕まれてダンスの輪に入れられてしまった。
そしてオッサン達から馴れ馴れしく肩を抱かれ酒臭い息を吹きかけられて、無理矢理飲みかけのグラスから酒を飲まされたりして散々な目にあった。
這う這うの体で抜け出したジルベールは出番が終わって引っ込んだクラリスを追って関係者以外立ち入り禁止の扉に突進した。
「お客さん、困りますよ」
「クラリスに会わせろ!」
「関係者以外立ち入り禁止です」
「私は関係者だ。私はクラリスの婚約者だ!」
ボーイは蔑むような一瞥をジルベールにくれて、
「ハイハイ。
そういうオッサンが多くて困るんだよね」
とジルベールの背中を押して
「出口はこっち。
ルール守れない客は出禁にするよ」
ジルベールは裏口から追い出された。
王家に次ぐ名門一家に生を受け、誰もが私にひれ伏してきたというのに!
なんという屈辱。
ジルベールは思った。
明日も来るぞ。
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