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さよならジルベール
しおりを挟む「好きな人・・・とは、そこのオーナーのことか?」
「・・・はい」
クラリスは恥ずかしそうに俯く。
『えっ?なにそのワンバウンド告白』
ジュールは思った。
そういうのは本人に直接言ってよ~。
「すまないクラリス。
分かるように説明してくれないか。
私のどこが彼に劣るというのか」
「公爵様は恋をしたことがないのですか?」
クラリスの声にはどこかジルベールを馬鹿にしたトーンがあった。
「は?」
「恋っていうのはね、公爵様。
優劣とかじゃないんですよ」
クラリスもついこの前気付いた恋する気持ちなのに、随分上から目線である。
「その人の事を考えるだけで嬉しくなるの。
心が暖かくなって顔も熱くなるの。
今なにしてるのかな~、会いたいな~、声が聞きたいな~って。
誰かと比べてどっちの方が見目が良いとか地位が高いとか、関係無いの。
他の誰でもない、その人が好きなのよ」
クラリスの熱烈な愛の告白にジュールは嬉しさ半分、ジルベールに気の毒なのが半分だった。
が、自然に顔がにやけてしまう。
『なんだアイツ勝ち誇った顔しやがってムカつく』
ジルベールはジュールを睨んだ。
「他の誰でもない、その人じゃなきゃダメなの!」
クラリスが追い討ちをかける。
なんだか目をキラキラさせて芝居じみたポーズをして、今にも歌い出しそうだ。
「私ならクラリスが望むものはなんでも与えてやれるというのにか?」
クラリスはちょっと聞き分けのない子供をあやすような口調で言った。
「人は誰かの施しを受けて生きていたいわけじゃないんですのよ。
自分の力で生きて、誰かに ありがとう って喜んでもらえて、ああ、こんな私のことでも必要としてくれる人がいるんだな・・・って。
幸せってそういうものじゃありませんか?」
「私はクラリスを必要としている」
「公爵様に必要なのは私じゃないです。
国の重要な政策にも関わるようなお仕事もしている公爵様のお力になることは私にはできません。
私には公爵様の助けになるようなアドバイスはできませんし、精神的な支えにもなれません。
公爵様にはもっと相応しい能力の高いご令嬢が必要です 」
「そんなものは必要無い。
私は女の力など借りなくても滞りなく全ての業務を遂行できる」
「それでは私は毎日、公爵様がいつ心変わりをして追い出されるのかビクビクしながら生活しなければいけませんね」
少し強めにクラリスが言うと、公爵はハッとした顔をした。
「そんなわけないだろう」
「公爵様に必要なのは公私ともに歩んでくれるパートナーであって飽きたら簡単に捨てればいいペットではありませんわ。
最も今のままでは公爵様にその様なお相手は見つけられないでしょうけど」
今までこんな失礼なことを言われた経験がないのだろう。
ジルベールは怒ったような顔をして黙りこんだ。
「公爵様が家庭環境に恵まれなかったことや、女性達に煩わされてきたことなどはお察し申し上げます。
そういう過去の嫌な出来事が公爵様の心を頑なにしてしまっているのも理解できます。
でも八つ当たりみたいに全ての女性が性悪で下等な生き物みたいに言うのは間違ってると思います。
カトリーヌ様達は幼少の頃から次代を背負う殿方の伴侶としてその方達を陰で支える存在になれるように厳しく教育されてきたんです。
その努力を見ようともせずに一蹴したのは公爵様です。
他人の努力を認めない人間がご自分だけは正当に評価されるとお思いですか?」
「クラリス、君は私の安らぎだ」
「ご自分より遥かにレベルの低い相手だと安心して優越感に浸っていられますものね。
逆に言えば立派なご令嬢方とは対等に付き合っていける自信が無いのでは? 」
「クラリス!いくらなんでも言い過ぎだよ」
たまらずジュールが割って入る。
「・・・失礼が過ぎました。
・・・でも、公爵様には感謝していますから、お幸せになっていただきたいから、敢えて申し上げますわ。
公爵様が私を手に入れたところで心の充足を得ることはありませんわ。
なんでこんな教養のない女と一緒になったんだろう、って必ず後悔する日が来ますわ」
「そんなことは無い」
「私はお金を貰って公爵様の元を去りました。
それが全てです」
いつも他人を見下したような顔をしているジルベールが酷く傷ついたような表情をしていた。
「公爵様。
公爵様の所に縁談でいらしたご令嬢の中には本気で公爵様に恋をしていた方達もいらっしゃったと思いますよ」
ジルベールは暫く黙り込んで、
「世話をかけて悪かった」
と帰っていった。
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