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しおりを挟む止めるバーナードを振り切ってアドリアンはアンバーと共に列車に飛び乗った。
バーナードはプンスカ怒りながら、
「運動会が終わったら直ぐにお戻りくださいよ!
そうじゃなかったら本当に知りませんからね!」
と駅のホームで叫んだ。
列車に乗り込むまでにもチケットを買う段階で一悶着あった。
突然のアドリアン・トランキルの出現に駅長が自ら出てきて「グランド・スウィート・キャビンが埋まっておりまして」とオロオロする。
「なんとか他のお客様に代わって頂けないか交渉してきなさい」
と部下に命令しているのをアンバーが止める。
「私、二段ベッドの所に乗ってみたかったんだ~」
「あの、お客様。クシェットですとシャワーもトイレも車両の後方にございまして共同となりますので・・・」
「全然構わないよ~」
「あの、スウィート・キャビンでしたら1室確保できます」
バタバタと走ってきた若い駅員が報告する。
「じゃあアドリアンがスウィートにしなよ」
「充分お二人でご利用できますが」
「ダメダメ同室は~」
アドリアンは一瞬アンバーと共に過ごせる一夜を夢見たが、瞬時に砕かれた。
「アンバーがスウィートを使え」
「やだ~。私は二段ベッドにするもん」
「じゃあ私も二段ベッドで」
「ええっ?!トランキル様に二段ベッドはちょっと・・・」
「問題無い」
アドリアンは顔を見合せて躊躇する駅員に言った。
「申し訳ないが荷物だけ預かってもらえるだろうか」
「それはもう」
「当日に突然やって来て寝台特急に乗りたいなどと言う方が非常識なんだ。
手を煩わせて申し訳なかった。
お気遣いに感謝する」
アドリアンは駅員の対応に感謝を述べ、2人は一番安い席に乗り込んだ。
「絶対、私が上の段に寝るんだからね!」
「ハイハイ」
2人が指定の席に行くと既に学生風の若い男女が座っていた。
どうやら客室は4名就寝で1部屋扱いになるようだ。
アドリアンとアンバーが男女と向かい合わせに座る。
すると直ぐにアンバーが
「南部まで行くの?」
と話かけてあっと言う間に仲良くなった。
2人は姉弟の学生で、夏休みを利用して南部に貧乏旅行をするところなのだそうだ。
車掌がチケットの確認に来て、
「お客様が食堂車でお食事をしている間にベッド展開しておきます」
と説明して去って行った。
学生風の2人がコソコソと、
「どうする?食堂車で食事する余裕ないよね?だからパン買ってきたのに」
などと相談している。
「一緒に食事しようよ!」
アンバーが笑う。
「このオジサンの奢りだから!」
そう言ってアンバーはアドリアンの肩をバン!と叩いた。
『オジサン・・・って、・・・5才しか違わないのに・・』
夕食の時間になって4人は食堂車に移動した。
食堂車も上のランクの客とは分けられていて、提供されるのもカジュアルなハーフコースだった。
それでも学生2人にとっては充分に贅沢な食事であったらしく、アドリアンが勧める安価なテーブルワインにすら
「こんなに美味しいワインを飲んだことないです」
と感動した。
部屋に戻ると二段ベッドが2つできていたが、弟君が「やりません?」とカードを見せてきてブロットをやることになった。
アドリアン&アンバー、姉弟、2組のチーム戦だ。
アンバーは相手の出す札から狙いを読むのが得意だった。
更に、ブラフで相手を惑わすことにも長けていた。
『真っ向から勝負してアンバーに勝てる気がしない』
アドリアンは嬉しいような怖いような気がした。
ゲームは夜遅くまで盛り上がった。
いい加減に寝よう、ということになって其々の寝床に入ったがアドリアンはなかなか寝付けなかった。
アドリアンがトイレに行って戻って来ると、姉弟は寝息を立ててぐっすり眠っていた。
アンバーのいる上の段のカーテンが揺れた。
「アンバー、起きてる?」
アドリアンが小声で聞くと、
「ええ」
と返事があって、アンバーが音を立てないようにそっとカーテンを持ち上げた。
「眠れないのか?」
「窓の外を見ていたの」
「ちょっとデッキに行かないか?」
アドリアンの誘いにアンバーはそっと梯子を降りてきた。
「パジャマで彷徨いてるのみつかったら叱られちゃうね」
アンバーはペロっと舌を出した。
デッキに移動して壁際のベンチシートに腰掛ける。
田園地帯を走る列車の車窓からはほとんど何も見えず真っ黒の中に時折灯りがポツンと現れては後方に逃げていく。
「小学生の時にさ」
アドリアンがポツリと言う。
「小学生の時に地元のサッカーチームに入ってたんだ」
「そうなんだ~」
「夏に合宿があってさ、皆で安い宿泊所で雑魚寝するんだけどさ。
私だけちゃんとしたホテルに部屋が用意されててね。
抵抗したんだけど『トランキル様の坊っちゃんに雑魚寝なんてさせられない』って。
まあ、彼らは彼らで怖かったんだろうね。もし子供同士で喧嘩でも起きて私がケガでもしたら責任がっ・・・て」
「それでどうなったの?」
「私だけ違う部屋。食べ物も違う。
昨日の夜は怪談で盛り上がったよね~、なんて話を仲間がしてるのを翌朝聞かされるんだ。
子供だから身分の違いとかよく分からないだろう?
だからそれまでは普通に仲良くしてたんだけど、合宿の一件で『なんかコイツ俺たちと違うんじゃね?』ってのに皆が気づいたみたいでさ、それからだんだん距離感が生まれて」
「まあ、超えられない階級差っていうのは確かに存在するわよね」
「居心地が悪くなってクラブは辞めちゃった」
「そうなんだ~」
「いわゆる上流といわれる人だけじゃなくて普通の人たちとも友達になりたいと思って入会したんだけどさ、やっぱり難しかったよ」
「まあ、同じ種類で固まってれば気楽だから、結局は皆そうするんじゃないですか?」
「今日、皆で夕飯を食べてカードゲームして。硬くて狭い二段ベッドに寝て。
楽しかった。
なんだか、あの日の私が慰められたような気がするんだ。
ありがとう、アンバー」
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