可愛い悪魔

猫枕

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 翌朝姉弟はゴソゴソとパンを出してきて、

「よかったらこれで一緒に朝ごはんにしませんか?」

 と言った。

 アンバーがサッと消えてコーヒーを4つ持って戻って来た。

 4人は2つのパンを半分ずつに割って食べた。

「ギャレーからかっぱらってきた」

 とアンバーが得意気に出してきたジャムとバターを付けて食べると昨日の乾いたパンとは思えないくらい美味しかった。

「美味いな」

 アドリアンは嬉しそうだった。

 こんな風に誰かと少ない食事を分け合ったのは記憶の限り初めてのことだった。

 やがて終点のラ・グランガールに着いた。

「もし、なんか困ったらここに行きなよ。
 私がいなくても誰かがなんとかしてくれるから」

 アンバーは姉弟に手紙を渡した。

 中には南部各地にあるアンバーの顔が利く場所のリストが書いてある。

 そして4人はプラットホームで手を振り合って別れた。


 ドール家に着くと、すぐに

「おじちゃん遊ぼっ!」

 とコライユがよじ登ってきた。

 グレナが「お客様はお疲れなのよ」

 とか後ろでキーキー怒っていたが、未だいまだアンバーとの関係がハッキリしていない段階で短期間に2度もドール家に滞在することに気まずさを感じていたアドリアンにとってはコライユの天真爛漫さがありがたかった。

 今回はアンバーの母親にも挨拶できるかと期待していたが、彼女はまだ旅の途中で不在だった。

『なんて自由人なんだ』

 アドリアンは、会ったことはないけどきっとアンバーは母親似に違いないと確信した。

 夕食の席でロイ・ドールはアドリアンが今回はいよいよアンバーとの婚約の挨拶に来たのかと思えば、コライユの運動会の応援に来たというので肩透かしを食らって微妙な顔をした。

「・・・その、アドリアン殿はよっぽど運動会がお好きと見える。
 わざわざ首都から駆けつけるとは」

「・・・・・」

 アドリアンは無言で微笑む。

「そうなのよ、お父様。
アドリアンは〈大玉転がしのチャンピオン〉なのよ」

「ちょ、・・・アンバー・・」

「チャンピオン?」

 グレナが食いつく。

「そうよ。得意技は〈トルネード・アタック・ショット〉なんだから。ね?」

 アンバーはニヤリとアドリアンに笑いかける。

「それはスゴイ技なんでしょうね。是非ご披露いただきたいですわね」

 グレナの目が興味津々に輝く。

「アンバー。お願いだからもう勘弁してください」

 アドリアンはステーキを切る手を止めて懇願した。




 運動会当日。快晴。

 アドリアンが朝起床すると既にアンバーの姿は無かった。

「場所取りするって早朝から出て行ったんですの」

 グレナはちょっと困った顔で笑う。

「うちは幼稚園に沢山寄付してるから場所取りなんてしなくても頼めば良い場所を割り当ててもらえるんだけど、アンバーはそういうのが嫌いなのよ」

 アドリアンは駅長が一番良い客室を他の客に譲らせようとした時に止めたアンバーを思い出していた。

「あの子、とんでもないイタズラをするクセにズルするのは嫌いなのよ。
 変わってるでしょ?

 でも、身内にしか分からないんでしょうけど、私たち家族は皆アンバーが好きなんです」

「・・・わかります」

 グレナとエミールはコライユを連れて先に幼稚園に行ってしまった。

 残されたアドリアンはロイと二人で歩いてグラウンドに向かうこととなり、互いに少し気詰まりだった。

「・・・その、・・・アドリアン殿は、アンバーのことをどうするつもりなんだろうか」

 ロイは遠慮がちにアドリアンを窺い見た。

「あ、・・・あの・・・私としては将来をアンバーさんと共に歩きたいと・・・き、希望・・」

「なにをニヤけてるんですか」

「し、失礼しました。アンバーさんのことを考えるだけでなんだか嬉しくなって、ニヤけてしまうんです」

「・・・・・」

「そ、それでですね。アンバーさんが私に対してどういう感情を持っていらっしゃるのかが今ひとつ分からないといいますか、なんといいますか。
 だ、だから私は今は待ってるんです」

「何をですか?」

「か、・・・彼女が、わ・・・私をス・・・ス・・・スキ・・・好きになってくれたらいいなぁ~、なんて」

 アドリアンは顔を赤らめながらロイの背中をバシバシ叩いた。

「い、痛いよ君ぃ~」

「あ、スミマセン」

 そんな話をしながら歩いていると、グラウンドに着いた。

 万国旗や造花で飾られた会場には既に多くの保護者たちが集まっていた。

 「こっち、こっち~!」

 アンバーが競技のよく見えるセンター付近に陣取った茣蓙ござの上から手を振っている。

 近づくとアンバーは鼻の頭に引っ掻き傷を作っている。

「どうしたんだ、その顔は」

 ロイが呆れ顔で尋ねると、

「場所取りの時にちょっとね。

 勝ったけど」

 と威張っていた。

「誰とやりあったんだ?」

 ロイはため息をつく。場合によっては相手方に謝罪しなければいけないだろうと思ったからだ。

「えっとね。市長の息子とか言ってた」

「・・・ボンディさんか・・・幼稚園の保護者会では幅を利かせているとグレナに聞いているが・・・コライユがイジメられたりしなければいいがな・・・」

「何言ってるのよお父様。

 アイツ、ものすっごい大きい茣蓙持ってきて他の人が取ってる場所までどかそうとしてたからさぁ、頭に来て『せめて4分の1に畳め!!』って言ってやったのよ。
 そしたら怒鳴りつけてきたから髪の毛掴んで毟ってむしってやったのよ」

「「・・・・・」」

「それで掴み合いになっちゃって。

 ちょっと引っ掻かれたけど平気。

 思いっきり向こう脛に蹴り入れてやったわ」

「「・・・・・・・」」

「アイツ、『ぎゃーー!』だって」

 アンバーは思い出したのかクスクスしている。

「・・・アドリアン殿・・・こんなんで本当に良いの?」

「・・・望むところです」


 




 
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