可愛い悪魔

猫枕

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 園長先生の挨拶の後、園児たちが〈園歌の~私たちは天使~〉を歌った。
 歌っている間にコライユの後ろの男の子がコライユの髪を結んだボンボンを引っ張ってバチン!とやった。

 ♪みんな~なかよく~ニコニコと~♪

 コライユが振り返って抗議しているようだ。

 ♫マ~リアさっまっの~みてのなか~♪

 男の子はますます調子に乗ってしつこく引っ張っている。ボンボンだけでなく髪も引っ張っている。

 ♪た~すけ~あ~いと~お・も・い・や・り~♫

 コライユが振り返ってケリを入れた。

 ガスッ!

♪て~んし~、て~んし~、てんし~ようちえん~♪

 パンパンパンパン!!と一斉に打ち上げらた花火の音によってクソガキの泣き声はかき消された。

 
 競技が始まった。

 コライユたち〈こひつじ組〉の最初の演目は〈くまちゃんの お引っ越し〉だ。
 二人組で背中合わせに立って、間に挟んだ くまちゃん のぬいぐるみを落とさないようにゴールまで歩いて行く競技だ。

 チビっ子が背中のくまちゃんを気にしながらヨチヨチ歩く姿が保護者たちを熱狂させた。

 定番の徒競走もあり、コライユはぶっちぎりの1等賞だった。

 お遊戯〈こっちおいで子猫ちゃん〉を観ていると、アドリアンの目から自然に涙が流れてきた。

「ちょっとなに泣いてんですか~」

 エミールが自分も泣きながら言った。

「なんだか細かいこまかいのが一生懸命やってんの見てると感動して・・・」

「親でもないのになんなんですか~」

「なぜだかわからないが泣ける~」

 そしていい年をした男が二人して、感動する~、と言いながらオイオイ泣いた。

 昼近くになって家政婦二人が弁当を持って来た。
 大きなバスケットに料理や飲み物、フルーツなどを満載にしたのを両手にぶら下げてやって来た二人は、茣蓙の上に荷物を置くと、「後で取りに参ります」と言って立ち去ろうとした。

 するとアンバーが、

「ダメだよ。一緒にコライユを応援してよ」

 と引き止めて、みんなで玉入れの応援をした後、弁当も一緒に食べた。

 アドリアンは、アンバーのこういう所が一部の人から熱狂的に支持される要因なんだろうなぁ、とぼんやり思った。

 ランチタイムの後はディスコ・タイムで、流行りのポップスが流れる中、簡単な振り付けが指導され皆で踊った。
 アドリアンもアンバーと楽しく一緒に踊っていたが、なんだか視線を感じる。

 『まいったなあ。イケメンはどこに行っても注目を浴びてしまう』

 と思いながらふと振り返ると、じっとこっちを見ているのはなんと、ジャンバティスト・リヴィエールの奴だった。

 アドリアンは胸騒ぎがした。


「保護者参加の〈大玉転がし〉に参加ご希望の方は入場ゲートにお集まりください」

 〈大玉転がし〉のプラカードを持った人物が参加を呼びかけながら保護者席を一周する。

「ほら、念願の〈大玉転がし〉ですよ」

 アンバーがニヤニヤと参加を促す。

「トルネード・アタック・ショット!」

 アドリアンが顔を歪めて渋々立ち上がる。
 行ってみると〈ひつじチーム〉と〈はとチーム〉の対抗でチーム戦だった。

『なんだ個人競技じゃなかったんだ』

 アドリアンは大玉を実際に見るのも触るのも初めてだった。

 走者が一人ずつ大玉を転がして行ってポールを回って戻ってきて次の人にタッチ。

 リレー方式だ。

 アドリアンは若いからという理由でアンカーにさせられた。

 やれやれと思いながら列に並び隣を見ると、ジャンバティストが立っている。

 ムムム・・・奴もアンカーか!

 負けられん!!!

 しかし待てよ?なんでコイツは幼稚園の運動会に来てるんだ?

 アドリアンは鎌をかけた。

「お子さんのクラスは〈はと〉なんですか?」

「いえ・・・今日は姉の息子の応援でして」

『なに?・・・やっぱり独身なのか?』

 すると今度はジャンバティストもアドリアンをチラチラ見て、

「貴方はドール家の御親戚かなにかですか?」

 と遠慮がちに聞いてきた。

「・・・まあ・・これから親戚になる・・・といったところでしょうか」

 アドリアンは挑発的な笑みをジャンバティストに向けた。


 二人の間に負けられない戦いの火蓋が切られた。

 アドリアンの戦意に比して他のお父さんたちは適当だった。

 みんなニコニコヘラヘラしながら大玉を押していく。
 片手を離して応援席に手を振る者、大幅にコースを離れてタイムロスする者など全体的にちんたら進んでいた。

 『何故もっと勝負に真剣にならないんだ?!!』

 アドリアンはムカついていた。

 アンカーのアドリアンに玉が渡った時、〈はとチーム〉からは20mほど差をつけられていた。

『このままでは負けてしまう!』
 
 アドリアンは大玉を思いっ切り蹴った。
 スピードを上げて転がる大玉に走って追いついたアドリアンは折り返しのポールの手前でジャンバティストと並んだ。
 ジャンバティストがギョッとした顔でこっちを見た。

 観客席から歓声が上がる。

 慌てたジャンバティストが大玉の軌道を誤りアドリアンの身体にぶつけてしまった。
 不意打ちをくらったアドリアンはよろけて大玉を手から離してしまう。
 アドリアンから離れた大玉はコースから外れてしまった。
 アドリアンが取りに行っている間にジャンバティストの奴は一目散にゴールへ向かっている。
 玉に追いついたアドリアンは再び思いっ切り玉を蹴った。
 空中を舞った大玉はジャンバティストの頭部を直撃し、ジャンバティストはその場に倒れた。
 玉に追いついたアドリアンが自分の玉を押してゴールに向かおうとすると、起き上がったジャンバティストが鬼の形相でアドリアンの大玉を本部席に向かって蹴り出した。

 観客席はヤンヤヤンヤの大喝采だ。

 大玉は本部席のマイクに当たってハウリングを起こしている。

 その間ジャンバティストは自分の玉をせっせとゴールに運ぼうとしている。

 すると〈ひつじチーム〉の他のメンバーがコース内に侵入してきてジャンバティストから大玉を奪った。

 アドリアンの大玉は園児たちの玩具になっている。

 〈ひつじチーム〉はみんなで大玉を押してゴールしたが、〈はとチーム〉のメンバーも出てきて小競り合いが勃発した。

「ゴールは無効だ」

 とか、

「一致協力した〈ひつじチーム〉の勝ちだ」
 
 とか、

「これは〈はとチーム〉の大玉だから勝ったのは〈はとチーム〉だ!」

 とか大人げないことこの上ない。

 審判のホイッスルがピーーッ!

 と鳴った。

 「引き分けです」


 観客席は大いに盛り上がった。

 アドリアンが茣蓙ござに戻るとアンバーが笑いながら「ナイス!」とサムアップしてくれて、グレナが「あれがトルネードなんとかなんですねっ!」と興奮していて、「大玉転がしって格闘技だったんですね」とエミールが言った。




 

 






 
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