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33 変化は少しずつ
しおりを挟む当初1ヶ月の予定だった舞台公演はすでに3ヶ月のロングランとなっていた。
更にカメラが入って映画にもなることが決まった。
舞台を観に来れない地方の人達に熱望されての決定だったそうだ。
多忙を極めるニコが時間を遣り繰りしてラウラを食事に誘ってくれた。
高級店で臆することなく馴れた様子でラウラをエスコートするニコは、普段彼が付き合っている人達がラウラとは違う世界の住民であることを如実に物語っていた。
会わない間にすっかり大人っぽくなったニコは、自身の立場や仕事に対する責任がそうさせるのだろうが、あの懐かしい少年の顔は消えつつあった。
以前ニコが芝居の世界から身を引こうとした時に、ウィリアムズさんは『今だけの輝き』を観客に記憶させる為にもニコを連れ戻したいとラウラに懇願した。
ラウラは今ならウィリアムズさんの気持ちが理解できるように思う。
人は一瞬の積み重ねの中で、着実に少しづつ変化していくのだろう。
ニコは変わらない愛を囁いてはくれるもののラウラは若干の居心地の悪さを感じていた。
有名シェフが作った豪華なコース料理を前にして、ラウラが心に思うのはカタバミ荘での野菜がゴロゴロ入ったニコのシチューだった。
そんなある日に事件は起こった。
ラウラはカタバミ荘での独り暮らしを解消してから放置していた私物を整理しようとヘミング邸の庭の隅にある物置小屋にいた。
小屋には梯子で上がるロフトがついていて、ラウラはそこで作業していた。
小屋は小さな窓が一ヵ所あるだけで暗いので、ラウラはランプを持って来ていた。
ガラクタばかりで高価な物など何も無い小屋だが、子供の頃に使っていた小さな椅子やままごと道具など、ついつい懐かしさにかまけて片付けの手が止まりがちになる。
ラウラはついうっかり足元のランプを蹴飛ばしてしまった。
階下に転がり落ちたランプは砕け壊れて流れ出た灯油が敷物に染み込んで瞬く間に火を大きくした。
ラウラは気が動転して動けなかった。
母がラウラをお茶に誘おうと庭に出て、小屋から煙が出ているのを見つけた。
生憎その日家にいたのはラウラと母だけ。
一人だけいるお手伝いさんもその日は非番だった。
母は助けを求め縺れる足を必死に動かし表に出た、その時、角を曲がって歩いてきたのは。
母は道に倒れ込みながら必死で両腕を振る。
大声で叫びたいのに出るのは涙ばかり。
異変に気づいたランディーが飛んで来る。
「おばさん!どうしたの!!」
「ラ、・・・ラウラが・・・たす・・け・・小屋・・・小屋」
ランディーは短距離走の国代表も真っ青な速さですっ飛んで行った。
もうもうと立ち込める煙の中、ラウラは
近づいて来る死を覚悟していた。
お父様お母様先立つ不孝をお許しください。
ニコ、泣かないでね。
皆幸せに暮らしてね。
ラウラは遠ざかる意識の中で誰かが必死に自分を呼ぶ声を聞いたような気がした。
「ラウラー!ラウラー!」
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