誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕

文字の大きさ
33 / 40

33 変化は少しずつ

しおりを挟む

 当初1ヶ月の予定だった舞台公演はすでに3ヶ月のロングランとなっていた。

 更にカメラが入って映画にもなることが決まった。
 舞台を観に来れない地方の人達に熱望されての決定だったそうだ。

 多忙を極めるニコが時間を遣り繰りしてラウラを食事に誘ってくれた。

 高級店で臆することなく馴れた様子でラウラをエスコートするニコは、普段彼が付き合っている人達がラウラとは違う世界の住民であることを如実に物語っていた。

 会わない間にすっかり大人っぽくなったニコは、自身の立場や仕事に対する責任がそうさせるのだろうが、あの懐かしい少年の顔は消えつつあった。

 以前ニコが芝居の世界から身を引こうとした時に、ウィリアムズさんは『今だけの輝き』を観客に記憶させる為にもニコを連れ戻したいとラウラに懇願した。

  ラウラは今ならウィリアムズさんの気持ちが理解できるように思う。

 人は一瞬の積み重ねの中で、着実に少しづつ変化していくのだろう。

 ニコは変わらない愛を囁いてはくれるもののラウラは若干の居心地の悪さを感じていた。

 有名シェフが作った豪華なコース料理を前にして、ラウラが心に思うのはカタバミ荘での野菜がゴロゴロ入ったニコのシチューだった。



 

そんなある日に事件は起こった。

 ラウラはカタバミ荘での独り暮らしを解消してから放置していた私物を整理しようとヘミング邸の庭の隅にある物置小屋にいた。
 小屋には梯子で上がるロフトがついていて、ラウラはそこで作業していた。

 小屋は小さな窓が一ヵ所あるだけで暗いので、ラウラはランプを持って来ていた。


 ガラクタばかりで高価な物など何も無い小屋だが、子供の頃に使っていた小さな椅子やままごと道具など、ついつい懐かしさにかまけて片付けの手が止まりがちになる。
 ラウラはついうっかり足元のランプを蹴飛ばしてしまった。

 階下に転がり落ちたランプは砕け壊れて流れ出た灯油が敷物に染み込んで瞬く間に火を大きくした。

 ラウラは気が動転して動けなかった。

 母がラウラをお茶に誘おうと庭に出て、小屋から煙が出ているのを見つけた。
 
 生憎その日家にいたのはラウラと母だけ。
 一人だけいるお手伝いさんもその日は非番だった。

 母は助けを求めもつれる足を必死に動かし表に出た、その時、角を曲がって歩いてきたのは。

 母は道に倒れ込みながら必死で両腕を振る。

 大声で叫びたいのに出るのは涙ばかり。

 異変に気づいたランディーが飛んで来る。

「おばさん!どうしたの!!」

「ラ、・・・ラウラが・・・たす・・け・・小屋・・・小屋」

 ランディーは短距離走の国代表も真っ青な速さですっ飛んで行った。



 もうもうと立ち込める煙の中、ラウラは
近づいて来る死を覚悟していた。

お父様お母様先立つ不孝をお許しください。

 ニコ、泣かないでね。

皆幸せに暮らしてね。


ラウラは遠ざかる意識の中で誰かが必死に自分を呼ぶ声を聞いたような気がした。



「ラウラー!ラウラー!」







 

 
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

ジルの身の丈

ひづき
恋愛
ジルは貴族の屋敷で働く下女だ。 身の程、相応、身の丈といった言葉を常に考えている真面目なジル。 ある日同僚が旦那様と不倫して、奥様が突然死。 同僚が後妻に収まった途端、突然解雇され、ジルは途方に暮れた。 そこに現れたのは亡くなった奥様の弟君で─── ※悩んだ末取り敢えず恋愛カテゴリに入れましたが、恋愛色は薄めです。

隣の芝生は青いのか 

夕鈴
恋愛
王子が妻を迎える日、ある貴婦人が花嫁を見て、絶望した。 「どうして、なんのために」 「子供は無知だから気付いていないなんて思い上がりですよ」 絶望する貴婦人に義息子が冷たく囁いた。 「自由な選択の権利を与えたいなら、公爵令嬢として迎えいれなければよかった。妹はずっと正当な待遇を望んでいた。自分の傍で育てたかった?復讐をしたかった?」 「なんで、どうして」 手に入らないものに憧れた貴婦人が仕掛けたパンドラの箱。 パンドラの箱として育てられた公爵令嬢の物語。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

彼氏の婚約者が現れて酷いことをされたのでもう貴方とはお別れします

柊 うたさ
恋愛
大好きな彼氏の18歳の誕生日、彼氏に婚約者がいることを知った。 *バッドエンド *前・後で視点かわります *小説家になろうにも掲載しています

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...