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32 ニコの決意
しおりを挟むラウラは実家に戻され家から図書館に通うようになった。
ニコは俳優を一生の仕事と決めたようだ。
極秘で鬼才アーサー・ディーンの元に住み込み、次の作品の為の稽古をしているという。
しばらく会えないけど絶対にラウラのお父さんに認めてもらえるように頑張るから、迎えに行くまで元気でいてね。
という手紙が届いた。
ウィリアムズさんはニコが戻ると泣いて喜んでくれたそうだ。
ニコが勝手な行動をして迷惑をかけたことを謝ると、ニコの抱える心の問題に寄り添えなかったことを悔いている、と言われたそうだ。
ウィリアムズさんは若い頃からの演劇青年で自身も役者を目指したが容姿にも才能にも恵まれなかった、と本人は言っていたそうだ。
そんな彼が端役で舞台に出ているニコに目をつけた。
いつしかニコを一流の俳優に育てることが彼の夢になってしまってニコの心の状態も考えず先走りすぎてしまった、と反省していたようだ。
春、ニコ主演の新作舞台公演の発表があるとマスコミは騒然となった。
アーサー・ディーンの幻の戯曲
『幻影の囁き』
が初めて舞台化になったからだ。
新聞の文化面はニコとアーサー・ディーンの2ショットを添えて大々的に報じていたし、それを見たラウラの父は
「あの坊や、そんなにスゴイのか」
と何故か声を沈ませていた。
「Nicoに負けたようで悔しいのよ~」
母がラウラにだけ聞こえるように言う。
ニコの活躍は誇らしいが、会えない期間がこうも長いとラウラもだんだん不安になってくる。
ニコは迎えに行くから待ってて、とは言ったが、今頃若くて綺麗な女優さんと恋に落ちているのかも知れない。
以前のラウラなら、ニコが恋をして出ていく時は応援しようと思っていたのに、今はどうしようもない胸の痛みを感じる。
どうやらラウラも本気でニコが好きらしい。
そんな時、ニコから招待状が届いた。
初日は必ず観に来て欲しい、と。
チケットは沢山入っていた。
『ラウラとご両親、お兄さん夫婦、カリスさんと図書館の館長さんご夫婦。
・・・・ランディーさんを呼んでいいかどうかはラウラが判断して』
ラウラはカリスと相談してランディーは省くことにした。
初日は招待客や演劇関係者やメディア関係者が多くて一般の観客は少なかった。
ニコの役柄は、精神を崩壊させ現実と幻の狭間でもがき続ける大人になるちょっと手前の少年だった。
幻聴に返事をし、己の内なる声と絶叫しながら会話するシーンには鳥肌が立った。
幕が降りた時、劇場は静寂に包まれ観客は魂を抜かれたようになった。
そして拍手が鳴り止まなかった。
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