そして私は惰眠を貪る

猫枕

文字の大きさ
45 / 62

45

しおりを挟む

「で、君達はどうやって〝こっち〟に帰って来たの?」

 ラルスがヴェリタスとジャンに疑問をぶつける。わからないことばかりだ。

「・・・それがよく分からないんだ」

「〝月の雫本舗〟で買い物して、〝どん底〟あ、〝どん底〟ってのはリーヴィアの行きつけの大衆居酒屋らしいんだけどね」

 『知ってる』

「で、どん底でシードル飲もうって話してたら突然濃い霧が立ち込めて、リーヴィアが見えなくなって」

「気がついたら自分の部屋で目覚めたんだ」

「で、枕元にパコちゃんが座ってた」

「僕もなんだ」

「で、大学で落ち合って二人で話たんだけど、あっちで体験したことは全部一致したの」

「やっぱり僕達本当にあっちの世界に行ったみたいなんだ」

「牛丼の味が鮮明に残ってたもん」

「すごく美味しかったよね」

 ねっ、と頷き合う二人が憎らしいラルス。

 俺だって牛丼が食べてみたいのに。



「まあ、問題は私とジャンがまたあっちの世界に行けるのか、それとも一回きりの偶然のチャンスみたいなものだったのか、ってのが気になるところなのよね」

「うん。なんかリーヴィアはあっちでアパートなんかも探してるみたいでさ、本格的に定住を画策してるっぽいんだよね」

「あっちに無い物をこっちから持って来て売って、こっちに無い物をあっちから持って来て売れば、とか、商売人の面構えになってきてたわよ」

「異世界貿易」

『・・・帰る気が無い・・・まあ、そうだろうな。そう思われても仕方ないよな・・・』

「・・・でもさ、もし、もしよ?このままリーヴィアがあっちに居続けた場合さ、何年とか何十年とか。
 こっちの肉体はどうなるんだろうね?」

 ラルスの声が不安そうに震えていた。

「「・・・・・それはなんとも」」

 

 その夜ラルスからショルダーバッグの話を聞いた二人は必要そうな物を鞄に詰めて枕元に置いて寝た。

 上手いことリーヴィアに会えるかどうか確証はなかったが、もしもあっちに行けた時買いたい物も沢山あったからとりあえずお小遣いは持って行くことにした。








「やだ~。アンタたちどこに行ってたのよ~。急に消えちゃうからさ~」

「向こうに戻っちゃったみたい」

「いつも通り大学行って授業も受けて来たよ」

「そうなんだ~。なんか時間の流れが違うのかなあ?」

「それは分からないんだけど、そうそうラルスがお土産喜んでたよ」

「良かった~」

「パコちゃんが気に入ったみたいだったよ」

 探しに行った居酒屋どん底でリーヴィアは牡蠣のコキールを肴にシードルを飲んでいた。

「こんな小汚い店で牡蠣なんか食べちゃって大丈夫なの?」

 ジャンが心配そうに小声で聞く。
 三人の中で唯一の男の子だが、その実一番繊細な感性を持ち合わせている。

「火通ってるから平気でしょ」

 ヴェリタスは勧められるまま何の躊躇もなく食べていたが、ジャンは困ったような顔をしていた。

 するとそこに仕事を終えた団長とゾーイがやって来た。

「なんだ、お前たちまだいたのか?」

「一回向こうに戻ったんですけど気がついたらまたこっちに来てて」

 ヴェリタスが言うと団長とゾーイは、まただよ、というような顔をする。

「あの、何かヒントになればと思いまして」

 ジャンがそう言うとバックパックから本を差し出した。

「これは?」

「月光騎士団の第一巻です」

「これに俺達の事が書かれているってことなのかい?」

 ゾーイが期待と疑惑の入り混じったような顔をした。

「はい。これを読んでいただければ現在起こっていることと、小説の違いがハッキリするんじゃないかと思いまして」

「そうだよ!こういうのが欲しかったんだよ。ドンコの言う事は要領を得ないというか、何を言ってるのかサッパリだったからね。
 君は顔だけでなく理性的で理知的なところもヤーノシュに似ているね。
 会えて嬉しいよ」

 団長がジャンに笑いかける。


「私は?私にも会えて嬉しいでしょ?」

「・・・あ・・・・うん。・・・ドンコは・・・なかなか面白いヤツだな」

 言葉を濁した団長は、取り敢えずジャンから借りた本をじっくり読ませて貰うよ、と受け取った。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

処理中です...