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10 理由
しおりを挟む「あの~、ジュスト様は王宮にお戻りにならなくても大丈夫なのですか?」
「ちゃんと毎日王宮には仕事しに行ってるよ」
ジュストは朝、王宮に出勤して夕方離宮に戻ってくる。
プライベートは、ほぼサフィニアの所に入り浸り状態だ。
「・・・あの・・・王太子妃様のご機嫌を損ねたりはしないのでしょうか・・」
「へーき、へーき」
「・・・・私は側妃でもありませんし、・・・王太子妃様にお目通りできる立場でもないでしょうから、どうすればいいのかわからないのですが、・・・その、一度もご挨拶もしておりませんし・・」
「大丈夫、大丈夫」
何がどう平気で大丈夫なのか、ちっともわからないサフィニアは恨みがましい目をジュスト殿下に向けた。
「うっ・・・可愛い・・」
サフィニアにしてみれば、礼儀知らずの新参者が殿下を一人占めにして反感を買っているのではないかと気が気ではないのに、殿下はまともに取り合わない。
かといって毎日一緒に居るくせに未だにサフィニアに手をつけるわけでなく、一体何を考えているのかちっともわからない。
「ジュスト様はどうして私を愛妾にしたんですか?」
「ん?一目惚れ?」
「ふざけないでください」
「フザケてないさ」
ジュスト殿下はあの舞踏会で壁際に佇むサフィニアの顔に殿下の亡くなった母親の面影を見た、と言った。
「・・・殿下はマザコンなんですか?」
サフィニアが目を丸くすると、
ジュスト殿下は飲んでいたコーヒーをブッ!と吹いた。
「汚いです、殿下」
「ゲホゲホ・・・ヒドイな・・・。
マザコン・・・まあ、ある意味そうなのかもしれないけど」
ジュスト殿下は亡くなったお母様の話を少しだけしてくれた。
「あの日の君は幸せそうには見えなかったんだ。
何もかも諦めてるようで、それでいてまだ痛みに耐えているような顔が母さんに似ていて、それで放っておけなくて。
無理矢理連れてくるような真似をしてしまった」
「・・・同情してくださったってわけですか?」
「だから一目惚れだって」
ジュストは照れ隠しのように再びコーヒーを口にした。
サフィニアの父親と話をした時に娘を交渉の材料としか思っていないと分かったことと、舞踏会でサフィニアの陰口を叩くご令嬢達の側で否定もせずに笑みを浮かべていた婚約者を見て、『かっさらう』ことに決めた、と笑った。
「お妃様は?・・・お妃様とか側妃様のことは愛していらっしゃらないのですか?」
「・・・・このことは黙ってて欲しい、っていうか、まあ、王宮の人間は皆知ってることなんだけど、
王太子妃は元は兄上の婚約者だったんだ」
「え?」
「兄上が亡くなられた時に妃の腹の中には子供がいた。
兄上の子だ。
それで私が彼女を娶り、私の子供として王女を産ませた。
妃は今でも兄上だけを思って暮らしているよ」
「・・・そうだったんですね」
「もちろん王女は可愛いよ。
私を本当の父だと思ってくれているしね」
王女を思い出して笑うジュストは本当に優しい表情をしていた。
「王太子妃は今回のことを喜んでくれているよ。
今は良き相談相手、っていうか兄上の思い出話をする相手って感じかな」
優しい人だから安心して、とジュスト殿下は笑った。
「それと側妃はいない。
この国には側妃という制度は無いんだ。
そういう訳でサフィニアのことは愛妾という扱いになってしまって申し訳ないんだけど、私が愛しているのは君だから」
臆面もなく愛を語るジュストにサフィニアは赤面してしまう。
「な・・・なんだ。
私はてっきりお妃様がいらして側妃様も何人もいらして、更に私を愛妾にと望まれたと思っていましたので・・・ジュスト殿下は絶倫なのだと思っていました」
ブハッ!と激しくジュスト殿下がコーヒーを吹いた。
「大丈夫ですか?!」
と言いながらサフィニアは思った。
ここまできたら お家芸だな。
ジュスト殿下のコーヒー吹き。
殿下はヒーヒーというかヒューヒューというかゼーゼーというか変な音を喉から出してしばらく苦しんでいた。
サフィニアがオロオロしながら背中をトントンしたり擦ったりしている間も
「ケホケホ・・・ぜ、・・絶」
「大丈夫ですか?」
「ヒーヒー・・・絶倫・・」
「しっかりしてください」
「ケホケホ・・・絶倫って!ヒューヒュー」
と笑うのか咳をするのか喋るのか、どれか一つにすればいいのに悶え苦しんでいた。
しばらくして復活した殿下が、
「サフィニアと一緒の時に飲み物を飲むのは危険だな・・・命が危ない」
と呟いた。
「こりゃ着替えなきゃダメだな」
シャツもズボンも濡れている。
サフィニアは急いでメイドを呼ぼうとした。
するとジュスト殿下はサフィニアを止めて、
「手伝ってくれる?」
と色気を漂わせた目でサフィニアを悪戯っぽく見つめた。
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