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第1話 騎士と冒険者
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スナイデルは幼少期から美しかった。
白い肌はなめらかに光を反射し、顎のラインや鼻筋はほっそりと整っている。その姿は中性的で、どこか禁欲的なのに、艶めかしい色気をかもしだしていた。
そして何より宝石めいて輝くアイスブルーの瞳と、くすんだ白銀の髪の色彩はアンティークの白銀の宝飾品のようだった。
言葉少なく無愛想な表情さえ、冷たい色合いにはよく似合っていた。
悪い大人に捕まるかもしれないから、成人するまでは森から出てはいけないよ。
これが、祖母の遺言である。
物心がついたときには祖母と二人暮らしだったため、祖母が病いで亡くなってからは深い森の中でひとりきりになった。小さな畑をたがやし、森に分け入って果実や山菜をとり、魔物を狩りながら暮らしていた。
身よりはいないし、たずねてくる客もいない。
そんなある日、庭の柵が壊されていた。
柵を囲っていた結界の石も砕かれており、畑の作物が乱雑に荒らされている。あたりには獣の足跡が散らばっており、魔物が来たのだと察した。
こういう事件はたまにあって、スナイデルはいつものように剣を腰に差した。そして足跡を追う。放っておけば再び畑を荒らされるだろうし、今度は家を襲われるかもしれない。
しかし今回の足跡は、スナイデルの靴底よりもふた回りは大きかった。草のしげみは大きく開かれ、太い木のみきに爪で引っかいたような傷跡が見つかる。足跡は洞窟に続いていき、警戒しながら踏み入った奥で、スナイデルは冷や汗を浮かばせた。
そこにいるのは、熊のような姿のいかめしい魔物だった。今は丸まっていて眠っている様子だけれど、それでも、これでもかというくらい獰猛な気配を色濃く発している。
反射的にじり、と後ずさったときだ。かかとに小石がぶつかって、カツン、と高い音が静寂の中に響きわたった。途端、魔物がむくりと動き出し、ばちりと視線がぶつかる。
睨み合うことができたのは数秒の間だけで、恐怖のあまり、スナイデルは背を向けて逃げだしていた。しかし魔物の脚は早く、洞窟を出たところで追いつかれる。
「来るなッ……!」
咄嗟に剣を突きつけるけれど、魔物は怯みもしない。そして悠々と黒い毛並みの腕を振るってきた。圧縮された空気が襲いかかってきて、幸か不幸か、スナイデルの細身の体は爪が直撃する前に吹きとばされてしまった。
朦朧とする意識の中で、魔物がのし、のし、と歩み寄ってくる。
ここで死ぬのか――。恐怖に襲われ絶望し、視界が真っ黒になりかけたときだった。
最初のうち、スナイデルは幻覚を見ているのかと思った。この森で、これまで人に出会ったことすらない。しかし幻覚ではないらしく、すぐに苦しげな魔物の咆哮が聞こえてくる。
一人の青年が、巨大な魔物を翻弄して戦っている。
かすんだ視界の中で、スナイデルは次第に彼に魅入っていた。繰り出される技はそのどれもが優美で、洗練されており、誇りと自信に満ちあふれている。クリーム色の髪は柔らかさと落ち着きがあって、光の加減で金色の糸が光っているようだった。
魔物が倒れた瞬間、ずしんと地面が震え、彼は振り返った。
「大丈夫かい?」
彼の声は弦楽器のようだった。
スナイデルは答えようとして、しかし頭がくらくらしていて、喉が動かない。さらに視界がだんだん暗くなってきて、ついに意識が途絶えてしまった。
そして次に目を覚ましたとき、そこは見知らぬ屋敷の中だった。
「ああ、無事でよかった」
命の恩人の彼が、青い湖のような瞳でスナイデルに微笑んでくる。
これが、騎士・ユリウスとの出会いだ。
白い肌はなめらかに光を反射し、顎のラインや鼻筋はほっそりと整っている。その姿は中性的で、どこか禁欲的なのに、艶めかしい色気をかもしだしていた。
そして何より宝石めいて輝くアイスブルーの瞳と、くすんだ白銀の髪の色彩はアンティークの白銀の宝飾品のようだった。
言葉少なく無愛想な表情さえ、冷たい色合いにはよく似合っていた。
悪い大人に捕まるかもしれないから、成人するまでは森から出てはいけないよ。
これが、祖母の遺言である。
物心がついたときには祖母と二人暮らしだったため、祖母が病いで亡くなってからは深い森の中でひとりきりになった。小さな畑をたがやし、森に分け入って果実や山菜をとり、魔物を狩りながら暮らしていた。
身よりはいないし、たずねてくる客もいない。
そんなある日、庭の柵が壊されていた。
柵を囲っていた結界の石も砕かれており、畑の作物が乱雑に荒らされている。あたりには獣の足跡が散らばっており、魔物が来たのだと察した。
こういう事件はたまにあって、スナイデルはいつものように剣を腰に差した。そして足跡を追う。放っておけば再び畑を荒らされるだろうし、今度は家を襲われるかもしれない。
しかし今回の足跡は、スナイデルの靴底よりもふた回りは大きかった。草のしげみは大きく開かれ、太い木のみきに爪で引っかいたような傷跡が見つかる。足跡は洞窟に続いていき、警戒しながら踏み入った奥で、スナイデルは冷や汗を浮かばせた。
そこにいるのは、熊のような姿のいかめしい魔物だった。今は丸まっていて眠っている様子だけれど、それでも、これでもかというくらい獰猛な気配を色濃く発している。
反射的にじり、と後ずさったときだ。かかとに小石がぶつかって、カツン、と高い音が静寂の中に響きわたった。途端、魔物がむくりと動き出し、ばちりと視線がぶつかる。
睨み合うことができたのは数秒の間だけで、恐怖のあまり、スナイデルは背を向けて逃げだしていた。しかし魔物の脚は早く、洞窟を出たところで追いつかれる。
「来るなッ……!」
咄嗟に剣を突きつけるけれど、魔物は怯みもしない。そして悠々と黒い毛並みの腕を振るってきた。圧縮された空気が襲いかかってきて、幸か不幸か、スナイデルの細身の体は爪が直撃する前に吹きとばされてしまった。
朦朧とする意識の中で、魔物がのし、のし、と歩み寄ってくる。
ここで死ぬのか――。恐怖に襲われ絶望し、視界が真っ黒になりかけたときだった。
最初のうち、スナイデルは幻覚を見ているのかと思った。この森で、これまで人に出会ったことすらない。しかし幻覚ではないらしく、すぐに苦しげな魔物の咆哮が聞こえてくる。
一人の青年が、巨大な魔物を翻弄して戦っている。
かすんだ視界の中で、スナイデルは次第に彼に魅入っていた。繰り出される技はそのどれもが優美で、洗練されており、誇りと自信に満ちあふれている。クリーム色の髪は柔らかさと落ち着きがあって、光の加減で金色の糸が光っているようだった。
魔物が倒れた瞬間、ずしんと地面が震え、彼は振り返った。
「大丈夫かい?」
彼の声は弦楽器のようだった。
スナイデルは答えようとして、しかし頭がくらくらしていて、喉が動かない。さらに視界がだんだん暗くなってきて、ついに意識が途絶えてしまった。
そして次に目を覚ましたとき、そこは見知らぬ屋敷の中だった。
「ああ、無事でよかった」
命の恩人の彼が、青い湖のような瞳でスナイデルに微笑んでくる。
これが、騎士・ユリウスとの出会いだ。
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