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49.最終話
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ちゃんとピクニックも堪能して屋敷に帰った僕たちを迎えたのは、セレスの家族だった。
セレスのお父さんは、息子と同じ黒髪に思慮深げな藍色の瞳を持つ美男子だった。顔立ちもセレスとよく似ているけれど、口の上に生やした髭が渋い。
その隣に立つシルバーの髪に赤い瞳を持つお母さんは口元に湛えた笑みが上品で、とてもきれいな人だった。
挨拶を簡単に済ませ、応接間でご両親と向かい合って座っている。僕は幸せでふわふわした気持ちから一転、セレスの家族からなにを言われるか戦々恐々としていた。
思わず膝の上で手を強く握りしめていると、隣に腰かけたセレスが僕の手を上から優しく握った。変に入っていた力が抜ける。
うん……大丈夫。こんなにも強い味方がいるんだから。
「っ、ふふっ。ふ、ふ、あははは!」
「こ、こらキュオネ……示しがつかないじゃないか」
「だって。ふふ、魔法にしか興味のないような朴念仁だった子が、こんなにも幸せそうな顔しちゃって。心配して損しちゃった」
「ご、ゴホン! ――ウェスタくん、こんな息子でいいのかね?」
「……へ?」
「もう分かっているだろうが、不器用な子でね。伴侶とするには苦労をかけるんじゃないかと思ってな。それに、こうと決めたら梃子でも動かないというか、意固地というか……無理やり承諾させたんじゃないかと」
えー、そっち? 僕は無礼にも目を丸くしてぽかんと口を開けた。息子にお前はふさわしくない! とか言われるのかと思った。
どうやらセレスが隣国まで僕を追いかけたことも知っていて、息子の本気度は十分に伝わっていたらしい。
初めてと言っていいほど興味を示し執着した人間がいるなら、女でも男でもいいから「結婚してやってくれ」とお願いするくらいの気持ちで今日訪れたそうだ。
拍子抜けした僕はちゃんと両想いであることを伝え、そのあとは和やかに会話を楽しんだ。
出会いのきっかけを聞かれて口ごもったりしたけど、なんとか酒場でのくだりは誤魔化した。さすがに息子さんの童貞を奪って乗っかりました! とは言えない。
母親のキュオネさんは結婚式に並々ならぬ熱意を抱いていた。曰く、男の子同士の婚礼衣装って地味になっちゃうかと思ってたけど、ウェスちゃんならドレスも似合いそうね! だそうだ。
男の僕がドレス……ひぇ。謹んでお断りさせていただきたい。
ご両親を玄関ホールまで見送ったとき、キュオネさんがセレスにそういえば、と話しかけた。
「庭にたくさん咲いてるあの白い花、ブライダルベールよね? セレスにブライダル? って思ってたけど、ウェスちゃんが家族になってくれるならぴったりね」
「母上、やめてください」
「ブライダルベール……」
あの花はさっきもらった花束にも使われていたし、僕たちの生活の中ではあちこちに飾られて見慣れた花になっている。
キュオネさんは僕に花言葉というのを教えてくれた。
『花嫁の幸福』『幸せを願いつづける』
セレスは片手で顔を隠しているけど、見えている耳が赤い。ほんとうに、僕の魔法使い様はエリートなのにかわいくて愛おしい。
――僕が気まぐれにセレスの童貞を奪ったときには、こんな未来が訪れるなんて想像もしなかった。
でもあれがきっかけで、僕の人生は変わってしまった!
――幸せいっぱいの未来へ。
――――――――――
ここまでお読みいただきありがとうございました。
初めて書いた長編なので不安でいっぱいでしたが、更新を追いかけてしおりが動くのを見て、本当に毎日励まされました。
感想やエール、投票いただいたことにも飛び上がるほど喜んでいました。
最後まで読んだ感想を、ひとことでもいただけたら嬉しいです。
本作は第11回BL小説大賞にエントリーしています。
もし「応援してやってもいいよ!」という方がいらっしゃいましたら、今月中に投票をお願いします。
でも、読んでいただけただけで本当に嬉しいです。
番外編の構想もありますので、それは12月以降のんびりと書いてみようと思います。
本編に挟めなかったハートフルなお話と、本編後の甘々な……アレです♡
最後になりますが、みなさまに両手いっぱいの感謝を。
少しでも幸せな読書時間に貢献できていますように。
おもちDX
セレスのお父さんは、息子と同じ黒髪に思慮深げな藍色の瞳を持つ美男子だった。顔立ちもセレスとよく似ているけれど、口の上に生やした髭が渋い。
その隣に立つシルバーの髪に赤い瞳を持つお母さんは口元に湛えた笑みが上品で、とてもきれいな人だった。
挨拶を簡単に済ませ、応接間でご両親と向かい合って座っている。僕は幸せでふわふわした気持ちから一転、セレスの家族からなにを言われるか戦々恐々としていた。
思わず膝の上で手を強く握りしめていると、隣に腰かけたセレスが僕の手を上から優しく握った。変に入っていた力が抜ける。
うん……大丈夫。こんなにも強い味方がいるんだから。
「っ、ふふっ。ふ、ふ、あははは!」
「こ、こらキュオネ……示しがつかないじゃないか」
「だって。ふふ、魔法にしか興味のないような朴念仁だった子が、こんなにも幸せそうな顔しちゃって。心配して損しちゃった」
「ご、ゴホン! ――ウェスタくん、こんな息子でいいのかね?」
「……へ?」
「もう分かっているだろうが、不器用な子でね。伴侶とするには苦労をかけるんじゃないかと思ってな。それに、こうと決めたら梃子でも動かないというか、意固地というか……無理やり承諾させたんじゃないかと」
えー、そっち? 僕は無礼にも目を丸くしてぽかんと口を開けた。息子にお前はふさわしくない! とか言われるのかと思った。
どうやらセレスが隣国まで僕を追いかけたことも知っていて、息子の本気度は十分に伝わっていたらしい。
初めてと言っていいほど興味を示し執着した人間がいるなら、女でも男でもいいから「結婚してやってくれ」とお願いするくらいの気持ちで今日訪れたそうだ。
拍子抜けした僕はちゃんと両想いであることを伝え、そのあとは和やかに会話を楽しんだ。
出会いのきっかけを聞かれて口ごもったりしたけど、なんとか酒場でのくだりは誤魔化した。さすがに息子さんの童貞を奪って乗っかりました! とは言えない。
母親のキュオネさんは結婚式に並々ならぬ熱意を抱いていた。曰く、男の子同士の婚礼衣装って地味になっちゃうかと思ってたけど、ウェスちゃんならドレスも似合いそうね! だそうだ。
男の僕がドレス……ひぇ。謹んでお断りさせていただきたい。
ご両親を玄関ホールまで見送ったとき、キュオネさんがセレスにそういえば、と話しかけた。
「庭にたくさん咲いてるあの白い花、ブライダルベールよね? セレスにブライダル? って思ってたけど、ウェスちゃんが家族になってくれるならぴったりね」
「母上、やめてください」
「ブライダルベール……」
あの花はさっきもらった花束にも使われていたし、僕たちの生活の中ではあちこちに飾られて見慣れた花になっている。
キュオネさんは僕に花言葉というのを教えてくれた。
『花嫁の幸福』『幸せを願いつづける』
セレスは片手で顔を隠しているけど、見えている耳が赤い。ほんとうに、僕の魔法使い様はエリートなのにかわいくて愛おしい。
――僕が気まぐれにセレスの童貞を奪ったときには、こんな未来が訪れるなんて想像もしなかった。
でもあれがきっかけで、僕の人生は変わってしまった!
――幸せいっぱいの未来へ。
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ここまでお読みいただきありがとうございました。
初めて書いた長編なので不安でいっぱいでしたが、更新を追いかけてしおりが動くのを見て、本当に毎日励まされました。
感想やエール、投票いただいたことにも飛び上がるほど喜んでいました。
最後まで読んだ感想を、ひとことでもいただけたら嬉しいです。
本作は第11回BL小説大賞にエントリーしています。
もし「応援してやってもいいよ!」という方がいらっしゃいましたら、今月中に投票をお願いします。
でも、読んでいただけただけで本当に嬉しいです。
番外編の構想もありますので、それは12月以降のんびりと書いてみようと思います。
本編に挟めなかったハートフルなお話と、本編後の甘々な……アレです♡
最後になりますが、みなさまに両手いっぱいの感謝を。
少しでも幸せな読書時間に貢献できていますように。
おもちDX
応援ありがとうございます!
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