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20.王都三日目
しおりを挟む合同訓練も二日目になると、寄せ集めのメンバーでも連携が取れてくる。闇魔法という珍しい属性を操れる騎士が影で魔物を作り上げ、より実践に近い訓練を積むことができた。
まだまだ集団討伐は初心者のイーリスも、いつもとは違う人とのフォーメーションや戦い方から学ぶ部分は多い。今日は途中から団長たちも参加して、豪華メンバーでの訓練となった。
初日は目立ったために持て囃されたが、総合力でイーリスよりも強い人は多くいる。クヴェルもそうだし、他の団長たちやラートもすごかった。
「クヴェルはやっぱりすげぇな。後方で指示を出してるだけじゃなく、あんなにでっかい氷魔法を平気な顔でぶっ放せるんだから。おれ、鼻高々だったよ」
「私のことより……イーリス、君はいつの間にこっちでも人気者になったんだい?」
「ええ? 別に人気じゃないよ。言っただろ? 初日に模擬戦をやったって。あれで顔と名前が知れ渡っただけじゃんか」
早めに訓練が終わり、夕飯前のひとときをクヴェルの家で過ごしている。
通常の任務と違って、毎日家に帰って二人でゆっくりできる時間があることは想像以上に幸せだ。宿と違って周囲の音や壁を気にしなくていいし。
イーリスは居間で剣の手入れをしながら上機嫌でクヴェルに話しかける。しかし話題はすぐこちらに返ってきた。
訓練に参加している騎士は三十名ほどいる中で、ほとんどが王都近辺の騎士のためイーリスたちの存在が物珍しいだけだ。訓練で声を掛け合っているうちに仲良くなり、休憩時間は談笑もする。
クヴェルの眉根は僅かに寄っている。イーリスが「人気者」であったとして、それに不満があるかのような表情だ。イーリスは小さく首を傾げた。
「関係はいいに越したことないだろ?」
「尻を触られてた」
「はあっ?」
「肩を叩くくらいでいいじゃないか。いやそれも私には許しがたいが、イーリスの愛らしい尻を触って、挙句の果てには揉んでたよな? あいつは誰なんだ? そんなに仲が良いのか?」
「…………」
クヴェルは静かに憤っているが、イーリスにはどこが悪いのか理解できなかった。
(疑った見方をしすぎじゃないか? 尻を触るって……男同士ならパンと軽く叩き合うくらい普通じゃねぇか)
イーリスは背も高いし尻も大きめで触りやすい位置にあるのか、昔から知り合いにはよく叩かれてきたのだ。慣れたもので、なんとも思わない。
クヴェルが見たのはクラインのことだろう。彼は同い年なのもあってイーリスによく話しかけてくるし、貴族と知っていても話しやすいので結構仲が良くなったと思う。
でもなんとなく、相手がクラインだとか本当に仲が良いとか教えても意味がないのだと感じた。クヴェルはもう怒っている。
「……おれのこと、疑ってるのかよ」
「そうじゃない。ただ君が、無自覚すぎるんだ」
「無自覚ってなんだよ! どうしておれが責められる!? なんもしてねえじゃねぇか!」
「イーリス!」
まさかイーリスの気持ちを疑われているのだろうか。そう考えただけで鋭い刃先で突かれたように胸が痛んだ。
悲しみを覆い隠すごとく怒りが湧いてきて、つい大きな声をぶつけてしまう。
心のどこかで冷静な自分が「怒るな、謝れ」と言っている。けれど自分にはクヴェルしかいなくて、釣り合わないと分かっていても別れるなんて絶対に嫌で……これだけ依存してしまっているのに疑いの目で見られたことがショックだった。
イーリスは衝動のまま立ち上がり、クヴェルの家を出ていく。
こんなの自分らしくない。まずは一人になって、冷静になるべきだ。
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