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「憂いを帯びた表情って言うのかなぁ? 妬けるね」
「ひっ……」
襟の合わせ目から手を差し込まれ、鎖骨を撫でられる。恐怖で立った乳嘴を指先で弄ばれると、全身の肌が粟立ち嫌な汗をかく。
男娼だったときなら、それくらいの接触はなんとも思わなかったはずだ。しかし今は耐え難い不快感に全身が支配され、絶望がひたひたと足下に迫ってくる。
これが、番以外に触られるということ? 我慢するなどという次元じゃない。性器に触れたり挿入されたりしたらショックで死んでしまってもおかしくないと思えるほど、本能的な部分で拒絶している。
「い……ゃっ……」
「……へぇ、そんな風になるんだ。そそるねぇ。今から予行練習しておく?」
「……ッ!」
ぎゅっと目を閉じ、不快感に耐えようとしたときだった。
突然馬のいななきが聞こえてきたかと思うと馬車が止まり、ネージュは座席の下にごろんっと放り出される。パラディも姿勢を崩して「なんだ!?」と外に向かって大きな声を出した。
馬車の中に吊るしていたランタンは消えてしまい、視界が真っ暗になる。
「騎士が……ぐぁっ!」
「くそ、閣下から手を回したと聞いてたのに」
外から剣戟の音が聞こえ、誰のものかわからない呻き声や叫び声がする。ネージュは恐怖で固まっていたが、国外まで渡り歩くパラディは緊張しつつも慣れた様子だった。
暗闇に慣れてきた目でパラディの方を見ると、胸元から短剣を取り出し扉を窺っている。すると向こうから扉が開き、満身創痍の男がパラディに必死の形相で告げた。
「今のうちに逃げ……」
「逃がさない」
男の胸から赤く濡れた剣先が飛び出し、ゆらりと体が傾ぐ。その向こうには黄金の髪を乱れさせ、黒い騎士服を身に纏ったイデアルがいた。
助けに来てくれた……!
思わず身を乗り出したネージュだったが、背後から腕を回されたかと思うと首に冷たいものが当たった。短剣の刃だ。
「動くと切るよ。下がれ、……そう。剣を捨てろ」
「イ……イデアル」
「逃がさないよ? 大事な商品なんだから」
ネージュは思わずイデアルの名を呼んだが、彼は言われたとおり血に濡れた長剣を地面に置いた。視線はネージュたちから離さない。
もっとも、パラディは自分の優位をわかっている。
雨のなか、周囲は松明で煌々と照らされていた。イデアルと同じような格好をした騎士たちがいて、相手はほぼ倒れていたものの固唾を呑んでこちらを見守っていた。
ネージュはパラディと馬車を降り、彼らから距離を取る。すると離れたところから騎馬の集団が駆けてくるのが見えた。
揃いの鎧は、騎士団のものと違う。
「公爵家の紋章だ! はは、運命の女神は僕を見放してはいないようだ」
パラディは笑ったが、近づいてくると彼らの形相が切羽詰まったものであるとわかる。違和感の正体はその背後にいた人たちだった。
近づくまでよく見えなかったものの、黒い騎士服を着た人たちがさらにいた。ここにいるのは数人だが、新たにやってきた彼らは規模が違う。
公爵家の兵団はほとんどがネージュたちを追い越して逃げていく。公爵に合わせて立ち止まったのは数人だけで、騎士たちにあっという間に囲まれてしまった。
「国王陛下のお召しだ! ネージュ・ベアトリクス・ブーロンシュを保護し王宮へご同行いただく!」
堂々と宣言したのはヴェリテだった。再び戦闘は再開され、圧倒的不利に公爵の情けない悲鳴が聞こえる。
一方でパラディとイデアルの緊張状態は続いていた。
動くたびネージュの首に当たる刃が熱かった。痛みを感じる余裕はないが、押し当てたまま移動しているせいで皮膚が切れているのかもしれない。
イデアルの視線も熱く、一切の隙も見逃さないという決意を感じる。相手は剣を持っていないのに圧倒され、パラディは冷や汗をだらだらと流している。
「ひっ……」
襟の合わせ目から手を差し込まれ、鎖骨を撫でられる。恐怖で立った乳嘴を指先で弄ばれると、全身の肌が粟立ち嫌な汗をかく。
男娼だったときなら、それくらいの接触はなんとも思わなかったはずだ。しかし今は耐え難い不快感に全身が支配され、絶望がひたひたと足下に迫ってくる。
これが、番以外に触られるということ? 我慢するなどという次元じゃない。性器に触れたり挿入されたりしたらショックで死んでしまってもおかしくないと思えるほど、本能的な部分で拒絶している。
「い……ゃっ……」
「……へぇ、そんな風になるんだ。そそるねぇ。今から予行練習しておく?」
「……ッ!」
ぎゅっと目を閉じ、不快感に耐えようとしたときだった。
突然馬のいななきが聞こえてきたかと思うと馬車が止まり、ネージュは座席の下にごろんっと放り出される。パラディも姿勢を崩して「なんだ!?」と外に向かって大きな声を出した。
馬車の中に吊るしていたランタンは消えてしまい、視界が真っ暗になる。
「騎士が……ぐぁっ!」
「くそ、閣下から手を回したと聞いてたのに」
外から剣戟の音が聞こえ、誰のものかわからない呻き声や叫び声がする。ネージュは恐怖で固まっていたが、国外まで渡り歩くパラディは緊張しつつも慣れた様子だった。
暗闇に慣れてきた目でパラディの方を見ると、胸元から短剣を取り出し扉を窺っている。すると向こうから扉が開き、満身創痍の男がパラディに必死の形相で告げた。
「今のうちに逃げ……」
「逃がさない」
男の胸から赤く濡れた剣先が飛び出し、ゆらりと体が傾ぐ。その向こうには黄金の髪を乱れさせ、黒い騎士服を身に纏ったイデアルがいた。
助けに来てくれた……!
思わず身を乗り出したネージュだったが、背後から腕を回されたかと思うと首に冷たいものが当たった。短剣の刃だ。
「動くと切るよ。下がれ、……そう。剣を捨てろ」
「イ……イデアル」
「逃がさないよ? 大事な商品なんだから」
ネージュは思わずイデアルの名を呼んだが、彼は言われたとおり血に濡れた長剣を地面に置いた。視線はネージュたちから離さない。
もっとも、パラディは自分の優位をわかっている。
雨のなか、周囲は松明で煌々と照らされていた。イデアルと同じような格好をした騎士たちがいて、相手はほぼ倒れていたものの固唾を呑んでこちらを見守っていた。
ネージュはパラディと馬車を降り、彼らから距離を取る。すると離れたところから騎馬の集団が駆けてくるのが見えた。
揃いの鎧は、騎士団のものと違う。
「公爵家の紋章だ! はは、運命の女神は僕を見放してはいないようだ」
パラディは笑ったが、近づいてくると彼らの形相が切羽詰まったものであるとわかる。違和感の正体はその背後にいた人たちだった。
近づくまでよく見えなかったものの、黒い騎士服を着た人たちがさらにいた。ここにいるのは数人だが、新たにやってきた彼らは規模が違う。
公爵家の兵団はほとんどがネージュたちを追い越して逃げていく。公爵に合わせて立ち止まったのは数人だけで、騎士たちにあっという間に囲まれてしまった。
「国王陛下のお召しだ! ネージュ・ベアトリクス・ブーロンシュを保護し王宮へご同行いただく!」
堂々と宣言したのはヴェリテだった。再び戦闘は再開され、圧倒的不利に公爵の情けない悲鳴が聞こえる。
一方でパラディとイデアルの緊張状態は続いていた。
動くたびネージュの首に当たる刃が熱かった。痛みを感じる余裕はないが、押し当てたまま移動しているせいで皮膚が切れているのかもしれない。
イデアルの視線も熱く、一切の隙も見逃さないという決意を感じる。相手は剣を持っていないのに圧倒され、パラディは冷や汗をだらだらと流している。
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