セフレの恋は難しい(同僚ならなおさら)

おもちDX

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 ◇


 月曜日の憂鬱は、人身事故による電車の遅延から始まった。そんな日に限って、朝から取引先が来て打ち合わせの予定が入っているのだ。

(くそっ。あと一駅もないのに、ついてね~……!)

 駅と駅の間で電車が止まってしまったから、降りることもできない。早めに家を出たもののあと一本早い電車に乗ればよかったと、してもしょうがない後悔ばかりが脳裏を過ぎった。

 会社には連絡を入れているし、営業部の面々はこういった事態にも慣れている。資料は転送してあるから、今ごろ俺の代わりに同僚が応対してくれているはずだ。

 でも取引はあと一歩で交渉成立だったし、前から顔を繋いでいたのは自分だったので悔しい。仕方ないって分かってるけど……!

 四十分も止まっていた電車がようやく息を吹き返し、会社の最寄駅で降りるとぎゅうぎゅうのホームを最大限の速さで駆け抜ける。
 そのままオフィスまで走って行って、俺は同僚たちへの挨拶もそこそこに応接室のドアを開けた。

「大っ変……遅くなり……はぁっ、申し訳ありませんでした……!」
「おはよう笹原くん。そんなに急いで来なくても、全然待ってないから大丈夫だよ」

 身だしなみも整えず、息を切らしながらの登場は失礼だったかもしれない。今さらそんなことに気づいて、俺は取引先の峯部長が笑って答えてくれたことに内心ほっとする。

 室内には丸眼鏡にちょび髭がトレードマークの峯部長と、部下なのか若そうな女性が隣に座っていた。向かいにいるのは純希だ。
 純希はまだ二十代なのにやり手で、最近は俺よりも営業成績がいいことからピンチヒッターとなったのだろう。

 椅子から立ち上がった純希が俺の方へ歩み寄ってきて、「髪、跳ねてますよ」と言いながらそっと直してくれる。
 背後で女性がくすくす笑っているのを感じながら、純希はどこまで彼らと話したのかを小声で教えてくれた。
 
 結局、純希は場を温める雑談アイスブレイクと内容説明だけしてくれたらしく、契約は俺が締結することができた。うちの会社の営業部のスタンスは弱肉強食だ。純希の手柄にしてしまっても良かったのに、そうしなかった優しさに胸がぎゅっとなる。

 元々一時間の来社予定だったからどうなることかと思ったが、最後まで純希のサポートがあったおかげで予定通り終えられそうだ。

萬造寺まんぞうじさんっておもしろい方なんですね」
「ええっ、初めて言われましたよ。私は生真面目でつまらない男だって有名なんです。ねぇ、笹原先輩?」
「よく言うよ……」

 俺が書類の最終確認をしていると、峯部長の部下である横田さんに話しかけられた純希は冗談で返している。俺が顔も上げずに突っ込むと、峯部長は楽しそうに笑った。

「ははは! いいコンビだな。美男子が二人も揃うと横田の機嫌もいいわ」
「部長! 私はいつも機嫌いいですよ!」

 向こうもフラットな上下関係なのか、横田さんは峯部長に頬を膨らませて見せる。自分の若さと可愛らしさを十分に理解している仕草だ。女性に興味のない俺は素直に感心した。

(こういう、嫌味なく自分に自信のある子が男にモテるんだろうなー……)

 俺は男にモテたことがない。大学までは田舎住みだったから性的指向をオープンにできず、就職で上京したことでようやく出会いの場に赴くことができた。
 しかし今度は出会い方の選択肢が多すぎて迷い、いくつかゲイバーに行ってみたものの雰囲気に馴染めず、誰からも声を掛けられることなく帰ってきたのだ。

 きっと俺も、自分に自信があれば少しくらいモテたんじゃないか?
 マッチングアプリで人と会ってみようと決意できたのも、仕事で難しいと言われていた契約を取れたことで一瞬自信が湧いたからだった。俺は年配受けだけはいいので、仕事には大いに役立っている。

 仕事を成功させるコツは、入念な準備と真面目で仕事を任せたいと思われるキャラづくりだ。隙がないと堅苦しくなりすぎるため、時折素を見せるとさらに受けがいい。
 アプリで若く好みの雰囲気を持った男と会えるとなって、俺は入念に身体の準備をし、遊び慣れた雰囲気を身に纏った。図らずも、バーでの人間観察が役に立ったといえよう。

 待ち合わせに純希がやってきたとき、美形すぎてなにかの間違いかと思った。一緒に軽く飲んで、なんとかホテルへと誘うことに成功し、初めての行為に素はだだ漏れだったと思う。
 しかしなぜか向こうも俺の身体を気に入ってくれて、夢みたいな気持ちのまま何度も会っているうちに好きになってしまった。我ながら、モテないせいで恋愛耐性がなさすぎる。

 最初はいい男を好きになれたと思ったけれど、結局セフレだし先も見えないし、これで良かったのかはわからない。
 そんな風にぐだぐだ考えたり流れに身を任せたりしていると、季節は本格的な冬に入りあっという間に年末を迎えようとしていた。

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