箱入りオメガの受難

おもちDX

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番外編

3.

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 中学生になってアルファだとわかり急激に身長が伸びると、性格に関係なく琥珀はとにかくモテた。
 高校生になって親が社長だと知れるとさらにモテたが、オメガの女子が既成事実を作ろうと迫ってきたことがきっかけで、女性が苦手になった。

 大学ではアルファ用の抑制剤を飲んでフェロモンを抑え、見た目で目立たないようにしていると驚くほど平和に過ごせるようになった。
 元々陽キャでもないため、地味にしていればよく馴染む。理系の学部では男ばかりなのも助かった。

 あの日瑠璃に出会って一瞬で惹かれたものの、生来のコミュ障が邪魔をしてなかなか上手くいかなかった。少しずつそばにいることを許してもらい、瑠璃の内面の美しさにも惹かれた。
「ださ」とたまに言われるくらいで、普通に隣を歩いてくれる。何ひとつ直せとは言われず、ついにはありのままの琥珀を好きになってくれた。

(ああ、瑠璃さんに……会いたい!)

 瑠璃のことを考えていると、会いたい気持ちが募ってくる。毎日会っているのに全然足りないのはどうしてなんだろう。
 こっそり見に行ったと言うと怒られるのだが、言わなければいい。琥珀は退勤時間目掛けて会社まで行ってみようと密かに決めた。

「よ、杏羽。なんかさっき研究室行ったらさ、先輩がお前のこと探してたけど。『とんでもない原石見つけた』とか」
「原石呼ばわりか……」

 午後の講義を一緒に受ける友人と合流する。卒業間近の先輩に会う機会はもうそうそうないはずだし、放置でいいだろう。

「今日のサークル、七時に渋谷のTOHO集合だって」

 そういえば今日はサークルで映画を観に行く日だったか。でも琥珀にはもっと大事な、瑠璃を垣間見に行くという予定ができている。

「悪い、僕はパスで」
「杏羽ぁ、最近付き合いわりーぞ。彼女でもできたん?」
「彼氏な」

 完全に冗談で訊かれたけど、こいつならいいかと教えておく。今後ずっと、自分はオメガの恋人優先になるので。

「えーっ、まじか! 男ってことは、オメガ? お前アルファだったの? 意外っつーか、なんか激しく納得したわ……」

 友人からは質問攻めに遭うも、驚きを通り越してだんだん納得顔になるのが見ていて面白かった。こいつ順応性高いな。

 こそこそ喋りながら講義を終えて、一旦家に帰ろうかと琥珀は画策した。もし瑠璃に見つかって怒られることになったときのため、シャワーを浴びておきたい。見た目はダサくて平気でも、せめて清潔な自分で恋人に会いたいし……

 ふとスマホをチェックすると、瑠璃からメッセージが入っていたためスマホを落としそうになった。いつもは昼休憩と運が良ければ午後の休憩時間、その後は定時後の帰宅途中にしか連絡が来ないのに。

「はわっ。瑠璃さんから、十八時前に連絡が……!?」
「え。なに、どした?」

 突然震えだした琥珀に友人が尋ねてくるも、意識は完全にスマホの向こうにいる瑠璃に向かっている。

『まだ大学いる?』
「い、い、います!」
「うるさ。杏羽まじどした!?」

 読んだ内容につい大声を出してしまい、琥珀は慌てて文字を打った。まだ仕事中のはず、なにかあったのだろうか。この前買ったメリケンサック、いやスタンガンの出番では!?

 琥珀がメッセージを送信すると、すぐ既読になる。なったと思った瞬間、着信画面に切り替わった。「ひぁ」と息を呑み、応答するのに指が震えてしまう。

「るるる瑠璃さん!?」
「あ、琥珀? いきなりごめんな、授業中じゃなかった?」
「は、は、はい! どうしたんですかっ、仕事は? すぐそっち行きましょうか!?」
「……来ちゃった」
「え?」
「今、お前の大学の前にいる」

 ガタン! と音を立てて立ち上がり、琥珀はキャンパスの門に向かって走り出した。普段どのキャンパスにいるかは話したことがある。だからって、まさか、会いに来てくれるなんて……

「杏羽~! カバン置いてってる~!」
「瑠璃さんっ、今すぐ行きますから!」
「は、走らなくていいって……」

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