後天性オメガは未亡人アルファの光

おもちDX

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「失礼します。ミルファ様……大丈夫ですか?」
「わぁ! ……び、びっくりしたー。大丈夫だよ」

 ――ルシアーノがアルファだと聞いて、ミルファは気づけば半生を振り返っていた。
 
 書斎へとやってきた家令のディードーに話しかけられて、意識を現実に戻す。ミルファがあまりにも驚くから、彼は「ノックはしたのですが」と前置きしつつシルバーフレームの眼鏡をカチャと直し、落ち着いた調子で言葉を続けた。

「奥さ……ルシアーノ様を部屋へとご案内いたしました。特にいま改めて準備すべきものはないと仰せです」

 落ち着いて見えるがディードーも混乱の渦中にあるらしい。「奥様がやってくる!」となんだかんだで沸いていた使用人たちも、ルシアーノに対して奥様呼びで良いのか迷っているようだ。
 ミルファも口には出さないだけで心のなかで思っていた。

 ルシアーノ、僕よりも主人感あるぅ……
 
「そう、よかった。でも服とかは必要でしょう? 来てから用意してあげようと相談していたものね」
「それが……持ってきたものだけで事足りるからよい、と」
「え? 荷物ってあの手提げ以外にあったっけ?」
「ありません……」

 ミルファは困惑を滲ませた顔で目の前に立つディードーを見上げるが、彼も首を横に振るだけ。予想外のことばかりでそのまま「はて、」と首を傾げた。
 別に「すぐに仕立て屋を呼んで!」という奥様を期待していた訳でもないしむしろそうでなくて助かるが、こちらが当然と準備するものまで不要と言われるとは思わなかった。

 アルファらしい見た目と元侯爵夫人という肩書きに見合わない謙虚さ、質素さ。そもそもアルファと元侯爵夫人という二つだけでも結びつかなすぎる。アルファ同士でも婚姻はできるが、男女でないと子は出来ない。
 
 なぜ、彼がセリオ侯爵と婚姻を結んでいたのか……そこから分からなくなり、ミルファは反対方向にもコテ、と首を傾いだ。

「とりあえず、僕もルシアーノと話してくるよ。初日からあれこれと質問するつもりはないけど、本当に不便がないかだけ聞きたいし」

 色々と気になることばかりだが初対面の相手、しかも伴侶となる人に早速質問責めも良くないだろう。複雑な事情を抱えているといった線がいよいよ濃厚になってきたのを感じる。

 ミルファはよし! と椅子から立ち上がった。先ほどルシアーノとこそこそ話したとき、なんとなく仲良くなれそうな気がしたのだ。夫婦というより、気の置けない友人になれそうな、そんな予感が。
 
 彼からはミルファやこの屋敷を見下すような雰囲気を感じなかった。王都の貴族街の端にある、小さめの屋敷には豪勢な調度などない。侯爵家に何年も住んでいたのなら大層ギャップがあるはずである。
 
 だからルシアーノの印象には良いものを感じている。謎多き人だが……これから一緒に暮らすのだから、良好な関係を築いていきたい。
 使用人たちも戸惑いはしているものの彼を邪険に扱うことは決してないだろう。なんなら女性陣は、彼の美貌に見惚れていたんじゃないだろうか。

「男でも惚れ惚れするほど、格好良かったよねぇ……」
「……ミルファ様」

 つい、そんな感想を口にしてしまってディードーが目をぐるりと回す。
 だって。ミルファの家族も見目は整っていたけど、ルシアーノと並べるとだいぶ霞むと思う。男らしい美を凝縮したような姿だったし、そこに加えて繊細で優しそうな空気感はミルファの家族に持ち得ないものだ。

 疑問とか不安とか、いろいろあるけれど見た目のインパクトが強すぎた。せっかくだし、もう一度ちゃんと見てこよう……とミーハーな婦女子のような心持ちで、ミルファはルシアーノの部屋へと向かうのだった。

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