後天性オメガは未亡人アルファの光

おもちDX

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 食事を終えたミルファたちは、もう一度乗馬して湖の周りをゆっくりと歩いた。

 ちゃんとした下見は当日随行する近衛騎士がやってくれるから、ミルファはこの場所からの景色が一番いい、などのちょっとした情報を集めていく。長官に伝えて有用な情報と判断されれば、国王陛下にも伝わるだろう。

 対岸あたりまで来ると、到着したときに見えた釣りの人影はもうなかった。いまは湖の周囲に誰も見当たらず、この世界でふたりきりになってしまったような物悲しささえある。
 
 急にそう感じた理由は見上げた空にあった。グレーの雲が西から広がり始め、まだ高い位置にある太陽まで覆おうとしている。
 冷たい風が吹き、雲の動きも早い。どことなく景色はくすみ、みんながどうして早々に帰ってしまったのか遅ればせながら理解した。

「ひと雨来そうだな……すぐに止めばいいが」
「雨宿りできる場所なんてあったかなぁ。でも、小雨で済むか……も……!?」

 ミルファが呑気な発言をした瞬間、ポツッと大粒の雫が顔に当たった。あ~もう降ってきちゃったな、と心のなかで思った直後、バケツをひっくり返したような大雨がザァザァ降り出す。

 視界も途端に悪くなり、「聞いてないよぉ~!」という嘆きも「おい! クレア!」という慌てた声も雨音にかき消された。

 ミルファの馬アウロスだけは泰然としていたものの、ルシアーノの乗ったクレアが勝手に木の下へと歩き出したので追いかける。開けた湖のそばから樹林に入り込むと、少しだけ雨の音や勢いは弱まった。
 
 とはいえ、細くまとまった葉を伝って大粒となった水がボタボタと落ちてくるのも、かなり冷やっとする。なんとか会話だけはできるようになり、ミルファはルシアーノとこれからの方針を話し合おうと顔に張り付いた髪を払った。

「ねぇ、ルシ……あははっ。もう……びっくりするくらいびしょ濡れだねぇ!」
「言っとくけど、ミルファも同じ状態だからな?」

 髪も服もずぶ濡れでぴったりと肌に張りついている。もう笑うしかなかった。
 二人してこんなみっともない格好を晒して、ここから屋敷まで三時間もあるのだ。いったいどうすればいいのだろう?

「ひどいよ、これ。どうする? 雨が止まないと、帰るの無理だね……」
「休める場所を探そう。これだけの規模の林なら、狩猟用の小屋くらいあるはずだ」

 自分たちの来た方向には小屋なんて見当たらなかった。しかしちゃんと見ていなかっただけの可能性もある。宿のありそうな町からも距離が離れているため、手当たり次第歩いて探すしかない。

 徒歩じゃなかったのは不幸中の幸いで、それでも足元がぬかるんでいるためスピードは遅い。木々の根が張り出しているから馬たちに無理はさせられなかった。

 服が水をたっぷりと吸って身体が重い。雨は一向に止まず、体力と体温が奪われていく。時間が経つごとに当初の高揚も鳴りをひそめ、口数は少なくなった。

 いったいいつになったら雨宿りできるんだ……? 国王夫妻が訪れたときも天気が急変したらどうするんだろう?
 あ、ちゃんと目を凝らしてなきゃ小屋があっても見逃しちゃうな。あぁ、寒い。
 
 まとまりのない考えが浮かんでは消えてゆく。何度も身体の芯から震えが湧き起こり、いつしか注意力散漫になっていた。ボタッボタッと不規則に落ちてくる雨粒と、馬の足が水たまりを踏む水音。
 
 ――なにか話したほうがいい、とミルファがぼうっとする頭を振って口を開いたときだった。ルシアーノがある一点を見つめ指さす。

「ミルファ、あそこ……」
「ん……? あ。こ、小屋だぁ~~~っ……」

 見つけた瞬間わっと喜んだものの、疲れ切っていたせいでそのまま脱力してしまった。アウロスのたてがみに上半身を預け、ミルファはそのまま馬と一体化してしまう。
 
 ルシアーノの視線の先には拓かれた空間があり、小さな木の小屋がぽつねんと建っていた。足元をよくよく見れば細い歩道が湖の方向から小屋へ伸びていて、晴れていたらもっと簡単に見つけられたかもしれない。

 馬の足が止まったことを感じても、ミルファは動けなかった。先に下りたルシアーノが小屋の様子を確認しに行く。

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