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しおりを挟む「よかった……やっぱり俺たちみたいな人のために建てられているみたいだ。最低限の物は置いてあった。さぁ、行こう。――ミルファ?」
人里から離れた地で、狩猟や釣りに出かけた人が天候により帰れなくなったときのため、こういった小屋は用意されているのだ。やっと見つけた休息地に、ルシアーノが明るい声音で話しかけてくる。
助かったね、早く休もう。そう返したいのに、ミルファは馬上でうつ伏せになってから目眩がひどく、言葉を発する余裕がなかった。
「ミルファっ! 下りられるか? ……くそっ、引っ張るぞ」
ぐったりとしているミルファの腕を片側から引き、重力に従ってずり落ちた身体をルシアーノが受け止める。自分の身体でさえこんなに重いのに、どうして彼はミルファを抱き上げられるのだろうとぼんやり思った。
ルシアーノはアウロスに「ここで待っててくれ」と話しかけ、小屋の中へと入っていく。薄暗くて室内はよく見えないが、ひと間しかなさそうだ。
ミルファは一脚だけあった椅子に座らされ、膝を抱えて小さくなってブルブルと震えた。すごく寒い。頭が痛い。
一旦外に出ていたルシアーノが戻ってきた。暖炉の前に無事だった敷布を絨毯の上に広げ、ミルファをそこで寝かせてくれる。
次に置いてあった道具でランタンに火を灯し、部屋の隅に置かれていた薪を暖炉に運び入れる。手が濡れていると作業がやりにくそうだ。なんとか火打石で薪に火を灯し、燃え広がると部屋が一気に明るくなった。
瞼の裏に光を感じたミルファは、うっすらと目を開く。心配そうにこちらを見つめ、濡れた紺青の髪をかき上げたルシアーノはこんなときでも色気を感じさせるんだからすごい。
身体の中にまで火が灯った気がして、暖炉の熱か自分の発熱か、ミルファは混乱した。
「顔が赤いな……大丈夫か? 熱が出てきたんだろう。苦しいところはあるか? ああもうっ。すぐに気づかなくて悪かった……」
ひどく後悔するルシアーノに重病人のような扱いをされて逆に居た堪れなくなる。馬上にいたときはしんどかったけど、本当にただの風邪だと思う。
なにしろ身体が冷えてしまった以外体調不良の心当たりがない。ミルファは最後に発熱したのが記憶にないくらい、ここ数年は健康体だったのだ。
「大丈夫だって……寒いだけでただの風邪だよ? ちょっと休めば治るから、心配しないで」
「心配するだろ……。帰るのは明朝にしよう。無理したら絶対に駄目だからな?」
「……はぁい」
真剣に諭されて、素直に返事する。眉根に皺を刻んでいるルシアーノの方こそ顔色が悪いように見えた。あまり心配させないよう、明るい声を出してみる。
ちょっと口角も上げてみたけど、直後に身体の芯から湧き上がった悪寒に身体を震わせてしまった。
「あぁ、もっと身体を温めた方がいいよな……。なにか使えそうなものがないか探してみよう」
ルシアーノが全ての棚をひっくり返さんばかりに探索を始め、寝転がるしかできないミルファは申し訳なさで胸がいっぱいになる。
部屋に運ぶだけでも大変だっただろうに、まだあれこれと考えてくれるなんて。使用人ならまだしも、彼にはなんの対価も与えられていないのだ。
ルシアーノが探し出した掛け布を持ってきて、ぱたりと動きを止めた。いったん掛け布は椅子に置き、ミルファに近寄ってくる。
その手がミルファの服を脱がし始めたとたん、まだ震えていたミルファはぱちっと目を見開いた。
「え……ッ! なに……!?」
「濡れた服を乾かさないと。着ている方が冷えるだろう?」
ミルファは下着まで雨で水浸しになっていることを分かっていた。持ってきた荷物に着替えはない。つまり……
「裸になっちゃうじゃん!」
「だから掛け布に包まろう。俺が温めてやるから」
俺が…………???
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