25 / 95
12-1.密やかな想い
しおりを挟む宣言通り順調に回復を見せたミルファはルシアーノと早朝に小屋を出発し、まだ朝といえる時間には屋敷についた。
急に外泊して屋敷は大丈夫だろうかと心配していたのだが、なんだか生暖かい目で使用人たちには出迎えられる。「もう大人ですものね……」なんて侍女長のポモナは特ににこやかだ。
しかしルシアーノがここでミルファを驚愕させた。口止めしていたのに、ミルファの体調不良を暴露したのだ。
「ちょっと! なんで言っちゃうの!?!?」
みんな大騒ぎになってしまった。なにしろミルファに雇われた使用人たちは、古参のディードーやポモナでもここ四年の主人しか知らない。元気なミルファに慣れきって、まさか体調を崩すなんて思ってもみなかったのだ。
ミルファは「もう大丈夫なのに……」とふてくされたまま、有無を言わさずポイと寝台に入れられ、ウトウトしていると気づけば医者まで呼ばれていた。
微熱が残っているだけだし、やっぱり雨で身体を冷やしたことが原因だと診断されて、ようやく皆が落ち着きを取り戻したのだった。
ちなみにルシアーノはミルファの部屋に居座り、診察にも付き添って誰よりも質問を重ねて医者を困らせていた。
「病気じゃないって言ってるのに……。そもそもさぁ、ルシアーノがなにも言わなければこんなに大騒ぎにならなかったんだよ?」
「専門家に診てもらわないと駄目に決まっているだろう。自己判断が一番危ない」
「……ふぁーい」
ルシアーノは心配性すぎる。けれど、いきなり全く心配するなというのも難しいことは分かっている。
昨日のミルファの言葉は、きっとルシアーノの心に届いた。一度だけじゃなくこれから何度も言葉と実体験を重ねることで、彼の心の傷を癒やしていきたい。
(まぁ……こうしてお世話されると距離感が近くなるし、僕は嬉しかったりして……)
初夜の事件以降、ルシアーノとは適切な距離を保って生活していた。しかし今回発見したのは、彼はお世話モードになると、途端に接近してくれるということだ。
ミルファがルシアーノに甘えすぎなのかもしれない。彼がそばにいるとつい、ふわふわくらくらしてしまう。ふらつくと腰を支えてくれるし、飲み物を持つ手にそっと手を添えてくれたりもする。
裸で温め合うことも躊躇わなかったし、背中を預けて椅子代わりにしたって怒らない。もちろんそこに性的な意味は全くないけど、ついミルファは嬉しくなってしまう。
間近で見ても綺麗で、飽きない男前だ。瞳は夜明けを迎えたばかりの空のようで美しいし、紺青の髪色はミルファの目の色に近いから密かにお気に入りだったりする。
見た目だけが好きなわけじゃないけど……惚れた男を身近に感じられるのは、すごく幸せ。
――ああ、認めよう。やっぱり好きになってしまった。
もう時間の問題だったのだ。情けないミルファを堂々と支えてくれて、ちょっとしたことでも本気で心配してくれる人を、好きにならずにいられるだろうか?
彼の弱いところを目の当たりにするたび、ミルファの心は甘く締めつけられる。前の夫に未練があることを知ると、どうしようもなく悲しい気持ちになる。
ふたりきりで過ごした夜がきっかけになり、ミルファは恋心を認めざるをえなかった。
(伴侶なのに初めから失恋確定って……さすが僕だな)
ベータの自分がアルファの男性に恋をしてしまうなんて、他人から見れば無謀で、馬鹿らしいと思われるだろう。でも好きになった人の二次性が自分にとって都合の良いものである可能性のほうが、少ないんじゃないかと思うのだ。
ミルファが異性を好きになれたらよかった。しかしそれでは自分じゃない。
誰にも迷惑をかけないのであれば、自分の好きな道を進みたい。
ルシアーノだってまだまだ男盛りだ。ここで心を休めて、そのうち女性やどこかのオメガのもとへ行くまで……ミルファは密かに彼を想いつづけることを、自らに許した。
287
あなたにおすすめの小説
愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです
飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。
獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。
しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。
傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。
蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。
顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
アルファ王子に嫌われるための十の方法
小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」
受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」
アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。
田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。
セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。
王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL
☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆
性描写の入る話には※をつけます。
11月23日に完結いたしました!!
完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!
幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。
叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。
幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。
大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。
幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
花喰らうオメガと運命の溺愛アルファ
哀木ストリーム
BL
αからの支配から逃げるには、この方法しかなかった。
Ωの辰紀は、αが苦手とする強い匂いを放つ花を、ヒートが始まる前から祖母に食べさせられていた。
そのおかげでヒート中にαに襲われることから逃れていた。
そして祖母が亡くなったある日。両親に売られてしまった祖母の形見を探しに骨董品屋に向かうと、先に祖母の形見を集めているαの有栖川竜仁と出会う。彼を騙して祖母の形見を回収しようとしていたが、彼には花の匂いが効かなかった。それどころか両親が隠したはずの首輪の鍵を持っていて、番にされてしまう。
「その花は、Ωを守る花ではない。喰らわれるのは君の方だよ」
花の中毒症状から救おうと手を差し伸べる竜仁。
彼は、祖母を苦しめたαの孫だと知りーー。
11月から更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる