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しおりを挟む「運が、いい。……これで?」
「ははは……これがこの町の限界なんだろう。夜はどうせ外に出るんだ。数時間眠るくらいならなんとかなるさ」
ミルファはもう使っていいよと案内された部屋に入り茫然とした。調度こそラッチ湖で泊まった小屋より揃っているが、部屋は狭い。ついでに寝台も狭かった。
体格のいいルシアーノと並んで眠ったら、寝相で床に落ちそうなくらい。どう見ても単身向けの部屋だ。
これできっちりと二人分の料金を支払ったのだ。地方は物価が安いと聞いていたけれど、ここは例外らしい。
これでは流れの旅人もひと晩泊まるだけで大変に違いない。庶民にはお高い町ってことか……。ミルファは窓から素朴な町を見下ろして遠い目をした。
食堂もついておらず、外に食べに出なければならない。ルシアーノと相談し、夜は早めに食べて、朝は持ってきた軽食を食べよう決めた。
ミルファは健康のため、三食きちんと食べることにしている。なお食べ過ぎは太るだけなので、気をつけないといけない。
小さくなったと言われてショックを受けたものの、太ったと言われたのも悲しかった。
前回の遠乗りのことがあって、軽食という名のおやつは多すぎるほどに持たされている。飲料水と湯はもらえるみたいなので、ビスケットや干した果物でも充分な食事となるだろう。
オーロラが出現するのは夜も更けて晩課の鐘が鳴ったあとの数刻らしい。それまではまだたっぷりと時間がある。
ミルファは見るほどに狭い寝台から目を逸らしながら、ルシアーノに声をかけた。
「観光するような場所はなさそうだったけど、外の散歩でもしようか」
「天文台の方へ行ってみないか? 中まで入れなくとも、近くで見てみたい」
「もちろん!」
ルシアーノが希望を主張するなんて珍しい。嬉しくなってつい即答してしまう。
宿屋の近くには品数は多くないが日用品や食品を売る商店があった。活気のない町の様子を何とはなしに見ながら、住宅街を抜ける。
冬に畑仕事ができなければ、皆内職に勤しんでいるのかもしれない。とはいえ子どもが外で遊んでいる様子もないのはちょっと不思議だ。教会で勉強しているのかな?
学び場のない地域は教会で最低限の読み書きを教えると聞いたことがある。教育への力の入れようは領主によって異なるが。
ちなみに貴族は学園に通うか家庭教師が定番だ。ミルファには家庭教師だった。存在も認めたくないものの、ミルファが外へ働きに出た際あまりにも馬鹿だと恥ずかしいと思われたのだろう。
と、ぼんやり考えていたところで六、七歳くらいの子どもが二人遊んでいるのが見えた。丸めた雪を投げ合ったりしているのが微笑ましい。
小柄な方は男の子らしい服を着ているが、よく見ると女の子と見紛うほど愛らしい顔立ちをしている。幼いのにどことなく色気まで見える、田舎にそぐわないほど完成された美形だった。まるで、二次性が……
「こら! 外に出たらだめって言ったでしょう!」
近くの家から出てきた母親らしき大人が子どもを叱る。「見つかっちゃった」と、その子は残念そうにもう一人へ手を振り、家へと入っていく。
ミルファたちが見ていることに気付いた母親がビクッと身体を強張らせ、早すぎるほどに扉をバタンと閉めた。もしかしたら、子があの容姿だから外部の人間に警戒しているのかもしれない。
治安は、そこまで悪くなさそうだけどなぁ。なにしろオーロラ目的の旅人以外いない。
もう一人の身体が大きい方の男の子は、名残惜しそうに閉まった扉を見つめてから別の方向へと歩いていった。まだ明るい時間帯なのに、なんだか可哀想だ。
しかし声を掛けるのも怪しく思われる気がして、そのまま天文台へと足を進めた。
美しい自然に囲まれたのびやかな町を想像していたけれど、そこに暮らす人々は窮屈そうに見える。まぁ決定的な何かがある訳でもないから、職場での報告には及ばないだろう。
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