85 / 95
36-2
しおりを挟む
他人事とは思えず眉尻を下げたミルファを見遣りながらも、ルシアーノは語り続ける。
「俺のことを勘違いした婚姻の申し出がたくさん来ていた。その中に、ミルファの名前を見つけて……友人としてでもいいから、パートナーになれないだろうかと思ったんだ」
「え……」
「ヤーヌスから聞いて、気が合いそうだと思っていた。だから手紙を貰えたのが嬉しかったし、内容も自分を飾らないところが面白くて温かくて……どうしてか、惹かれた」
「…………」
「共に過ごしていれば、惹かれる気持ちは強くなっていくばかりだったよ。仮の結婚生活は、温かくて穏やかで……幸せだった。友人に留まらず、本当の伴侶になりたいと思うまではそうかからなかった」
その頃には色々と吹っ切れて、貴族位継承の手続きを進めることにした。ルシアーノが侯爵家に通っていたのは、残務処理のためだけではなかったということだ。侯爵としての仕事も山ほどあるだろう。
まだミルファもベータだったし、準結婚ではなく今度はミルファを養子にしてしまうことも考えていたという。まさかオメガになるなんて、誰も想像しなかった。
正式に手続きが終わるまでは何も言えず、解雇した下級使用人から情報を仕入れたクィリナーレ家が余計な干渉をしてきたせいで、関係は拗れてしまった。
ルシアーノもミルファも傷つき、離れてしまった。
さらに、ルシアーノが領地に引きこもっている間にミルファの拉致事件が起きた。
気を利かせたミルファの上司と宰相、おそらく国王様の判断もあって、真っ先に情報を受け取ったルシアーノは、権力と金の使い所を知った。
「そのとき初めてミルファが後天性オメガだったと聞いたんだ。驚いたけど、なんだか納得したよ。君からはいつも、芳しい香りがした」
「か、芳しいって……そんなわけないのに」
自分も常にルシアーノからいい香りがすると思っていたなんて言えず、恥ずかしくなり頬に熱が上る。黙って聞いていれば、これは愛の告白でもあるのだ。
「危機に陥ったミルファを見て、一度でも離れた自分を呪ったよ。何があっても、嫌われても忘れられても、もう二度と離せないと思った」
「っ……」
「ミルファの望みはなんでも叶えたい。俺のことは下僕だとでも思ってくれていい。どうしてもそばにいたいんだ。可能なら……嫌われたくない。――もう、一人になりたくない」
「ルシアーノ……」
切羽詰まった声に、こちらの方が苦しくなった。まっすぐとミルファを見つめる夜明け色の瞳は薄い涙の膜に覆われ、縋るような必死さを訴えている。
ルシアーノの飾らない、全てをさらけ出した本音だ。心の柔らかい部分をキュッと掴まれて、自分はなにを躊躇っていたんだろうと馬鹿馬鹿しくなった。
ミルファは相手を慮るふりをして、自分が傷つくのを恐れていただけなのだ。これほどまでに求めてくれている人を、無視できる人がいるのだろうか?
あと一日でも、いや一分一秒でも、ルシアーノに孤独を感じさせたくない。自分一人でいいのなら、寄り添っていたい。
ミルファは席を立ち、テーブルを回ってルシアーノのそばに立つ。座っているからこちらが彼を見下ろす形になって、不思議と「守りたい」と感じた。
その思いのまま、両手で優しく抱き寄せる。ルシアーノの頭を胸に抱くと、いっそう愛おしさが増す。彼はミルファの胸の中で、小さく呟いた。
「愛してる……」
声は、振動となってミルファの真ん中に届く。言葉にしがたい感動と多幸感でいっぱいになり、ミルファは衝動的に行動した。
ルシアーノの顔を両手で包み、持ち上げるように上向かせる。潤んで見える彼の目が、閉じる暇もないほど前触れもなく――唇を重ねた。
「~~~っは、」
技巧も何もない押し付けるだけのキスに、ミルファ自身が息切れする。
伸びた自分の髪が彼の耳にかかっているのをくすぐったい気持ちで眺めつつ、ミルファは悪戯っぽく伝えた。
「僕だって愛してる。気づいているんでしょう?」
「俺のことを勘違いした婚姻の申し出がたくさん来ていた。その中に、ミルファの名前を見つけて……友人としてでもいいから、パートナーになれないだろうかと思ったんだ」
「え……」
「ヤーヌスから聞いて、気が合いそうだと思っていた。だから手紙を貰えたのが嬉しかったし、内容も自分を飾らないところが面白くて温かくて……どうしてか、惹かれた」
「…………」
「共に過ごしていれば、惹かれる気持ちは強くなっていくばかりだったよ。仮の結婚生活は、温かくて穏やかで……幸せだった。友人に留まらず、本当の伴侶になりたいと思うまではそうかからなかった」
その頃には色々と吹っ切れて、貴族位継承の手続きを進めることにした。ルシアーノが侯爵家に通っていたのは、残務処理のためだけではなかったということだ。侯爵としての仕事も山ほどあるだろう。
まだミルファもベータだったし、準結婚ではなく今度はミルファを養子にしてしまうことも考えていたという。まさかオメガになるなんて、誰も想像しなかった。
正式に手続きが終わるまでは何も言えず、解雇した下級使用人から情報を仕入れたクィリナーレ家が余計な干渉をしてきたせいで、関係は拗れてしまった。
ルシアーノもミルファも傷つき、離れてしまった。
さらに、ルシアーノが領地に引きこもっている間にミルファの拉致事件が起きた。
気を利かせたミルファの上司と宰相、おそらく国王様の判断もあって、真っ先に情報を受け取ったルシアーノは、権力と金の使い所を知った。
「そのとき初めてミルファが後天性オメガだったと聞いたんだ。驚いたけど、なんだか納得したよ。君からはいつも、芳しい香りがした」
「か、芳しいって……そんなわけないのに」
自分も常にルシアーノからいい香りがすると思っていたなんて言えず、恥ずかしくなり頬に熱が上る。黙って聞いていれば、これは愛の告白でもあるのだ。
「危機に陥ったミルファを見て、一度でも離れた自分を呪ったよ。何があっても、嫌われても忘れられても、もう二度と離せないと思った」
「っ……」
「ミルファの望みはなんでも叶えたい。俺のことは下僕だとでも思ってくれていい。どうしてもそばにいたいんだ。可能なら……嫌われたくない。――もう、一人になりたくない」
「ルシアーノ……」
切羽詰まった声に、こちらの方が苦しくなった。まっすぐとミルファを見つめる夜明け色の瞳は薄い涙の膜に覆われ、縋るような必死さを訴えている。
ルシアーノの飾らない、全てをさらけ出した本音だ。心の柔らかい部分をキュッと掴まれて、自分はなにを躊躇っていたんだろうと馬鹿馬鹿しくなった。
ミルファは相手を慮るふりをして、自分が傷つくのを恐れていただけなのだ。これほどまでに求めてくれている人を、無視できる人がいるのだろうか?
あと一日でも、いや一分一秒でも、ルシアーノに孤独を感じさせたくない。自分一人でいいのなら、寄り添っていたい。
ミルファは席を立ち、テーブルを回ってルシアーノのそばに立つ。座っているからこちらが彼を見下ろす形になって、不思議と「守りたい」と感じた。
その思いのまま、両手で優しく抱き寄せる。ルシアーノの頭を胸に抱くと、いっそう愛おしさが増す。彼はミルファの胸の中で、小さく呟いた。
「愛してる……」
声は、振動となってミルファの真ん中に届く。言葉にしがたい感動と多幸感でいっぱいになり、ミルファは衝動的に行動した。
ルシアーノの顔を両手で包み、持ち上げるように上向かせる。潤んで見える彼の目が、閉じる暇もないほど前触れもなく――唇を重ねた。
「~~~っは、」
技巧も何もない押し付けるだけのキスに、ミルファ自身が息切れする。
伸びた自分の髪が彼の耳にかかっているのをくすぐったい気持ちで眺めつつ、ミルファは悪戯っぽく伝えた。
「僕だって愛してる。気づいているんでしょう?」
297
あなたにおすすめの小説
愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです
飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。
獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。
しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。
傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。
蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
アルファ王子に嫌われるための十の方法
小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」
受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」
アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。
田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。
セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。
王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL
☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆
性描写の入る話には※をつけます。
11月23日に完結いたしました!!
完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる