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しおりを挟む「何をしてる、危ないじゃないか!」
「あ……」
声を漏らしたのは自分だったのか、アルヴィンだったのか。ミルファたちはそこにいるアルファの存在を認識した。
「だめです、ルシアーノさま……」
「大丈夫だ。すぐそこに運ぶだけだから」
アルヴィンも自分がアルファに与える影響を危惧しているに違いない。あるいは、本格的に発情すれば主人であろうがなかろうが誘ってしまうからだろうか?
拒否はしていたもののアルヴィンに抵抗する力はなく、ルシアーノにさっと抱き上げられた。
ルシアーノは近くにあったソファへとアルヴィンを寝かせる。薄いブランケットを身体にかけてやると、一瞬アルヴィンの手がルシアーノの方へ縋るように伸びた気がした。
ミルファは自分も動かなければと思うのに、その場から動けなかった。
(……嫌だ!!)
醜い感情が溢れかえり、心が捩れる。思わず自分の手もルシアーノの方へ伸びそうになって、もう片方の手で押さえながら目の前の光景を眺めていることしかできない。
ルシアーノがアルヴィンのフェロモンの影響を受けることも、アルヴィンがルシアーノに触れることも、どうしても嫌で仕方がなかった。
立ちすくんでいる間にルシアーノは部屋の扉を開け、他の使用人を呼んだ。すぐに誰かが駆け寄ってくる足音がする。ルシアーノがアルヴィンを彼の自室へ運ぶから、部屋へ案内してほしいと話しているようだ。
(なんでっ、ルシアーノが……!)
確かに番のいないオメガのフェロモンは、相手がベータであっても多少影響する。アルヴィンがいくら華奢とはいえ、ルシアーノは女性に運ばせるなんて考えてもいないだろう。だからって、わざわざルシアーノが運ぶ必要ある?
まさか、もうアルヴィンの発情の影響を受けているのだろうか。彼の部屋に行って、そのあとどうするの?
嫌な想像が膨らむ。呆然としているミルファの元へ、いつの間にかルシアーノがやってきていた。
「ミルファ、部屋に戻って大丈夫だ」
「え……」
「俺は抑制薬を飲んでいるから、発情につられたりしない。彼は安全に発情期を過ごせるよう、使用人たちが手配してくれるから。君は安心して休んでいい」
「そ、そうなんだ。……うん、ありがとう」
ふわり、と肩にガウンを掛けられて優しく背中を押される。ミルファは促されるままルシアーノの部屋を出て、ガウンが落ちないよう胸の前で端をぎゅっと握りしめた。
(僕ってば、最低……)
頭の中は自己嫌悪でいっぱいだ。
アルヴィンが苦しんでいたにもかかわらず、ミルファは嫉妬に駆られて何もできなかった。嫌だ、なんて子供のように駄々を捏ねて叫びたくなってしまった。
ルシアーノも、他のみんなも冷静に行動していたのに……情けないし申し訳ない。
ルシアーノが抑制薬を飲んでいただなんて知らなかったな。人口が少ないためかアルファやオメガ向けの薬は総じて高級品で、ほとんど市井に出回っていない。
しかしオメガとの事故を防ぐために、立場のあるアルファは抑制薬を服用することもあるという。
まさかその相手にはミルファも含まれてる? いや、考えすぎだよね?
ふるふると頭を振って、地味にショックを受けている自分を誤魔化す。
ミルファは後ろ髪を引かれながらも、ひとりで自室に戻った。
いつの間に眠っていたんだろう。ふと夜中に意識が浮上して、ミルファは自分が寝汗をかいていることに気づいた。シーツの間で身を捩り、身体の熱さを自覚する。
「あ、れ……?」
覚えのある感覚に、まさかと思う。しかしむくむくと自分の意志とは関係なく性的欲求が湧いてくると、確信せざるを得なかった。
(発情期だ……。うそでしょ……?)
時期的にはもう少し先だと思っていたのに。こんなのまるで、アルヴィンに嫉妬した身体がルシアーノの気を惹こうとしているみたいだ。なんて、浅ましい。
ミルファは涙ぐんで、ぎゅっと自分の身体を抱きしめた。しかし堪えようとしても下腹部が疼き、否応もなく思考が緩んでくる。
もはや無意識に下肢へと手を伸ばす。
――会いたい人を、脳裏に思い浮かべながら。
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