朔の向こう側へ

星のお米のおたんこなす

文字の大きさ
18 / 36
アイウス編

六本目『影から移る者』③

しおりを挟む
「いや~!! やっちゃったよね!!」
「『やっちゃったよね』じゃあないよ!! あんなに血を出して……心配したじゃあないか!?」

 セオドシアが倒れた後、二人は彼女を教会まで運び、シスターの手も借りて治療することで、大事には至らなかったが、傷が開かない様に現在はベッドで安静にしている状態だった。

「お前がこれ程までにこっ酷くやられるとはな……あのクラヴィスの仕業か?」
「は? んなわけなくない? 余裕勝ちだよ」
「じゃあ、なんでそんな怪我を?」
「だから、ドジっちゃったからだよ?」
「「「……?」」」

 どうも会話が噛み合わず、デクスターとパジェットには疑問だけがぷつぷつと湧いて出る。その後も何度も質問を繰り返すが、彼女の返答はどれもハッキリとしなかったり、意味不明だったりして二進も三進もいかなかった。
 次第にパジェットはそんな彼女の様子に苛立ちを募り始め、つい怒声を上げる。

「貴様ァッ!! わざとやっているんじゃあるまいなッ!?」
「な、なんだよう!? こっちは怪我人だってのに乱暴するのかい!? キャーッ!! 男の人ーッ!!」

 相手がどんな状態であっても、この二人は抑えるという事を知らないらしい。
 セオドシアの叫び声を聞いて、扉を開けて駆け付けたのは男の人……ではなく、シスター・セリシアだった。

「まぁまぁ、どうしたのです? そんなに騒いで……傷口が開いてしまいますよ?」
「シスター……!? ……申し訳ありません……しかし、コイツが中々事情を話さないので……」
「あれだけの怪我ですもの、まだ混乱しているのだわ。結果を急いてしまうのはアナタの悪い癖よ、パジェット」
(おお……あのパジェットさんが黙って叱られてる……凄い……)

 シスターは彼女にとって文字通り頭の上がらない存在なのだろう。珍しいものが見れたと感心しながら、セオドシアの方を見ると、シスターから見えない角度からこめかみに親指を当てながら、目と舌と残りの指をうねうねと動かし、小馬鹿にしていた。

(そんなんだから嫌われてるって言うのに……)

 デクスターは呆れながら、例のクラヴィスについて話を戻す事にした。

「あの影に入る能力、どうすればいいのかな……」
「擬似太陽があるとはいえ、この国にも夜は訪れる……そうすれば影は幾分かは減るだろう?」
「それでも街灯とかはあるからねぇ、まぁ、それは退魔師の例の茨でフォローに当たるとして……あぁ、でも暗闇の中じゃ、退魔師はいつも以上に役に立たなくなるしぃ……私もこの通り動けないわけだしぃ~……」

 そう言いながら、その場に居る全員の視線が、一人に対して向けられる。

「───またぁッ!?」
「仕方ないな、頑張ってくれ、デクスター」
「うん、よろ~」

 驚愕するデクスターを他人事の様に……実際他人事と思っているのだろう、そんな適当な激励の言葉を投げかける。

「クソ~……なんで僕ばっかりこんな……」
「まぁまぁそう言うなって、それにまるっきり一人ってわけじゃあない、助っ人も送ってやるよ」
「助っ人……?」
「超強力な……ね」

 怪我をして動けずにいる癖に、完全犯罪を思い付いた完全犯罪者シリアスキラーの様に不敵な笑みを浮かべる彼女のその言葉に、デクスターは不安を感じずにはいられなかった。

 ◆◆◆

  アイウスの街にて、デクスター達を襲った禿鷹の月住人、クラヴィスは、擬似太陽の光の消えた闇夜の空の下、屋根の上で次の獲物を選んでいた。

「…………?」

 ふとクラヴィスは違和感を感じた。
 それが何かは分からない。ただ、緊張感だけが、ひしひしと伝わってくる。
 次の瞬間、クラヴィスが感じた気配が消える。
 だが、

「見つけたぞ!!」

 クラヴィスの背後に現れたデクスターが大声を上げる。
 クラヴィスは即座に振り返り、デクスターに襲いかかるが、デクスターはその攻撃を避け、距離を取る。

「あっぶね!? 声掛けなきゃよかった……」
「グルルルァァァ……」

 唸り声を上げながら、クラヴィスは浮上し、得意の頭突きを仕掛ける。

「やっぱり来た……!!」

 しかし、それは先の戦いで織り込み済みである。デクスターは自分の足元……屋根の下に潜む『助っ人』に目をやり、その名を叫ぶ。

「来てッ!! 『三位一体の者スリペクトゥム』!!」

 その叫び声によって、屋根のを突き破り、クラヴィスの首を掴む。

「グエッ……!?」

 出て来たのは、セオドシアの死霊術の証である青白い炎に奇妙な模様の付いた骸骨だった。その身体はファリスの胴体、ホワイプスの脚、クラヴィスの羽根を持つ合成獣キメラの姿で出来ていた。

「おぉ……凄い……!!」
「……ガァッ!!」

 クラヴィスは腕を振り解き、飛んで逃げようとする。スリペクトゥムは、ファリスに備わっていた刃でアキレス腱に突き刺し、そのまま屋根に押し潰す。

「グッ……グアアアッ!?」

 クラヴィスは、街灯の灯りによって生まれた影の中に沈み、拘束から逃れようとするが、その光が突然無くなり、影も何もあったものじゃない暗闇に包まれる。

「どれ、見えないが……間に合ったか?」

 そこには、街にある街灯を全て茨で覆い隠し終えたパジェットの姿があった。

「流石です!! パジェットさん!!」

 この暗闇の中では、動ける者は限られる。
 この場に於いては、朔の下、人を狩る存在である月住人と、その朔の世界で同じく狩る者として生きた、デクスターのみ……なのだが、

(クソ!? なんで見えない!? 光に慣れ過ぎたのか……!?)

 デクスターの目は、擬似太陽の下に晒された事で、目が元に戻るまでに時間が掛かってしまう。
 すると、骨が崩される音が闇に響く。

(ッ!? セオドシアのキメラがやられたのか!? 血が足りなかったか……)

 デクスターは、徐々に戻る視界で、弓に矢を携える。

(落ち着け……慌てたら、何も見えなくなる……)

 デクスターは、昔、父から言われた言葉を思い出す。
 落ち着くんだ、焦りは、見える筈のものを見えなくし、獲物に漬け込まれる隙になる……そんな、父の言葉を思い出し、深呼吸をする。
 目がダメなら、耳で探せ。
 デクスターは、音を頼りに、矢を放つ。
 放たれた矢は、風切り音を鳴らしながら、何かに刺さる。

「ギャアアアアアッ!?」
(当たった!! けど仕留めたわけじゃない!!)

 再び矢を携えようとするが、その一瞬の隙にクラヴィスは頭突きが飛んでくる。

「チィッ!?」

 デクスターは体を右に傾け、避けるが、左肩にもろに受けてしまう。

「がぁッ!? この轢き逃げ野郎……肩が……!!」
「デクスター!? 大丈夫か!? 何があった!?」

 これでもう矢は射れない……しかし、

「大丈夫!! ただ肩が外れただけだし、それに……お陰でハッキリと見れるようになったぞ……畜生!! かかって来い!!」

 追い込まれ、目も戻り、腹も据わった。
 やる事は変わらない、あの月住人に、この矢を突き刺す。
 その覚悟を持って、無事な右腕で矢を握りしめ、次の襲撃に備える。
 そして……

「ガァッ!!」

 クラヴィスは暗闇からデクスター目掛け、その頭突きを浴びせようと飛び掛かる。
 デクスターは、その頭突きに向かって走り、あともう少しで衝突という所で、屋根の上に身体を滑り込ませる。

「ウオォォォォッ!!」

 そして、握りしめたその矢を、クラヴィスの眼球に矢に突き刺す。

「グギャアアアアアッ!?」
「ま……だ……!!」

 それだけでは終わらせない、デクスターは飛び去ろうとするクラヴィスに脚を絡めてしがみつき、矢を更に深く突き刺す。
 クラヴィスは苦悶の叫びを上げながら、飛ぶ力も失い、そのまま別の建物の窓に突っ込む。

「今の音……デクスター!?」

 パジェットは茨を緩め、街灯の光を漏らし、何が起こったかを確認する。

「……やはり、勇者だな、お前は……」

 そこには、クラヴィスを倒し、Vサインを掲げるデクスターの姿があった。

「えへへ……けど、やっぱり痛いや……」

 デクスターの身を挺した行動により、クラヴィスは倒され、この日は皆無事に朝を迎える事が出来たのだった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】 台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う! この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。 空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。 台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、 誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。 ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、 先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。 ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、 ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……? 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。 ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。 空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...