弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉

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二章_本編

十五話

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執事アランの名前が途中からアレン、と間違えて表記していました。正しくは『アラン』です。
ややこしい事をしてしまいすみません。
全て見返し、変更致しましたのでご了承ください。



_____________________









あれから俺達は女性を連れ馬車へと乗り込んだ。


当然、手紙で伝えたものは簡潔にしか書いておらずアランからの視線。そして横にはまだ幅があると言うのに此方に詰めてくるヴィンセントに、向かいの席で未だに泣いている女性。


まさしく”カオス”というのに相応しい状況。
その光景をみて思わずため息がもれる。



「セドリア様__」



そう言いかけるアランにすかさず俺は制止の声をかける。




「はぁ……お前の言いたい事は分かってる。__宿で説明するから今は黙っていろ。」




そう言うとアランはしゅん、とした様子で窓の外を見つめる。


またもや沈黙。



早くついてくれ__



その一心で王都へ向かう馬車の中、あまり変化のない外の景色を眺めていた。



当然、最中。
女性のことをずっと女性と呼ぶのに不便なのは変わりない。



なので、ヴィンセントもそれを察し、名前を聞くのを”かなり”嫌がっていたが聞いてくれたおかげで『マリー』という名を聞くことが出来た。



女性の見た目は良くも悪くも普通。
けれどその中で漂う雰囲気は何処か儚げで万人受けはしそうにないが好きな人にはドンピシャなんだろうといった雰囲気。



小説ではヴィンセントの小さい頃の描写はそこまでなかったから会っていたのかどうかも怪しい。



居てもおかしくはないその女性を見て原作を思い出そうとするが、マリーという女性の話について触れていたのを思い出すことも出来ないし、年々薄れゆく原作の知識に頭を悩ませる。



転生して前世を思い出してから七年。
ノートに思い出す度書いてはいるがそれも断片的でいつから本格的に本編が始まるのかどうかも分からない。


けれど今回の遠征は小説であった出来事である事だけはしっかりと覚えている。だから本編にはもう入っているのだろう。


なにせ、ヒロインの一人である婚約者のピンチ。
解決して助けなければ娘である彼女の身柄も危ういときたらヴィンセントが出ざるを得ない。



彼女の印象は原作と変わらず気弱だがしっかりと自分を持っており、やる時はやる女性だ。



初めから居たにも関わらず終盤になってもずっと愛されている姿を見るにそういう所が主人公は惹かれていたんだな、と思う。



今の時期を考えるに他のヒロインと会うのも時間の問題。 全てのヒロインと出会った後、俺は必ずと言っていいほど今までの罪を償う為の断罪の時が訪れる。



今世の俺は彼の事を酷く扱っていないにせよ、口調でもあったように強制力は実在する。



このまま俺がどうなるのか、なんて分からないし原作通りの結末を辿るかもしれない。



今でもその事を考えると不安に思うし、手が震える。
結局は小説で決められたルートを走っているだけ。どう頑張ったとしてもいつか軌道修正はされる。



考えないようにはしているものの、最悪の展開がいつも頭をよぎる。





手の震えを感じながらも、ふと、外に目を向けると賑わう人だかりに並ぶように店が沢山ある。


俺が色々と考えているうちにどうやら王都に着いたようだ。急に止まった馬車の勢いに体が前に傾く。





「__っ」




「……っと。 大丈夫ですか、兄上。」




「……あぁ」




当然のように伸びてくる手。


その紳士的振る舞いに流石は作中一のイケメンモテ男の主人公だとうっかり感動しそうになった。


が……、、、

そういうのは女性にするべきだぞ……ヴィンセント。 目の前に居るだろう、さっきからお前に対し特別な
感情を持った目で見つめている女性マリーが。

未だに手を差し伸べるその手を見つめた。



どうしたものか……。



俺が原作に忠実ではなかったせいで少し……いや、だいぶブラコンに育ってしまった気がする。



だって誰よりも先に降り、俺に手を差し伸べるなんて普通、考えられないだろう__?



もしかして俺の事、女だと思っているんじゃないかと何度も考えたが、当然。なわけないとは思っている。けれど最近の行動を見てそう思わざるを得ないのだ。

いや、けど兄弟でこの距離感は割と普通……なのか?



そんな事を考えながら少しの希望にかけようと。




「ヴィン……。この手は?」




差し出された手を見つめながら答える俺にヴィンセントは不思議そうな顔をしながら首を傾げる。



「? なにかおかしな事でも?」



当然のように答えるその姿に俺は溜息をつき、後ろからはアランの咳払いをするような笑いを堪えた声が少し聞こえる。


いやまぁ、大体こう答えるだろうなぁとは思ってたけど……。



いざ想像通りだと何事もどうでも良くなる。 



差し出された手に素直に置くとそのままエスコートされ、何故か腰に手を当てられる。



その様子に宇宙猫のような表情になるがもういい……。



ほんとにもういいから取り敢えず宿に向かって一休みしたい。



そう思い宿へと歩を進めた。













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