弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉

文字の大きさ
27 / 29
二章_本編

十六話

しおりを挟む





「で、本当にお前は俺達の得になる事を知っているのだろうな。」



威圧しながらそう告げるヴィンセントを俺とアランはベットに座るマリーを見つめる。



ゴクリと唾液を飲む音が女性から聞こえるとゆっくりと口を開く。その頬には汗がつーっと垂れ、険悪な顔で此方を見つめる。



「……貴方達ってレウセル家の情報を探しているのよね、?」


「……何処でそれを?」



その言葉を聞き、威圧感が増すヴィンセント。
それを感じたのかひっ、とか細く声を漏らすマリーは震える声で必死に逃げようとする体を両手で抑え、目を逸らす。



「__あ、知人が……言っていたから。」


「……その知人とは何者だ。何故俺達の情報を知っている? 」


「し、知らないわっ……! けれどそう言っていて、、、水晶に貴方達の事が記されていたからって……。」


聞き覚えのあるその単語に俺はいち早く反応する。


「水晶といったか。」


「……! え、えぇ。」


マリーの言っていた水晶を使った、という事は占いの類。

ここは魔法もある言えばファンタジーな世界。

水晶を使えば他人の情報をある程度理解したり、遠く離れた場所から特定の人物を見ることも出来る、と小説内で見た事がある。

その人物の顔こそ出てこなかったものの、今回の事件。
その知人とやらの協力が必須になってくる事は誰が見ても明らか。

ならば今、この状況はゲームで言えばクエスト……みたいなものなんだろうか。


(小説にクエストも何もないが……原作のヴィンセントは一人で調査を命じられていた。 と考えると彼女の知人の力を借りて解決したのではないか?)


そう思い、未だ不審がる二人を横目に確かに、この事案は俺達にとっても彼女にとってもWinWinの関係かもしれないと考え、座っていた椅子から立ち上がり彼女の前に目線を合わせるよう跪く。


彼女と関係を持っておくのは多分、今後優位に働く。彼女の言う知人と会うまで、存分に利用させてもらおう。


そう考えた俺はゆっくりでいいから、彼女が何に追われているのか。問題を解決する為になるべく優しく問うた。



「交渉成立だ。 君の話を聞かせてくれ。」


するとゆっくりと口を開く女性。
その声色はさっきとは少し違い、話を聞いて貰える、と安心し逸らしていた目を合わせ話し始めた。


「私には小さい頃から家が近所で優しくしてくれるお兄ちゃんがいたの……。昔から私にとても甘くて大体の事はやってのけるお兄ちゃんを私は大好きだった……。大人になってからも優しくて充実した日々を送っていたの。」


それまで話している彼女の顔はとても楽しそうで何が助けて欲しいだ。

ただの惚気じゃないか__

そう思っていた。

けれど次第に彼女の手を濡らす雫が目に入る。



「で、でもあの人。私が一人暮らしをするって言った日から段々様子がおかしくなって……。 最初は町を出ていこうとする私に止める言葉だけだったのに最近では暴力まで振るうようになって__」



彼女は震えながらその日の事を思い出しているのか、青くなっている腕を触れ虚ろな目で一点を見つめていた。

それを見てヴィンセントもアランも何か思うことがあったのか少し表情に変化が見れた。
かくいう俺も同じ。


(行き過ぎた愛情とは残酷なものだ__)


抑えている腕から視線を下に移すと足首には足枷の跡があって閉じ込められていたんだろうと思った。


「……お願い。あの人から私を解放させて、、。」


か細く伝えるその声には少しながらも力が籠ったように聞こえていた。

話し終えた彼女に優しく声をかけるアラン。
こういう所が読者に好かれるのだろうなぁ……。
そう心の中で納得していた俺は彼女の傍を離れ、壁の側まで退いた。

アランとマリーを見る傍ら、静かなヴィンセントの様子も気になり視線を移すとそこには表情を歪めながらも彼なりにマリーを心配していたようで少し安心した。


(この時点での主人公を見ても、俺が残虐な殺し方をされるなんて誰も信じやしないだろうな。)


目の前の光景をじっと見つめほとぼりが冷めるまでその場に立ち尽くしていた。



けれどこの時気づくべきだったのかもしれない。


僅かに聞こえる耳鳴りに少しの頭痛。
そして少しずつ自分の体が思い通りに動かなくなっていることを__







しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる

桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」 首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。 レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。 ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。 逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。 マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。 そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。 近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...