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二章_本編
十六話
しおりを挟む「で、本当にお前は俺達の得になる事を知っているのだろうな。」
威圧しながらそう告げるヴィンセントを俺とアランはベットに座るマリーを見つめる。
ゴクリと唾液を飲む音が女性から聞こえるとゆっくりと口を開く。その頬には汗がつーっと垂れ、険悪な顔で此方を見つめる。
「……貴方達ってレウセル家の情報を探しているのよね、?」
「……何処でそれを?」
その言葉を聞き、威圧感が増すヴィンセント。
それを感じたのかひっ、とか細く声を漏らすマリーは震える声で必死に逃げようとする体を両手で抑え、目を逸らす。
「__あ、知人が……言っていたから。」
「……その知人とは何者だ。何故俺達の情報を知っている? 」
「し、知らないわっ……! けれどそう言っていて、、、水晶に貴方達の事が記されていたからって……。」
聞き覚えのあるその単語に俺はいち早く反応する。
「水晶といったか。」
「……! え、えぇ。」
マリーの言っていた水晶を使った、という事は占いの類。
ここは魔法もある言えばファンタジーな世界。
水晶を使えば他人の情報をある程度理解したり、遠く離れた場所から特定の人物を見ることも出来る、と小説内で見た事がある。
その人物の顔こそ出てこなかったものの、今回の事件。
その知人とやらの協力が必須になってくる事は誰が見ても明らか。
ならば今、この状況はゲームで言えばクエスト……みたいなものなんだろうか。
(小説にクエストも何もないが……原作のヴィンセントは一人で調査を命じられていた。 と考えると彼女の知人の力を借りて解決したのではないか?)
そう思い、未だ不審がる二人を横目に確かに、この事案は俺達にとっても彼女にとってもWinWinの関係かもしれないと考え、座っていた椅子から立ち上がり彼女の前に目線を合わせるよう跪く。
彼女と関係を持っておくのは多分、今後優位に働く。彼女の言う知人と会うまで、存分に利用させてもらおう。
そう考えた俺はゆっくりでいいから、彼女が何に追われているのか。問題を解決する為になるべく優しく問うた。
「交渉成立だ。 君の話を聞かせてくれ。」
するとゆっくりと口を開く女性。
その声色はさっきとは少し違い、話を聞いて貰える、と安心し逸らしていた目を合わせ話し始めた。
「私には小さい頃から家が近所で優しくしてくれるお兄ちゃんがいたの……。昔から私にとても甘くて大体の事はやってのけるお兄ちゃんを私は大好きだった……。大人になってからも優しくて充実した日々を送っていたの。」
それまで話している彼女の顔はとても楽しそうで何が助けて欲しいだ。
ただの惚気じゃないか__
そう思っていた。
けれど次第に彼女の手を濡らす雫が目に入る。
「で、でもあの人。私が一人暮らしをするって言った日から段々様子がおかしくなって……。 最初は町を出ていこうとする私に止める言葉だけだったのに最近では暴力まで振るうようになって__」
彼女は震えながらその日の事を思い出しているのか、青くなっている腕を触れ虚ろな目で一点を見つめていた。
それを見てヴィンセントもアランも何か思うことがあったのか少し表情に変化が見れた。
かくいう俺も同じ。
(行き過ぎた愛情とは残酷なものだ__)
抑えている腕から視線を下に移すと足首には足枷の跡があって閉じ込められていたんだろうと思った。
「……お願い。あの人から私を解放させて、、。」
か細く伝えるその声には少しながらも力が籠ったように聞こえていた。
話し終えた彼女に優しく声をかけるアラン。
こういう所が読者に好かれるのだろうなぁ……。
そう心の中で納得していた俺は彼女の傍を離れ、壁の側まで退いた。
アランとマリーを見る傍ら、静かなヴィンセントの様子も気になり視線を移すとそこには表情を歪めながらも彼なりにマリーを心配していたようで少し安心した。
(この時点での主人公を見ても、俺が残虐な殺し方をされるなんて誰も信じやしないだろうな。)
目の前の光景をじっと見つめほとぼりが冷めるまでその場に立ち尽くしていた。
けれどこの時気づくべきだったのかもしれない。
僅かに聞こえる耳鳴りに少しの頭痛。
そして少しずつ自分の体が思い通りに動かなくなっていることを__
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