『サイコー新聞部』シリーズ

Aoi

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Ⅱ. 革命

第漆話 タオルを巻く男とスカートを履く女

「ねえ、ヒマリ。私たちも散歩行かない? 気分転換にもなるわよ」
 私は思わず顔をしかめる。今日はもうこれ以上動きたくないのだ。
「嫌だよ。もう脚が動かないもん。それに、アカネちゃんと違って、こっちは一日中ギターケース背負ってたんだよ。散歩なんてしたらぶっ倒れちゃう」
「じゃあお風呂行く? それならリフレッシュになるでしょ」
 お風呂か。それなら悪くない。私は頷いた。私たちは部屋でコンタクトレンズを外し、下着と浴衣を手に持つと、一緒に宿の風呂場に向かった。私はうつむきながらアカネちゃんの背中についていく。少し歩くと暖簾のれんが掛かった扉に突き当たった。
「ここね」
 扉の横に札がかかっていた。字は読めないが、目を凝らして見ると女性のシルエットが描かれているのが分かった。どうやら今は女湯のようだ。
「アカネちゃん、今は女湯みたいだよ」
「おっ、サンキュー。私、視力0.1以下だから、さっぱり見えないのよね。ヒマリは?」
「0.1ある……はず」
「なるほどね」
 そんなことを言いながら、私たちは暖簾のれんをくぐった。
「かー、極楽極楽」
 アカネちゃんは風呂に浸かるとおじさん臭く息を漏らした。この人、実は背中にチャックがあって、中におじさんが入ってるんじゃないだろうか。
「おじさん、ここは女湯ですよ」
 私が体をシャワーで洗いながら言うと、アカネちゃんが精一杯低い声を出しておじさんを演じる。
「いやいや。お嬢ちゃんこそ、そろそろ男湯はまずいんじゃないかい? もうあと一年もすればランドセルも卒業だろう?」
「誰が小学生だ! 高校生だわ!」
 私は思わず立ち上がる。たとえ冗談でも、せめて中学生と間違えてほしい。まあ、幼児体型なのは認めざるを得ないが……
「アハハ、冗談を言うのは下の毛が生えてからに……あれ? 貴女あなた、意外と濃いのね」
 アカネちゃんが私の股間を目を細めて凝視する。私は急いでしゃがみ込み、思いつく限りの悪口を連呼した。
「バカ! エッチ! 変態! 痴漢! アホ! エロジジイ! えっと、あとは……中村茜!」
「最後のはさすがの私も傷つくわ」
 私は体を手で隠しながら急いで湯船に入った。そしてお返しと言わんばかりに横目でアカネちゃんをじっと見つめる。
「なによ。そんなに私の魅惑のボディが羨ましいわけ?」
 魅惑のボディねぇ……たしかに手足はスラリと長く、肌は透き通るように白い。理想的なスレンダーボディだ。でも……
「いや。ただ、私の幼児体型を馬鹿にするわりには、アカネちゃんもそんなに大きくないなぁと」
「なっ……」
 視力が悪いせいで顔はぼやけて見えるが、顔を紅潮させているのはよく分かる。せっかくだ。さっきの仕返しに、もう少しいじめてやろう。
「あれ? コーセーくんには揉んでもらってないの?」
「揉っ……あ、あるわけないでしょ!」
 アカネちゃんは顔を真っ赤にして怒鳴る。どうやらアカネちゃんの心臓にはしなびたおじさんの心と純粋な乙女の心が同居しているらしい。乙女の恥じらいというものを知っていたことにひとまず安堵あんどする。
「もし二人きりになりたかったらいつでも言ってね。邪魔者はそそくさと撤退するから」
「さすがに貴女を追い出してまでイチャイチャしないわよ」
「じゃあ私の前で存分に愛を育んでくれていいよ」
「存分にって、私に3Pをする趣味はないんだけど。まあでも、謹んで愛を育むことにするわ」
「そうだね。避妊は大事だよ」
「そういう意味の謹んでじゃない!」
 アカネちゃんにとっての唯一の急所はコーセーくんらしい。いつも飄々ひょうひょうとしている彼女だが、赤面しながら叫んでいる姿はきっと可愛らしいはずだ。濡れるの覚悟で眼鏡を持ってくればよかった。いや、さすがにルール的にダメか。
 それにしても、恋する乙女は可愛くなるというのは本当みたいだ。今のアカネちゃんをコーセーが見たらどんな反応をするだろう?
「コーセーくんに見せてあげたいなぁ」
 私がそう呟いた時、風呂場の扉が開いた。誰だろう。私は目をじっと凝らす。おっ、噂をすればなんとやら、コーセーくんじゃないか。いやいや、本当にナイスタイミ……ん? コーセーくん?
「へ?」
「は?」
「え?」
 浴場に沈黙が訪れる。3人はお互いを見やり、回らない頭で状況を理解しようとする。約5秒の間が過ぎたあと、私たちは声を合わせて絶叫した。
「なんでコーセー(くん)がいるの!?」
「なんで2人がいるの!?」
 私たちは急いで体を隠し、コーセーくんは更衣室に駆け込む。しかし、もう手遅れだ。悲しいことにコーセーくんの恥部が脳裏から離れない。向こうもきっと同じ状況だろう。「忘れろ! 忘れろ!」と言いながら頭を叩いている音が聞こえる。そんな叩いたら気絶するんじゃないだろうか……一方、アカネちゃんの方を見ると、彼女は完全に放心状態でお湯に浮かびながら天井を仰いでいた。

「コーセーくん、ちゃんと入口の札見た? いまはここ女湯だよ」
 ヒマリが扉ごしで叫ぶ。女湯だって? 僕は更衣室の扉を少しだけ開いて隙間から札を見る。札にはちゃんと「男」と書かれている。
「ヒマリ、確認したけど、いまは男湯だよ」
「ええ!? なんで!?」
 こっちこそ、「なんで!?」だ。どうしてあれを見て女湯だと勘違いするのだろう? 
「ヒマリは一体何を見て女湯だと思ったの?」
「女性のシルエットよ。そうでしょ、ヒマリ?」
「うん。私、間違いなく見たよ」
 シルエット? 僕はもう一度札を見に行くと、「男」という文字の下に、腰にタオルを巻いた男性のシルエットが描かれている。これはどこからどう見ても男性だ。ヒマリは幻でも見ていたのか? ……いや、待てよ。
「二人とも、目はいい?」
「目? いまコンタクトしてないから、私もヒマリも全然見えないけど」
「でも、いくら悪いって言ったって、男性のシルエットと女性のシルエットを見間違えたりはしないよ」
「ちなみに、女性のどんなシルエットだった?」
「どんなって、トイレとかにある感じの、スカートを履いた女性のシルエットだったけど」
 ビンゴだ。
「ヒマリ、今かかっている札に描かれているのは、腰にタオルを巻いた男性のシルエットなんだ」
「腰にタオルを巻いた……あっ!」
 どうやらヒマリは気づいたようだ。
「タオルとスカートを見間違えたんだね」
「ヒ~マ~リ~」
「ごめんごめん。なんか胸が小さいなぁとは思ったんだけど……」
 たしかにあれじゃあヒマリの胸と大差ないか……とは口が裂けても言えない。それはともかく、今他の客が来たらまずい。僕は更衣室の鍵をロックした。

「いま男湯なら、私たち、早く出たほうがいいよね」
 ヒマリがそう言うと、アカネは低くうなった。
「でも入ったばっかなのよね。いま出るとなんか気持ち悪いし……」
「大丈夫だよ。受付で名簿を見たら今日はほとんどが女性客だったし、一応更衣室の鍵もロックしているしね。まあ、扉を開けようとする人がいたら僕が対応するよ」
 扉の向こうの二人にそう伝えると、
「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」
「コーセーくん、ごめんね」
 さて、さすがに全裸で待機すると寒いし、バスタオルを巻くか。僕は全身をバスタオルで包んで、風呂場の扉にもたれかかった。
 目をつむりながら二人を待っていると、自然と先ほど見た二人の一糸いっしまとわぬ姿が思い出される……
 ハっ、いけない、こんことを考えるなんて、まるで変態みたいじゃないか。なにか別のことを考えなきゃ。そう思ってなんとか頭を回転させようとするも、思考は環状線のように一周してまた最初の駅に戻ってしまう。二人の裸体が頭から離れない。こうなったら、会話で気を紛らすしかない。何か話題は……そうだ。
「二人とも、ちょっといいかな。さっき散歩したときに、ミドリさんの話についてちょっと考えたんだ」
 そう言って僕は、メビウスの輪のような僕の推理を説明し始めた。
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