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第12話 Miss White Smoke
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僕たちは駅の近くの喫茶店に入った。僕はホットコーヒー、ヒマリと苅谷さんはアイスコーヒー、アカネはメロンソーダを頼んだ。
「なんで夏なのにホットコーヒーなのよ」
いや、なんで喫茶店に来たのにメロンソーダなんだよ。シリアスな雰囲気が台無しだった。
「さて、どこから話そうかな」
苅谷さんが言うと、ヒマリが尋ねた。
「そもそも、苅谷さんはお姉ちゃんとどうやって知り合ったんですか?」
苅谷さんは少し口元に笑みをこぼして、
「そうだな。そこから話そう。アイツはライブハウスに突然現れたんだ。まるで台風が来たみたいだった。今でも覚えているよ」
外は深い霧が立ち込んでいた。雨の日のライブハウスはいつもがら空きだ。客はほとんど来ない。ステージ前で、2、3のバンドのメンバーたちが退屈そうにしている。私以外のバンドメンバーたちもやる気を失っている様子だった。私は客席に座ってギターのチューニングを合わせていると、奥の方で扉が開いた音がした。
そいつはギターを背負ってずぶ濡れでやって来た。身長は低く150cmもないが黒い髪が腰まで伸びていた。
「本当に酷い雨ね。体が雨で流されちゃうんじゃないかと思ったわ。ねえ、貴女たち、バンドやってるのよね。もしよければ、私も入れてくれない? ボーカルとギター、それと作詞もいけるわ」
最初は冗談かと思った。私を含め、ステージ前にいた人間はみんな彼女の相手をしなかった。彼女は少し不満そうな顔をすると背負っていたギターを取り出し、私の隣の席で歌い始めた。andymoriの『Sunset & Sumrise』。
Sunset & Sumrise 嘘つきは死なない
Sunset & Sumrise 争いはやまない
Sunset & Sumrise 欲しいものは尽きない
Sunset & Sumrise 悲しみは消えない
圧倒的だった。確かに、音程はところどころデタラメで、ギターは荒削りだ。しかし、彼女は正真正銘本物のミュージシャンだった。彼女は歌い終わると、私の顔をじっと見つめた。黒くて大きな眼だ。じっと見つめていると、何だか吸い込まれそうな気がする。彼女は悪戯っぽく笑って、
「一品限り、早いもの勝ちよ」
気づけば私は彼女の手を取っていた。
私のバンドはいわゆるインストバンドだった。ギターは苅谷緑、ベースは前田若菜、ドラムは田村萌恵、バンド名は『Green Sisters』。高校の同級生が集まった平凡なバンドだった。
「そのバンド名って、みんなの名前が緑色に関係してることからつけたのよね。でも私『真白』なんだよね。どうしようかな?」
マシロは腕を組んで少し悩んだ後、目を輝かせて嬉しそうに言った。
「こんなのはどうかしら?」
Green Sisters & Miss White Smoke
『Miss White Smoke』。霧の中から現れた謎の少女。彼女にぴったりの名前だった。
Green Sisters & Miss White Smokeは小さなライブハウスの中で大きな人気を博した。マシロが作詞し、私が作曲した曲は、コピーバンドが演奏するヒットナンバーよりは青臭く不細工ではあったけれど、熱を求めてやってきた客たちの心を鷲掴みにした。曲だけではない。マシロの歌声は他のボーカルたちと一線を画していた。地声より低いその声は、苦しいほどに真っ直ぐで剥き出しだった。マシロの熱狂的なファンも何人か現れた。しかし、彼女に最も惹かれていたのは間違いなく私だった。私はマシロの側でギターを弾きながら、彼女の才能に震えていた。
「なんで夏なのにホットコーヒーなのよ」
いや、なんで喫茶店に来たのにメロンソーダなんだよ。シリアスな雰囲気が台無しだった。
「さて、どこから話そうかな」
苅谷さんが言うと、ヒマリが尋ねた。
「そもそも、苅谷さんはお姉ちゃんとどうやって知り合ったんですか?」
苅谷さんは少し口元に笑みをこぼして、
「そうだな。そこから話そう。アイツはライブハウスに突然現れたんだ。まるで台風が来たみたいだった。今でも覚えているよ」
外は深い霧が立ち込んでいた。雨の日のライブハウスはいつもがら空きだ。客はほとんど来ない。ステージ前で、2、3のバンドのメンバーたちが退屈そうにしている。私以外のバンドメンバーたちもやる気を失っている様子だった。私は客席に座ってギターのチューニングを合わせていると、奥の方で扉が開いた音がした。
そいつはギターを背負ってずぶ濡れでやって来た。身長は低く150cmもないが黒い髪が腰まで伸びていた。
「本当に酷い雨ね。体が雨で流されちゃうんじゃないかと思ったわ。ねえ、貴女たち、バンドやってるのよね。もしよければ、私も入れてくれない? ボーカルとギター、それと作詞もいけるわ」
最初は冗談かと思った。私を含め、ステージ前にいた人間はみんな彼女の相手をしなかった。彼女は少し不満そうな顔をすると背負っていたギターを取り出し、私の隣の席で歌い始めた。andymoriの『Sunset & Sumrise』。
Sunset & Sumrise 嘘つきは死なない
Sunset & Sumrise 争いはやまない
Sunset & Sumrise 欲しいものは尽きない
Sunset & Sumrise 悲しみは消えない
圧倒的だった。確かに、音程はところどころデタラメで、ギターは荒削りだ。しかし、彼女は正真正銘本物のミュージシャンだった。彼女は歌い終わると、私の顔をじっと見つめた。黒くて大きな眼だ。じっと見つめていると、何だか吸い込まれそうな気がする。彼女は悪戯っぽく笑って、
「一品限り、早いもの勝ちよ」
気づけば私は彼女の手を取っていた。
私のバンドはいわゆるインストバンドだった。ギターは苅谷緑、ベースは前田若菜、ドラムは田村萌恵、バンド名は『Green Sisters』。高校の同級生が集まった平凡なバンドだった。
「そのバンド名って、みんなの名前が緑色に関係してることからつけたのよね。でも私『真白』なんだよね。どうしようかな?」
マシロは腕を組んで少し悩んだ後、目を輝かせて嬉しそうに言った。
「こんなのはどうかしら?」
Green Sisters & Miss White Smoke
『Miss White Smoke』。霧の中から現れた謎の少女。彼女にぴったりの名前だった。
Green Sisters & Miss White Smokeは小さなライブハウスの中で大きな人気を博した。マシロが作詞し、私が作曲した曲は、コピーバンドが演奏するヒットナンバーよりは青臭く不細工ではあったけれど、熱を求めてやってきた客たちの心を鷲掴みにした。曲だけではない。マシロの歌声は他のボーカルたちと一線を画していた。地声より低いその声は、苦しいほどに真っ直ぐで剥き出しだった。マシロの熱狂的なファンも何人か現れた。しかし、彼女に最も惹かれていたのは間違いなく私だった。私はマシロの側でギターを弾きながら、彼女の才能に震えていた。
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