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第2話|目が合わない違和感
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翌日から、湊は営業二課に顔を出す機会が増えた。
総務の業務上、書類の受け渡しや確認が続く。理由はそれだけ——のはずなのに、フロアに足を踏み入れるたび、胸の奥が妙に落ち着かなかった。
「……失礼します」
声を抑えて入ると、いつもより空調が低い気がした。
いや、違う。自分が少しだけ緊張しているだけだ。
視線を落とし、書類を指定の場所に納める、
その途中、ふと——視界の端に“あの人”が入った。
綾瀬 遥斗。
昨日と同じ、整ったスーツ姿。
背筋がまっすぐで、資料に目を落とす横顔がやけに静かだ。
(……見られてない、よな)
そう思った瞬間、目が合った。
一瞬。
ほんの一瞬なのに、湊は足を止めてしまう。
綾瀬は、すぐに目を逸らした。
まるで、見ていたこと自体をなかったことにするように。
(……気のせい、か)
湊は首を振り、用件を済ませる。
書類を渡し、確認事項を伝え、頭を下げる。それだけのはずだった。
「——あ、ちょっと」
低い声が、背中に落ちた。
「はい?」
振り返ると、綾瀬が立ち上がっていた。
「この数字、念のため確認したい。少し時間いい?」
業務的な内容。
それだけなのに、湊はなぜか喉が詰まった。
「だ、大丈夫です」
近くのデスクに寄る。
綾瀬が資料を指で示す。その手元に、視線が吸い寄せられた。
(……手、綺麗だな)
思ってしまって、慌てて目を逸らす。
「ここ、合ってる?」
「はい。昨日の時点で更新されてます」
「そっか。助かる」
短い会話。
それだけなのに、空気が不自然に静かだった。
綾瀬は、湊を“見ない”。
けれど、確かに意識しているのが、逆に伝わってくる。
(……なんだろ)
湊の胸に、小さな疑問が残る。
その後、エレベーター前で再び二人きりになった。
「総務、大変そうだな」
不意に、綾瀬が言った。
「え、あ……慣れるまでは」
「無理すんなよ」
初めて会話らしい会話をした。
それが妙に嬉しくて、、、
エレベーターが到着する。
扉が閉まるまでの数秒。
「じゃ」
降りる階で、綾瀬が先に出る。
「お疲れ」
「……お疲れさまです」
扉が閉まる。
その瞬間、湊は気づいた。
——綾瀬が、最後までこちらを見なかったことに。
なんでだろう。普通人と話す時って目と目を合わせるよな。
綾瀬さん、最初から俺の目を見てなかった様な、、、
湊の中でちょっとした違和感が生まれていた。
一方、綾瀬はというと。
エレベーターを降りたあと、静かに息を吐いた。
(……はぁ)
何緊張してんだ、俺。
あんな狭い密室で二人きりになって、しかも面識もないこの俺と。
緊張するのは湊の方だろ。
近くにいるだけで、こんなに気を遣うとは。
“目を逸らす”という選択をしなければ自分の気持ちを一気に全部持っていかれそうで怖かった。
綾瀬は、何もなかったようにデスクに戻った。
周りには気づかれないように。
総務の業務上、書類の受け渡しや確認が続く。理由はそれだけ——のはずなのに、フロアに足を踏み入れるたび、胸の奥が妙に落ち着かなかった。
「……失礼します」
声を抑えて入ると、いつもより空調が低い気がした。
いや、違う。自分が少しだけ緊張しているだけだ。
視線を落とし、書類を指定の場所に納める、
その途中、ふと——視界の端に“あの人”が入った。
綾瀬 遥斗。
昨日と同じ、整ったスーツ姿。
背筋がまっすぐで、資料に目を落とす横顔がやけに静かだ。
(……見られてない、よな)
そう思った瞬間、目が合った。
一瞬。
ほんの一瞬なのに、湊は足を止めてしまう。
綾瀬は、すぐに目を逸らした。
まるで、見ていたこと自体をなかったことにするように。
(……気のせい、か)
湊は首を振り、用件を済ませる。
書類を渡し、確認事項を伝え、頭を下げる。それだけのはずだった。
「——あ、ちょっと」
低い声が、背中に落ちた。
「はい?」
振り返ると、綾瀬が立ち上がっていた。
「この数字、念のため確認したい。少し時間いい?」
業務的な内容。
それだけなのに、湊はなぜか喉が詰まった。
「だ、大丈夫です」
近くのデスクに寄る。
綾瀬が資料を指で示す。その手元に、視線が吸い寄せられた。
(……手、綺麗だな)
思ってしまって、慌てて目を逸らす。
「ここ、合ってる?」
「はい。昨日の時点で更新されてます」
「そっか。助かる」
短い会話。
それだけなのに、空気が不自然に静かだった。
綾瀬は、湊を“見ない”。
けれど、確かに意識しているのが、逆に伝わってくる。
(……なんだろ)
湊の胸に、小さな疑問が残る。
その後、エレベーター前で再び二人きりになった。
「総務、大変そうだな」
不意に、綾瀬が言った。
「え、あ……慣れるまでは」
「無理すんなよ」
初めて会話らしい会話をした。
それが妙に嬉しくて、、、
エレベーターが到着する。
扉が閉まるまでの数秒。
「じゃ」
降りる階で、綾瀬が先に出る。
「お疲れ」
「……お疲れさまです」
扉が閉まる。
その瞬間、湊は気づいた。
——綾瀬が、最後までこちらを見なかったことに。
なんでだろう。普通人と話す時って目と目を合わせるよな。
綾瀬さん、最初から俺の目を見てなかった様な、、、
湊の中でちょっとした違和感が生まれていた。
一方、綾瀬はというと。
エレベーターを降りたあと、静かに息を吐いた。
(……はぁ)
何緊張してんだ、俺。
あんな狭い密室で二人きりになって、しかも面識もないこの俺と。
緊張するのは湊の方だろ。
近くにいるだけで、こんなに気を遣うとは。
“目を逸らす”という選択をしなければ自分の気持ちを一気に全部持っていかれそうで怖かった。
綾瀬は、何もなかったようにデスクに戻った。
周りには気づかれないように。
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