優しく恋心奪われて

静羽(しずは)

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第3話|先輩が気になる、そんな日

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その日の午後、フロアに少しだけざわめきが広がった。



「今日の夜、軽く飲み行かない? 新人歓迎も兼ねてさ」



誰かの声が聞こえて、湊は手を止めた。

歓迎会、という言葉に、何だろって考えると同時に



(あ、そっか!)



自分が主役になる側なのだと、今さら気づく。



「湊くん来れるかな?」



先輩社員に声をかけられ、湊は慌てて頷いた。



「は、はい。大丈夫です」



その返事をした瞬間、

——視線を感じた。



反射的に顔を上げると、少し離れたデスクで、綾瀬がこちらを見ていた。



目が合う。



今度は、逸らされなかった。

ほんの数秒。

それだけなのに、湊の鼓動が一段階速くなる。

綾瀬は静かに口を開いた。



「俺も行くよ」



それだけ言って、また視線を落とす。



なんでもない一言。

それなのに、湊の中で飲み会の存在が急に現実味を帯びた。



——飲み会。

——同じ場所。

——少し、距離が近くなる場所。



(……普通の、会社の飲み会だよな)



自分に言い聞かせるように、湊は息を整えた。



一方で、綾瀬は。



(……行かない選択肢は、なかったな)



湊が人に囲まれる場所。



——飲み会。

——同じ場所。

——少し、距離が近くなる場所。


(少しは、、、話せるかな。自然に。ごく自然な感じで仲良くなれたら、、、)


クールな表情を崩さず飲み会に期待していた。

飲み会まで、あと数時間。

あともう少しだ。
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