「先輩、その距離は反則です!」

静羽(しずは)

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第40話|大きな暖かい手のぬくもり

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綾瀬の大きくて温かい手がふいに湊の頭の上に置かれた。



「、、、え?」



驚いて顔を上げる間もなく綾瀬はその手を離さなかった。
触れたい、という衝動が湊に触れた瞬間理性の縁を越えてしまったかのように。
指先が自然と栗色の髪をなぞっていく。



「、、、髪、綺麗だな。少し染めてる?」



頭を撫でられる心地よさに胸の奥がふわりと緩む。
湊は小さく頷きながら答えた。



「は、はい。ほんの少しだけです。気づかれない、くらいに、、、。」



視線を泳がせて付け足す。



「、、、やっぱり、気づいちゃいますか?」



綾瀬はそのままゆっくりと髪に触れ続けながらどこか楽しそうに笑った。



「うん。俺は客相手だから染めるのは禁止されてるしな。湊はいいよ。この色、すごく似合ってる。」



情報処理システム課は営業よりも身だしなみの規定が若干緩い。
そんなことを思い出しながら湊は小さく息を吸った。



「、、、ありがとう、ございます。」



そう答える声は少しだけ照れを含んでいた。
綾瀬の指先が、髪の流れに沿ってゆっくりと下がり、
ほんの少し軌道を外して、、、。
湊の耳に、触れた。
その一瞬。
湊の肩が小さく跳ねたのを綾瀬ははっきりと感じ取った。


「、、、んっ」



喉の奥から、抑えきれなかった音が零れる。
はっとして湊は慌てて口元を手で覆った。




「あっ!」
 


視線を伏せ、焦ったように続ける。 



「す、すみません、、、俺、、、耳、弱くて、、、。」



その言葉と赤くなった耳元を見た瞬間。



ドクン。



胸の奥で何かが大きく脈打ち綾瀬の中を一気に衝撃が駆け抜けた。
綾瀬は一度ほんのわずかに距離を取った。
触れていた指先に残る熱を名残惜しそうに自分の中へ引き戻した。



「、、、ごめん。」



低く、抑えた声。
謝っているのに視線だけは湊から離れない。
近づきすぎれば壊してしまいそうで、離れれば今度は自分が耐えられない。
その狭間で綾瀬は立ち尽くしていた。
湊は言葉を探せずただ小さく息を整える。
胸の奥がさっきよりもはっきりと速く脈打っている。
沈黙が二人の間に甘く張りつめた。



「あ、、、いや。ごめん。本当に悪かった。」



ふいにもう一度。
今度は少しだけ柔らいだ声で綾瀬が謝る。 



「いえっ全然、大丈夫です。」



湊は慌てて首を振る。



「俺こそ、、、変な反応しちゃって。すみません、、、。」



そう言いながら目を伏せる。
湊の顔は分かりやすいほど真っ赤になっていた。
それが『どういう弱さ』を指すのかくらい察しないわけがない。
そんな姿見られて恥ずかしいって思うのは当然だ。
綾瀬は何も言わず、ただじっと湊を見つめていた。
沈黙が長く伸びる。
その空気に耐えきれなくなったのは湊のほうだった。



「あ、あの!そろそろ、部署に戻らないと!」



慌てたようにそう言って振り向き真っ赤に染まった耳を片手で隠しながらその場を離れようとする。
けれど綾瀬はその後ろ姿を穏やかに見送ることができなかった。

ガッ、と。

逃げる湊の腕を力強く掴んだ。



「う、っわ、、、!」



不意を突かれ湊の身体がぐらりと傾ぐ。
体勢を崩したその瞬間。
倒れる前に綾瀬は迷いなく腕を引き寄せ湊を自分の胸の中へ抱き込んだ。
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