美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第29話 願わくば

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 ミーナが……なんでか数日ほど前からさらに距離感を縮めてきている。
 食事時にもべったりくっついてきて……甘えたかったのかな。
 恋人になって数日。まだまだ距離感が分からない。
 でもやっぱりこういうのを理解するっていうのが必要なんだなとしみじみ思った。
 僕も彼氏として嬉しいけど、シルヴィさんとアイリさんもいる手前ミーナだけというわけにはいかないよね。
 案の定二人も驚いてたし、近いうちにフォローしないといけないと思う。
 でもなんで急にミーナは距離を縮めて来たんだろう?
 思い当たるのは耳かきだけど……ちょっとピンとこなかったというか。
 予想では獣人族にとって耳かきはやっぱり何かしらの意味があったんじゃないかと思うんだよね。
 デリケートな問題の可能性もあるので、帰ってから調べることにした。

 荷物をまとめておいた。
 リザード便の時間の確認も問題ない。

 皆がこの村に来てくれてから今日で3日。明日にはリザード便でグリルの街に帰ることになった。
 結局あれからも問題は起こらず安心できるだろうということを村長のザックさんから伝えてもらった。
 その際にお礼として村の名産品を渡された。
 こんなに良くしてもらっていいのかな、とは思ったけど、アランさんから遠慮しすぎるのも逆に失礼だと言われたことを思い出して受け取った。
 そうして街への帰りを控えた前日の夜。
 僕は魔石に灯った明かりで読書をしていた。
 表題は『龍王』。もう物語も終盤だ。今日中には読み終わることもできるだろう。


 ◇ ◇ ◇


『其の者が喉を震わせれば山脈が割れ、大地が裂けた。
 腕を振るえば天さえも平伏す。
 抗いは無駄だった。
 後には物言わぬ屍の山が築かれた。

 詩人は謳う。

 龍の女王と目を合わせてはいけない。
 彼女は人ではない。』


 ◇ ◇ ◇


 なんかいつかのアランさんが言ってたことと同じようなこと書いてるな。
 でもやっぱり格好いいよなぁ。
 というかここで性別判明か。ようやく明記されていた。
 名前とかから薄々察してはいたけどやっぱり女性だったのか。
 けどなんでこんな後の方で?

 僕はクライマックスに向かった物語のページを捲った。









「それで用件は? 私はもう寝るところ……」

 ミーナをアタシの部屋に呼んだ。
 シルヴィが見たらしいことの事実確認のためだった。
 アタシも気になってたことだ。
 やけに気合の入ったシルヴィと一緒にミーナを問い詰める。

「なんでミーナは昨日の朝……その、トーワの部屋から出てきたんだ?」

 シルヴィが見たらしいんだけどよ。と続けた。
 アタシも最初に聞いたときには信じられなかった。
 まさかとは思うが、確認はしないといけねぇ。

「そんな分かり切ったことを聞いてどうするの?」

「な!?」

 驚きのあまり目を見開いた。
 淡々としたミーナの告げた言葉だったが、どことなく自慢気なのは決して気のせいじゃないだろう。
 アタシだって二人の距離が近いのは察していた。
 あれだけ仲睦まじくしてたらそりゃ気付く。嫉妬もあったけど、驚きもあった。
 いきなり二人が距離を縮めてたのには本当にびっくりして声も出なかったが。

「お、お前……やったのか!?」

「やった」

 シルヴィがその場に崩れ落ちた。
 これで正妻争いはミーナが一歩どころか大幅リードだろう。
 アタシも衝撃を受ける。
 トーワの初めてはアタシが欲しかったが、切り替えないといけない。ここで置いていかれるわけにはいかねぇ。

「ミーナさんが……一番目に……」

 ふふん……と、ミーナが胸を張る。
 こいつはどうやってあの真面目なトーワを篭絡したんだ?
 いや、そうじゃねぇ。そこも気にはなるけど……

「……気持ちよかったか?」

 ミーナはもう処女じゃないってこと……だよな?
 挿入れられるってどんな感じなんだろう。
 気になりすぎるな……

「うん……奥まで入れられて……引っ掻かれたり、出し入れされて……気持ち良すぎて気付いた時には朝だった」

 そして、ミーナが頬を染めた。
 続けて説明してくる。
 アタシたちはそれをただ息を呑んで聞いているしかなかった。

「耐えることが出来たのは……少しだけだったと思う。いや、正確に言えば耐えられなかった。本当に気付いたときには意識がなかった」

「そんなに激しかったんですか!?」

 シルヴィが驚いていた。
 勿論アタシもだ。あいつミーナをそんなすぐに失神させたのか!?
 ふいにお腹に熱を感じた気がした。

「激しくはなかった。むしろ凄く優しくて、浅いところばかり責められて焦らされた」

「トーワの奴そんな意地悪いことするのか……意外だな。ってことは……その、あれだ。あー……み、短かったのか?」

 照れ臭くて顔に熱を感じた。だけど今回ばかりは好奇心が勝った。
 そういう責め方するってのがなんとなくトーワらしくないな。
 もしかしてトーワはベッドの上で性格が変わるのか?
 普段とのギャップを感じる。
 サイズに関しては……別にあいつが短小でも気にしないけどよ。むしろ可愛いって思う。

「いや、そんなことはない。私の穴に収まりきらない程の長さだった」

「そんなにっ!?」

 思わずシルヴィと一緒に声をあげていた。
 ミーナの小柄な体をじっと見つめてしまう。
 マジかよ……ごくりと唾を飲み込んだ。
 あいつそんな凶悪な……ど、どうすんだよこれ。明日からなんとなく顔合わせづらいじゃねーか。

「そこまでなのか……ってシルヴィ? どこ行くんだ?」

「トーワさんに頼んできます」

「は!? お、おい! 待て! 待てって!」

「ま、待てません! 何でミーナさんだけ……ずるいです! 私もトーワさんにしてもらうんです! 優しく焦らされたりとか!」

「お前、デートの後じっくり関係を深めていくのが恋人ですよね、とか言ってただろ!」

「忘れました!」

 コンコン

 その時部屋の扉がノックされた。
 シルヴィの奴が硬直していた。
 だ、誰だ? 宿屋の奴らはアタシたちに声かけないだろうし。
 入ってくれと促すと顔を見せたのはトーワだった。
 ミーナが嬉しそうに名前を口にしている。

「あれ、皆一緒だったんですね」

「ああ、悪い。アタシに用事だったか?」

 トーワに変わった様子はない。アタシ達の話は聞かれてなかったようだ。
 そこで気付いた。
 もしかしてこれ初めてのお誘いだったんじゃ……
 けど、トーワは大して気にした様子もなく――まさかこいつ、3人でやるつもりじゃ……初めては二人きりがいい……
 し、しくじった気がする。アタシは内心落ち込んだ。

「すいません夜分遅くに」

「い、いえ……っ」

 シルヴィもそれに思い至ったのかソワソワしていた。
 ミーナは嬉しそうな顔をしてて余裕に見える……っ!

「皆が集まってて丁度よかったかもしれません」

 や、やっぱり!?
 二人がいいけど、トーワが全員でっていうなら……まあ、拒否なんてしないけど……

「あの、聞きたいことがあるんですけど」

「な、なんだ? どうした?」

 1冊の本を見せてくる。
 な、なんだ? 官能小説か? そういうプレイのお誘いか? こういうのがしてみたいとか……?
 あ、あんまり過激なのは……でもトーワが望むなら……
 心臓が痛いくらい動いてる。アタシの顔はどうなってるんだ。

「持ってきた本の、えーと、冒険譚なんですけど」

 ……自分の考えが恥ずかしくて顔が熱くなった。
 そういう誘いじゃなかった……
 シルヴィも勘違いに気づいたのか両手で顔を覆い天を仰いでいた。
 ミーナは……こいつ、不思議そうな顔して……!
 あんな話されたら勘違いすんだろっ。
 ああっもうっ!
 失敗したわけじゃなくて安心したような、トーワにそのつもりがなかったことが残念だったような……
 複雑な気分だった。気を取り直してトーワの話を聞いた。
 トーワが持ってきた1冊の本に目を向ける。


 ◇ ◇ ◇


『その後、彼女はとある冒険者パーティーに加入することになる。
 どんな相手だろうと信じるに値しないと断じた龍王だったが、もしかすると思うところでもあったのかもしれない。
 願わくば”銀翼”の者たちが龍王の永きに渡る孤独を癒してくれることを願うばかりだ。』


 ◇ ◇ ◇


 ああ、これか。
 これはあいつの冒険譚だな。
 そういえば本になったんだったか。以前に拠点で自慢されていたことを思い出す。
 もしかしてトーワはアタシと本について語りたくて来てくれたのか?
 仲間の冒険譚とかなんか見る気が起きなくてまだなんだよな。
 トーワの話から見所聞いてから読むのも悪くないか。
 けど、最近ではアタシの方も色々あって読めてなかったからな。こういうのは久々だった。
 こいつが楽しみにしてくれてるってのは嬉しいけど、そうだとしたら悪いことをしたかもしれない。

「皆のパーティー名って銀翼でしたよね? ひょっとしてなんですけど……他にもメンバーいたりします?」

「え、言ってなかったのか?」

 アタシはミーナとシルヴィを見た。
 首を振られる。
 ってことはトーワは知らなかったんだな。

「いるぞもう一人」

 普段から索敵とか任せてたから、銀翼として活動がほぼできないんだよな。
 でも活動実績を滞らせることもできなくて迷宮に潜ったらシルヴィが状態異常になったりして大変だった。
 分かってはいたつもりだったけどやっぱり索敵は大切だ。
 それから4人揃うまで迷宮に潜るのは控えようってなったんだ。

「あの、今ここにいないってことはもしかして……」

「いやいや、違うぞ? あいつは里帰りしてるんだよ。”龍族”の里は遠いから時間もかかってるんだろ」

 動揺するトーワを慌てて否定する。
 気を遣わせたみたいだけど、そんな必要はない。
 アタシ達の関係は良好だ。
 それを聞いて安堵した様子のトーワが妙に緊張しながら聞いてくる。

「……その人のお名前とか聞いても?」

 なんでトーワがこんなに緊張してるのかは分からないが……
 代表してアタシが答えた。

「リズ・ドラグニル。その本を読んでの通り”龍王”って呼ばれてるやつだ」










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