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第14話 とりあえず空を仰いだ
しおりを挟むニーナさんは事態を重く受け止めすぎている。
男の唇なんてそんなに有難がるものではない。
だけどニーナさんは懺悔する。
まるで人を殺してしまったとでも言わんばかりに。
再び額を床につけるニーナさん。
そのまま一向に顔を上げようとしない。
後悔に体を震わせて僕の言葉を待っている。
まるでその時を待つ罪人のように。
「えっと、僕気にしてないから大丈夫ですよ?」
むしろ嬉しかったくらいだ。
役得だったとさえ思っている。
しかし、ニーナさんはそうは思わなかったようだ。
「……お願いがあります、一生のお願いです、どうか聞いていただけないでしょうか……?」
「……? なんでしょう……?」
土下座は気になったけど僕はひとまず続きを聞くことにした。
彼女は後悔に震える声で口を開く。
「わ、私゛……は……っ、う、うぁ゛あ……!」
その言葉はニーナさんの嗚咽で聞こえなかった。
居た堪れなくなり傍に膝を下ろす。
「ニーナさん……顔上げてください……」
「う、うぅ゛ぅ……!」
呻き声しか返ってこなかった。
それでも何とか無理矢理に体ごと起こさせた。
仮面はしていない。
目はどこか虚空を彷徨う様になっている。
「いや、色々と気にし過ぎです。ほんとに大丈夫なので……」
どれだけ純粋なんですか貴女は。
ニーナさんの顔色は優れない。
元々白かった顔の色は真っ青を通り越してまるで死人のように血の気が引いている。
僕の言葉が強がりから来るものだと思っているのかもしれない。
あるいは異性との接点がないニーナさんはその行為をどこか重要視し過ぎているのだろうか。
「ごめん……な、さい……! 私は……さ、最低です……」
また頭を下げられる。
状況を整理しよう。
たぶんだけど僕にキスしたことに罪悪感を感じてる、でいいんだよね。
どうするか……ここで、もし冗談でも死ねと言えばニーナさん本当に死ぬと思う。
そのくらいの気迫を感じる。
「ユウトさん……」
その声は弱々しく今にも消え入りそうだった。
「嬉しかったんです……」
「……何がでしょう?」
ニーナさんからこれ以上ないほどの覚悟を感じる。
思わずその狂気のような感情に飲まれそうになった。
そして、絞り出すように言ってくる。
「ユウトさんが優しくしてくれたことが……わ、私、初めてだったんです……」
そして、ニーナさんは続ける。
「……私は、ユウトさんを一人の男性としてこの世の誰よりもお慕いしています」
それは身を斬るような告白。
再び額を床につけながら。
女の子に好きだと言ってもらえて嬉しくない男がいるはずもない。
それが気になっている女の子であれば尚更だ。
なのになぜだろう。
何とも言えない。
「あーと、ですね……まあ、えっと……ありがとうございます……」
そうして土下座の姿勢をキープしたままのニーナさんからすすり泣く声が聞こえてくる。
僕は思わず窓の外を見た。
「わ、私……は、そんなユウトさんを……け、穢してしまいました……」
僕は穢れたらしい。
ニーナさんを横目に僕はどこまでも続く青空に想いを馳せた。
今日は晴天かな。
軽く現実逃避を終えて僕に気持ちを伝えてきた女の子を見る。
初めて告白された。
ただ土下座しながら伝えられるとは思わなかった。
隣の下方向に視線を向ける。
気になってる女の子が土下座をしていた。
「ぐすっ、ぅ……うぇえ……ひっぐ……っ」
この状況で僕はどうすればいいんだろう。
もう一度窓の外を見る。
憎々しいくらい澄み渡った青空だった。
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