13 / 22
第13話 それは日常と化した異常
しおりを挟むああ、夢か。
すぐに分かった。
白い部屋に僕はぽつんと立っていた。
これまでのことを思い返す。
地球でのこと。
アトランタでの勇者としての生活。
そして、この世界に来てからのことを―――
ニーナさんへの対応はとても厳しいものばかりだった。
今のところ誰もニーナさんに優しく……とは言わないまでも普通に接しようとする人さえいなかった。
『どう思う?』
人の世は残酷だ。
地球でも、アトランタでも、この世界ディーネでも変わらない。
人間は差別が大好きな生き物だ。
僕の中に彼女に対する同情がないとは言い切れない。
誰か一人くらいは味方をしてもいいんじゃないかと、そう思っている。
何故容姿が人より劣っているだけでここまで嫌われるのだろう。
疑問はある。
この世界に来てから僕には理解できないことばかりだった。
なんでなんだろう。
何故―――
唯の一人もニーナさんの味方がいないんだろう。
『おかしいよね?』
おかしい。
このディーネという世界の人たちの性格が悪いと言えばそれまでだ。
それまでと言えばそれまで……だけど。
地球にいた頃を思い出す。
容姿が劣る人もいた。
だけど明るい性格だったとか、優しい性格だったとかで。
それなりに上手くやってる人もいた。
性格が悪かった人もここまでじゃなかった記憶がある。
ニーナさんほど嫌われてはいなかったと思う。
考えすぎ……なんだろうか。
『いや、当たってるよ。君は正しい』
勿論ニーナさんの美貌がこの美醜の逆転している世界では僕の想像を超える醜女に映っている可能性も否定は出来ない。
この世界の価値観が分からない僕にそれを確かめる術はない。
だけど過去に見たその誰もが、ニーナさんとの比較対象としては軽すぎる。
ニーナさんの嫌われ方はハッキリ言って異常だ。
『そう、その通り』
なぜここまで容姿で格差が生まれているんだろう。
転移して数日の僕でも……いや、転移したばかりの僕だからこそ分かる。
明らかに度を超えている。
これでは、まるで―――
『……考えすぎかな』
『あははっ、いやいや! イイ線いってたよ!』
僕は後ろを振り返る。
そこには――――がいた。
『僕は―――だよ。君――――た――――』
『?』
聞こえない。
まるで虫食いのように言葉のあちこちにノイズが走る。
『ごめんね、時間がないんだ。これから言うことを良く聞いてほしい』
僕は黙って続きを待った。
状況が理解できない。
それでも聞かないといけない気がした。
『ハーレムをつくってほしいんだ』
『ハーレム……?』
『出来れば君の価値観で言うところの美人、この世界で言うところの不細工な子と肉体的な接触をしてほしい』
『………』
『ダメかい? 一応この世界は一夫多妻が常識だよ?』
『いや、ダメと言うか……理由を聞いてもいいですか?』
『ああ、それは――――が、この―――――で―――――さ』
まただ。
言葉が遮られる。
声の主が困ったように笑った。
『うーん、まだ駄目なのか……』
しばらく悩んだように首を捻った。
すると―――は……ぽんっ、と手を叩いた。
『うん、分かった! それならムールの街の神殿に来てほしい』
『神殿?』
『君がこの街に来た門は東門でね。その丁度反対側にあるはずだよ、たぶんそこでなら――――も――――だ』
『まあ……大した手間でもないからいいですけど……』
僕としても聞きたいことはあった。
そこまで時間がかかることでもないので了承する。
『うんうん、ありがとう! ここでの記憶はしばらくしたら思い出せるはずだよ。思い出したら来てほしい。待ってるよ』
立ち去ろうとする―――を、僕は慌てて呼び止める。
『最後に一ついいですか?』
『ん? なに?』
その質問は何か根拠があったものではなかった。
ただ、不意に頭に浮かんだ。
分かり切った問いかけ。
『なんで僕だけ価値観が違うんですか?』
異世界人だから。
価値観の違う世界から来たから。
そう言われると思った。
しかし、その予想は外れることになる。
僕の問いに―――は、くくっ、と笑って答えた。
『それは君が――――』
◇
目が覚める。
アトランタでは野宿することも多かったので僕はどこでどんな体勢だろうと眠ることができる。
それでも椅子で眠るのはあまり疲れが取れる姿勢ではない。
体が凝るし節々が痛い。
「んっ、んー……」
体を伸ばして凝り固まった筋肉を解した。
ニーナさんを寝かせておいたベッドを見る。
僕はあの後ニーナさんを連れて帰った。
鍵などはかかっていなかった……というか扉が開きっぱなしだったのでそのまま寝室に行きニーナさんを寝かせたのだ。
様子を見ながら椅子に座り僕も眠りに……って感じだ。
ニーナさんは……いない。
先に起きたのだろうか。
「……?」
なんだろう、何か引っかかる。
思い出そうとして思い出せないときみたいな感覚。
夢を見ていた……と思う。
けどそれがどうにも不明瞭だ。
「うーん」
考えてても仕方ないかな。
とりあえずニーナさんを探さなくては。
昨日のことをニーナさんは覚えているのだろうか。
ゆっくり眠れたなら多少は治ってると思うけど……
にしてもやけにボーっとする。
なんだろう? 疲れが取れていないんだろうか?
少し話は変わるけどこの世界は魔石を使った魔道具を使用してかなり高水準の生活を保っている。
さすがに地球には及ばないけど、清潔な水くらいならある程度のお金で用意できる。
これは僕にとってありがたかった。
というわけで顔でも洗ってさっぱりしよう。
寝起きでボーっとする頭で洗面台を借りるために立ち上がる。
ずむっ。
「ん?」
何かを踏んでしまう。
なんだろう?
凄いスベスベする何かが足元に―――
ニーナさんだった。
「うぉおっ!!?」
微動だにしないから気付かなかった。
よく見たらニーナさんが僕のすぐ隣で土下座していた。
どうやら僕は土下座しているニーナさんの頭を踏みつけてしまったらしい。
「す、すみません! あの……痛くなかったですか? え、というか何してるんですか?」
ニーナさんの後頭部に話しかける。
この光景はどこかで見たことがある。
というかデジャヴだ。
昨日と言い今朝と言い、ニーナさんの後頭部を目にする機会が最近やたらと多い。
「とりあえず頭上げてください」
「で、でもっ、わ、私っ! とっ、取り返しのつかないことを……っ!」
心当たりのあった僕はニーナさんの艶のある唇に目を向けた。
ああ、やっぱり気にしてたか。
10
あなたにおすすめの小説
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる